2008年12月30日火曜日

アンドリュー・ワイエス展



会期最終日に近い暮れの休日に、BUNKAMURAザ・ミュージアムに出かけて、「アンドリュー・ワイエス 創造への道程」と題する絵画展を見てきた。私はA.ワイエスが好きで、特に彼の描くテンペラ画にとても魅かれている。

顔料に蒸留水と卵黄を混ぜて作る絵具で描かれるテンペラ画には、繊細な線描を何層にも重ね、極細の筆が生み出す超高画質のスクリーンのようなリアリティがある。また、鉱物質の油絵の具とちがった有機質の゛つや゛があり、独特の温かみが生まれる。大変な制作時間と労力を要する技法だが、ワイエス自身も゛この色の感じが好きで゛テンペラ画を数多く手がけている。

本展のカタログ表紙、「松ぼっくり男爵」のドライブラッシュを掲載している


今回の企画展は、ワイエスがひとつのテーマで作品を制作するにあたり、鉛筆素描ー水彩ードライブラッシューテンペラと、四つの技法で描かれた習作と完成品を網羅して展示する、という意欲的なものだった。そのため、その大半はワイエス夫妻所蔵品からの出品で、製作過程を様々な角度から見ることが出来る水彩画はとても貴重なものであった。またコレクター(丸沼芸術の森)からの出品も半数近くあり、各美術館や個人所蔵からの出品を含めて、色々な人の協力で開催されたものだった。

「松ぼっくり男爵」も、何枚もの鉛筆による素描、部分的に色づけされた水彩、ヘルメットや松ぽっくりの 何枚ものパーツ画、より緻密なドライブラッシュの色づけ、それらすべての習作を経てからテンペラ画が完成されている。

その一枚ごとの、作品としての完成度(レベル)は非常に高く、ワイエスが制作に費やした膨大な時間と集中力を垣間見た気がした。テンペラ画に描かれた緑の松葉と道に敷かれた落ち葉は、左方向からの光に微妙に反射して輝いている、その質感が素晴らしい。本展のタイトルに「創造への道程」と名づけられているが、私ならば「制作の極意」と名付けたいと思った。

鹿の毛と後方の潅木に目を奪われた「ジャックライト」、有刺鉄線に引っかかった雑草が面白かった「粉引き小屋」、シリ・エリクソンの若々しい裸像と風になびく金髪が美しい「そよ風」、テンペラ画は出品されなかったがまるで建築のようにパーツ画が組み立てられて完成した「さらされた場所」、などなど...画像を掲載することはできないが、150点にも及ぶ素敵な作品たちを堪能することが出来た。

絵画展を見る時は何時も、自分自身がコレクターであり懐に?億円ほど持っていると思って見ることにしている。今回は「雪まじりの風」を入手することに決めた。荒野の道に吹き溜まった雪と、上空で強い風に舞う点々とした雪の塊りに息が詰まるようなインパクトを感じた。ヒューッ、ヒューッ、という風の音を聞いた。心に染み入る風景は、ワイエスならではのものだと改めて思った。

速いもので、今年もあと一日、一年の過ぎるのが本当に速く感じる。
このブログも、ボサノヴァをメインとした音楽シーンに向かうことも多かったが、やはりアートシーンや花と旅、食とマクロビォテック、など、まだまだ触れてみたい事柄が多くあるので、来年も引き続きブログへの掲載を心がけていきたいと思う。見ていただく方たちも、乞うご期待を!

それでは皆さん、良いお年をお迎えください!

2008年12月21日日曜日

リカバンド・ライブ


                   □バンドメンバーを率いて、乗りのいい歌を聴かせるリカさん Photo by TAKA
久し振りに地元のジャズ&ブルースバーadd9thを訪れた。その夜は菊地リカさんヴォーカルの「リカバンド」・ライブを聴くためだった。毎回ご案内をいただくのだが、なかなか聴く機会がとれずにいたので、今回はスタート前にカウンターに陣取り、約2時間半の唄と演奏を楽しむことができた。
リカさんの歌声はやや低めのアルト系だが、声量が豊かで伸びがある。リズムに乗った歌いっぷりには表情が溢れ、仕草もしなやかだ。バンドの音作りはジャズPfの内田さんがまとめているが、若いTs奏者の北川君が歌をアシストし、Tpの松原君がまたそれに呼応する。Bsの千秋さんが低いビートを刻み、佐藤君がPsを叩き、Dsの花見さんがリズムを作っていく。20代の若者と40代(?)歌姫と50代のおじさんらが作り出すバンドの音は、なかなか迫力があり表現も豊かだ。
この夜もジャズのスタンダードナンバーが中心であったが、バラードの゛Masquerade゛と゛Shadow Of Your Smile゛がとても良かった。また、ラテン・リズムの曲もこのバンドは得意なので、゛Night In Tunisia゛と゛No More Blues(ボサノヴァのChega De Saudage・英語版)゛は乗りがよく迫力があった。
欲を言えば、やはりジャズギターがほしい。金管の音とは違った爪びやかな音が加わってほしい。また、リカさんには、リズムや乗りだけでなく、言葉の美しさをより追求すればもっとふくらみが出てくる、と感じた。

















表情たっぷりに歌うリカさん Photo by TAKA
毎回、このバンドの出演日は満席に近く、立ち見(立ち聴き?)となることもある。30人ほどで一杯になったリスナーたちの反応はよく、今宵も歌と演奏を大いに楽しんだようだ。お客に一人ひとりあいさつするリカさんの姿が印象的だった。
来週の土曜日は、今年最後のセッションがある。この店に集うミュージシャン(卵も含めて)たちが、持ち歌やコラボ曲やデュエット曲を用意して、大いに楽しむ夜だ。出たとこ勝負でうまく曲を歌い演奏できればヤンヤヤンヤ! 果たして何が出るやら、私もとても楽しみにしている。

2008年12月16日火曜日

冬魚の味噌粕漬け


新米が獲れると、その新米で今年の新酒 が醸造される。その絞り粕がこの時期お店に出てくる。大手酒造メーカーの醸造用アルコール入りでなくて、純米や吟醸酒の酒粕を使うと、大変美味しい魚の粕漬けが出来る。
鮭と鰤、木瓜の味噌粕漬け 調理と撮影 by TAKA
西京味噌を使った粕漬けが市場には出回っているが、白味噌に水飴と酒精を加えてあるので結構甘い。私は吟醸酒粕と玄米味噌を使って造る。さわやかな粕の香りに濃厚な赤味噌を少し加えると、上品で味わい深い粕漬けが出来上がる。オリジナルな味噌粕漬け、というわけです。
魚の材料はの時期の魚ならなんでもOK。ただし、鯛や平目、マグロやカンパチなど、刺身で美味しく食べられる魚よりも、やや水っぽくて刺身には不向きな銀鱈(ギンダラ)・マナ鰹・シャケ・鰤(ブリ)・鰆(サワラ)や、烏賊・帆立貝・平貝などが味噌粕漬けには向いている。また、キュウリやナス、セロリなどの野菜も相当に美味しく漬けあがる。
まず味噌粕を作る。ボールに入れた酒粕(300g)にお酒(1/3)と味噌(1/3)を加え、一晩寝かしてからバトラーでよく攪拌する、これだけ。面倒な人は、ミキサーで即混ぜるといい。魚は塩をたっぷり振って2時間ほど冷蔵庫に入れた後、にじみ出た水分をペーパータオルで拭いておく。
次に、左写真のように、バットの底にペーストになった味噌粕をへらで薄く塗りつけ、その上に魚や野菜を載せていく。この時も、へらで万遍なく具材に味噌粕を塗りつけるといい。うまく並べたら、ガーゼを切ってその上に載せ軽く押さえる。これがポイント、味噌粕の旨みが魚と野菜に染み込んでくれる。後はラップをかけ冷蔵庫で2~3日漬け込む。
食べるときには味噌粕を水で洗い流してから、魚は焼いて、野菜はそのまま切っていただく。両面に焦げ目が付くくらいがいい。漬けた次の日に食べても美味しいが、やや浅漬かりなので物足りないかも。4~5日漬け込むと、やや濃厚な味となる。その辺りはお好みで。私はちょっと意地汚いので、味噌粕をへらでこそいで残し、もう一度野菜を漬ける。魚の旨みが加わって、これもまた美味しい。
雑魚が高級魚に変身するこの味噌粕漬けは、醸造文化を培ってきた日本人の知恵(やや大袈裟か?)であり、冬の食卓に悦びを運んでくれる一品となる。冬魚の程よく脂が乗り、漬け込んだコクのある旨味は日本酒・焼酎との相性も良く、温かいお酒と共に食すと、家に居て料亭気分が味わえる。
極楽、極楽...

2008年12月6日土曜日

BRISA DA BOSSA

                        □KSさんがデザインしてくれた素敵なプログラム

ジョアン・ジルベルトの来日公演が延期の末結局中止になってしまい、ここ4~5日はボーっと過ごしてしまった。とても楽しみにしていただけに気落ちも大きくて、御年77歳で、再びの来日はありうるのか?こころ落ち着かぬ日々でもあったが...
11月30日に、荻窪のライブハウス・アルカフェを借り切って、「TIME FIVE HARMONY SQURE・ボサノヴァ教室」の発表会が開催された。名前は長いが、中村善郎田町教室のメンバーが集まって、ボサノヴァの歌とギター演奏を大いに楽しもうという会であった。

会場のアルカフェは、座席20人位の程よい広さ、PAが整っているので音響も良いし、佐々木店長夫婦の家庭的なもてなしでとても寛げるスペースだ。一段上がったステージはライティングも明るく、広すぎず狭すぎず、出演者たちは、皆のびのびと唄い、ギターをかき鳴らすことができる。私自身もここで、ショートライブ(5人のミュージシャンが一人4~5曲づつ演奏)や2曲ライブ(一夜10人のミュージシャン)で何度か出演しているが、とても気持ちよく唄えるスペースであること請け合いだ。

゛発表会゛と名打つ会合は堅苦しくなり勝ちである。日ごろの練習の成果を競う、ということで上手くやらなくちゃと変に緊張する。また、友達や知り合いを呼んで聴いてもらおう、ということで有名なライブハウスや大規模ホールを高値で借りたり、チケットを売りさばくため負担がかかったり...とにかく背伸びしてしまうことも多い。どうしたら、゛皆で普段のまま音楽を楽しんでいい時間を過ごせるか?゛ 今回の幹事を引き受けて準備しこの日の進行に気配りしたのも、すべてこの一点に焦点を絞ってであった。

この日、11人の出演者が20曲のボサノヴァを披露した。皆のびのびと唄い、演奏していた。「みんなそれぞれのサウダーヂがピカピカ光って素敵でしたね~ぇ。涙がでるやら、ホカフカ暖まるやらで、すっかり私も和ませて頂きましたよ~ぉ。また次の機会を楽しみにしています」と、リスナー参加でポル語のX'mas Songを歌ってくれたKMさんが後でメールを送ってくれた。中でも良かったのは、飛び入りのOH君のウクレレとHBさんのギターによるコラボ曲゛イパネマの娘゛、他楽器とコラボレーションの楽しさを味あわせてくれた。それと、KAさんとHBさんの゛Est Seu Olhar/Só Em Teus Braços゛、MKさんとHBさんの゛Isaura゛、ともにデュエットの楽しさを改めて感じさせてくれた。自分の歌と演奏を高めていくことはもちろん大切だが、さらに一歩違ったステージでの゛コラボレーション゛や゛セッション゛を実現できると音楽はより一層面白くなる。
FOTOGRAFIAを唄うMKさんと伴奏するYGさん Photo by TAKA

もちろん、私一人の力ではとても及ばないので、司会・会計・プログラム作成・写真撮影・会場の試飲試食など、メンバーの方達に分担してもらい積極的に手伝ってもらったのも、前向きの参加を意識していただいたことにつながったと思って、皆に感謝している。私自身は今回、ボサノヴァを2曲(サンバで  ゛Tristeza゛、ボッサの名曲゛Manha De Carnaval゛)弾き語りしたが、気持ちよく唄えた。中村師匠のモットー:譜面見ず、フレット見ず、リズム取らず、が出来たのも良かったと感じている。また、余興でウクレレの゛Volare゛と゛恋のバカンス゛を弾き語りしたが、これが以外に評判が良かった。気を良くして、ウクレレ・ボッサをレパートリーで増やそうかなぁ、と不埒な気持ちを抱いてしまった。
今宵ご参加のメンバーたち / デュエットを熱唱するKAさんとHBさん / 盛り上がっているKMさん、TAKA、YGさん Photo by Iwanaga
ここアルカフェや地元のジャズバーadd9thでは、よくセッションやコラボ、デュエットを楽しむことが多い。今後皆とやるボサノヴァ会でも、歌、ギター、他楽器などで多様な楽しみ方を一緒に味わえたらより良いなぁ、と思っている。