2009年2月27日金曜日

中村+パネ二人会



師匠中村善郎のライブを聴くのは、昨年の目黒パーシモンホールでのライブ以来で、なかなか出かけられないでいるのを、今回は私の好きなピアニスト、フェビアン・レザ・パネとのデュオなので、これは行かなくっちゃ! と江古田BUDDYまで繰り出した。

パネさんのピアノを知ったのは、2005年にリリースされたジャズシンガーMAYAのアルバム「LOVE POTION NO,9」でだった。このアルバムの曲アレンジとピアノ演奏(アルバムうちの6曲)を聴いて、そのセンスの良さとピアノの音色にすっかり魅惑されてしまった。MAYAのハスキーでしっとりした歌声に寄り添い絶妙のタイミングでキーをたたいているかと思えば、ソロの場面では力強く軽やかにグンと前に出てくる感じで、存在感あるなぁ~! と強い印象を受けた。なかでも、桑田圭佑&サザンオールスターズのカバー曲をポル語で歌った「Verão Trirte 夏をあきらめて」とラテンの名曲「La Espera」が出色のできで、これ以来、アンドレ・ギャニオン、クレン・グールドに加えて私の好きなピアニストの一人となっている。最近では、東京12CHの音楽番組「ミューズの晩餐」(土曜の夜放映)に、司会の寺脇康文と川井郁子と並んでレギュラー出演し、ゲスト出演者の歌伴奏を担当しているが、私も時折この番組を見て楽しんでいる。

この夜、中村さんの演奏と歌は凄かった。特に、「BATUCADA SERGIU」のバチーダは、Gt演奏のスピード感といい、津軽三味線のようなバチバチ音また、ベース(5・6弦)タッチの素早さなど、聴いていて圧倒された。パネさんのピアノも、滑降するがごとく、また、素早い刻み音で呼応していて、聴き応えがあった。この曲を私自身は詞内容からあまり好んでいなかったが(何か人種差別的なにおいを感じて)、二人の演奏を聴いて、こういう素晴らしい解釈もあることに心を打たれた。ボサノヴァのスタンダード・中村オリジナル・パネピアノオリジナル・アンコール曲も入れて全21曲を二人で演奏したが、くつろいだ中にも緊密な音の会話があり、デュオの楽しさを改めて味わせてもらった。

パネさんのピアノオリジナル曲「Hope In A Picture」は、高原で撮った写真をモチーフにしたものだ、と本人は言っていたが、私には、抜けるような青い空と陽を浴びて輝く木々の紅葉が見えるようで、美しい曲だと感じられた。絵画的といってもいいのだが、カナダの美しい自然をモチーフにしたアンドレ・ギャニオンのピアノ曲に似たナチュラル感を私は味わった。中村さんは、パネさんの演奏を聴いて、この曲は゛最近良く飲むようになった日本各地の銘水を思わせるね、水の音が聞えるようだ゛と言っていた。トム・ジョビンもそうであるが、ボサノヴァには精神的なコアの部分として「NATURALIST」の魂が脈々と流れているように思う。かく言う私も、ボサノヴァ中での好きな曲、あるいは自分が作るオリジナル曲には、そういっだ゛ナチュラルな感性゛を表現者として目指したいな、という思いがある。

最後の曲となった「Chega de Saudage」は、ステップを踏むようなサンバのリズムで、アンコール曲の「Primvera」は、バイアンの♪ンチャーチャ♪で、この2曲が素敵だった。中村さんが歌い演奏した「月影のビオラ」を聴いて、パネさんが、゛私がこれからやろうとしている曲(Every Step Of Life)゛に、なんか似てるね、メロディとかぜんぜん違うんだけれど゛と言ったのでちょっと可笑しかった。二人とも、派手なパーフォマンスは一切無しでほとんどGtPfにへばりついている様な演奏姿勢だし、物静かだし、でも歌い演奏し始めるとググッ~と独自の世界に引き込んでいくような...やはり究極のプロなのだと思う。コンビを組んで20年と中村さんは言っていたが、この20年の月日の゛継続は力なり゛を感じたデュオライブであった。

ただ、ひとつ気になったのはぱらぱらと目立つ客席である。これだけの実力者でも集客はなかなか大変である。私のホームグランドであるジャズ&ブルースのライブバー狛江add9thでも、プロのライブの日に満席にするのは難しい。Kenyaマスターも、集客の困難さをぼやいている。ところが常連客のSession日となると、歌いたい人、演奏したい人、その友だちで立錐の余地もない。お酒はガンガン飲んでくれて水揚げもたっぷりだ。ある意味でプロ受難の時代であるかもしれない。プロとアマの境界線がぼやけて来ている、一方で、ネットの情報収集やカルチャー教室のレッスンで歌や演奏の技量を磨いて、人前で歌ったり一緒に音時間を楽しみたい人たちが増えているのだ。こういう層を如何にライブハウスの運営に結び付けていくかが、これからのテーマとなるように思う。

2009年2月24日火曜日

TAKAのコラボ第一弾 : SATOKOさんを迎えて
























Gt&Vo:TAKA、Pf&Vo:SATOKOで気持ちよく唄い演奏できた今回のコラボ Photo by SATOKO

私のライブ・ホームグランドのひとつにしている荻窪の゛アコースティック・ライブカフェ・アルカフェ゛で、6人(組)のミュージシャンが集まり、恒例の「ひとり20分・ショートライブ」があった(2/22)。私は今までここに10回程ギターやウクレレの弾き語りで出演し、様々なミュージシャンたちとの交流を楽しんで来た。そして、基本的なスタンスとして、オリジナル曲を作って唄う、また、色々な楽器の演奏に創意工夫を凝らすミュージシャンたちを、プロであれアマチュアであれ、【 リスペクトする! 】ということにしている。彼らの詞やメロディの流れをじっくりと聴いて、その個性的な世界を楽しもうと思って何時も参加している。

今年は、゛色々なミュージシャンとコラボする゛のが私のテーマであり、今回はシンガーソングライターでピアニスト・ギタリストでもあるSATOKOさんを迎えて、ボサノヴァのスタンダード曲を一緒にやろう! という試みであった。彼女はボサノヴァのライブ歴も多く、なおかつ中村善郎ボサノヴァ教室の先輩であり、若手の実力派なので、胸を借りるには格好の共演者というわけだ。

この夜は、詞・曲ともトム・ジョビン作の「Vivo Sonhando 」と「Corcovado」2曲を、私がギターの弾き語りで唄い、彼女にピアノソロと伴奏をしてもらった。そして、「Água de Beber」と「Mannhã de Carnaval」2曲をピアノ弾き語りで彼女が唄い、私がギター伴奏と歌のハモリを入れて演奏した。私は、彼女のピアノの素敵な音色でとても気持ちよく唄えたし、彼女の歌に沿ってハモルことが出来て嬉しかった。「Água de Beber」では、ほぼ満席のお客や出演者も乗ってくれて盛り上がりを感じることが出来た。

しかしながら、初めてSATOKOさんと共演し、当日の短いリハーサルとライブを通じて、色々な課題も見えてきた。まったく別の個性がひとつの曲を一緒に表現するのであるから、適正なテンポと正確なリズムは必須であり、特にアップテンポの曲はきっちり合わせることが大切。また、私はハモリが好きで色々な人と声を合わせるのだが、その人なりの唄い方やリズムに゛寄り添っていく゛ことが、綺麗なハモリのコツだと思う。その点ではやはり、それなりの時間をかけて準備が必要と実感。リハーサルで上手く行っていても、本番でイントロを跳ばしたり、マイクにギターぶつけたり etc...ま、よくある事だけれどもね!

ただ、今回も感じたのだが、いいライブハウスというのは歌と演奏をちゃんと聴ける環境が整っている、ということだ。彼女もそれを言っていたが、PAしかり、ライティングしかり、客席とステージがきちんと区別されていること、程よい広さと寛げる客席であること、出演者紹介や進行が適切であること、等々..
その点では、ここアルカフェは客席20余だが、演奏し唄っていてもまた、聴いていてもとても心地よい空間であることが嬉しい。

私の音友でフルート奏者のTM君も、この夜友達を連れて私たちのライブを聴きに来てくれ、素敵な写真も撮ってくれた。ありがとう! そして、手弁当で共演してくれたSATOKOさん、ほんとにありがとう! また、機会があったらよろしくお願いしますね!

3月には、ボサノヴァ・ギタリストのチャーリーさんとのコラボを横浜で、フルートのTM君とのコラボを狛江add9thで予定している。なんか、武者修行をしている気分になってきたぞ~!

アルカフェ : http://alcafe.incoming.jp/

2009年2月20日金曜日

咲き始めた早春の花々



紅梅もなかなか美しい:唐梅・神代植物園 All Photo by TAKA


春は名のみの 風の寒さよ~♪  立春が過ぎて20日は雨水、一雨ごとに暖かくなっては行くが、春の天気は変わりやすい。昼間は陽が差して暖かくても、午後からは風が出てきてまだまだ寒い。
私の住む狛江市は、真ん中を野川が流れ多摩川に注いでいるが、両岸の遊歩道がサイクリングやジョギング用に整備され、一段下がった川の両岸も土のまま残されて、犬の散歩やウォーキングをする人が多い。川底までンクリートで固めた護岸ではないので景観が保たれ、鴨や鯉もたくさん見られる。桜並木は近所の名所で、シーズンには訪れる人で賑わう。両岸の人家の庭に咲く花を借景しながら、この遊歩道を20分ほど自転車でゆっくり走り、途中から三鷹通りを経て神代植物園に行くコースが好きで、季節の折に触れて植物園を訪れることにしている。

深大寺は浅草寺に次ぐ都内第二の古拙で、武蔵野の国分寺崖線の際に建てられており、湧水が豊かで門前には蕎麦屋が軒を連ねる。蕎麦はいわゆる一番轢きなのでやや黒みがかった色合いで、野趣溢れる味が人気だ。このお蕎麦やお焼きなどの店を覗きながら隣接する神代植物園に向かう。植物園は以前は寺領であったが、昭和32年に緑地公園として開園後現天皇が皇太子としてご成婚の折、今の名前に変えられたと聞く。
白梅の白難波、花弁が大きく見事な咲きっぷり:同園


神代植物園は都内随一のバラの名所でも知られて
いるが、広大な園内には様々な花が溢れていて四季ごとに楽しめる。ちょうど今頃は梅の咲き初めで色々な種類の梅花が見られ、訪れる人も多い。梅園では、足元に水仙、隣りにもう咲き終わりの蝋梅や咲き始めのマンサク、馬酔木や椿花も見られる。
ケーキのモンブランのような不思議なかたちのシナマンサクの花
:同園
この日も朝早起きして開園と同時(9:30)に入園し梅花を見て廻った。緑顎系の゛月の桂゛や゛大輪緑顎゛は、蕾が緑色で開花にしたがって白色に変わっていくと言う゛色変わり゛が面白い。白花と紅花が同じ木に

咲く゛輪違い゛は、白と赤のコントラストがきれいで、同じ木で二色の花が楽しめるのが珍しい。そう言えば、新宿御苑にも゛源平桃゛というやはり白花紅花が同木に咲く銘木があるが、名前はそちらの方が勇ましいし判りやすいと思う。
カメラに花姿を収めて楽しんだ後、そろそろ人出が増えて園内が込んできた頃には帰路に着く、というのが私流で、花の名所と言われるところは何処も混雑するのが常。時間差でゆっくり楽しんで早々引き上げるのが気持ちの上でも心地よい気がする。蕎麦屋で一杯もいいのだが、この日は家に直行。
大島桜と寒緋桜の自然交配種と言われる河津桜、伊豆の河津町に今も現木がある。
帰路も野川にそって自転車で走る。途中、河津桜が見事に満開の花をつけているのを見つけた。やや紅色が濃く大島桜のように花弁が大きい。春に先駆けて咲くせいか、かわいらしく艶やかに見える。そろそろ、寒桜も花が開く。そして木蓮や雪柳、沈丁字や三椏、桜花の季節となる。もうすぐ春ですね~!

2009年2月14日土曜日

『歌に恋して』 評伝岩谷時子物語



単行本を買うことなどほとんどないのだが、立て続けに二冊の本を手に入れてしまった。音友のPINHO氏に紹介されて、トム・ジョビンの評伝『三月の水』を書店に注文に行ったとき、たまたま書棚で見つけて、岩谷時子の評伝『歌に恋して』をとっさに買ってしまった。

シンガー・ソング・ライター達の詩と曲を別にして、私の好きな作詞家を挙げてみれば、岩谷時子・阿久悠・荒木とよひさだが、岩谷時子の゛愛の歌゛には心惹かれる作詩や訳詩がたくさんある。越路吹雪の唄う「サントワマミー(S.アダモ)」・「恋心(E.マシアス)」・「愛の賛歌(E.ピアフ)」・ラストダンスは私に(ドリフターズ)」、ザ・ピーナッツの「恋のバカンス」や「ウナセラディ東京」も彼女の作詞。

若大将加山雄三とは「旅人よ」・「夜空の星」・「君といつまでも」・「時を超えて」、いずみたくとは「恋の季節(ピンキーとキラーズ)」・「いいじゃないの幸せならば(相良直美)」・「夜明けのうた(岸洋子)」・「ベッドで煙草を吸わないで(沢たまき)」など。他にも、吉田正と「おまえに(フランク永井)」、筒美京平と「男の子女の子(郷ひろみ)」、土田啓四郎と「ほんきかしら(島倉千代子)」etc...キラ星のようなヒット曲が彼女の作詞による。

また、日本のミュージカルの歴史は岩谷時子と共にあった、と言っても過言ではなく宝塚歌劇団のレビューの訳詞を手始めに、「レ・ミゼラブル」・「ミス・サイゴン」など多くのミュージカルも彼女の訳による。

この本では、作者の田家秀樹氏が、彼女と歌手・作曲家たちとの創作活動を、時代の動向と合わせて年代順に伝えているので、興味深いエピソードもたくさん紹介されている。゛あの曲゛の誕生秘話のようなものがうかがえて面白い。その中には私の愛唱曲もいくつかあるが、

  ゛銀色にかがやく 熱い砂の上で 裸で恋をしよう 人魚のように゛ (恋のバカンス)

これにはほんとにドッキリ、女でなければ書けないことばだよねー! 男にはちと恥ずかしくて書けない。

  ゛時はゆくとも いのち果てるまで 君よ夢をこころに 若き旅人よ゛ (旅人よ)
いいよねー! ロマンがありますよ! 男のロマンね。
 
  ゛夜明けのコーヒーふたりで飲もうと あの人は言った 恋の季節よ~゛ (恋の季節)

こういうシチュエーションをわかりやすい言葉でサラリ、とはなかなか言えないものです! 

彼女自身の著書『越路吹雪メモリアル・夢の中に君がいる』のなかでは、越路がブラジル音楽祭に出演した折(1954年)、リオの海岸でフランス人の若手俳優に口説かれて、゛明日、朝早く二人でコーヒーを飲もう゛と言われたそうな。夜も更けたのでいったんホテルに戻り、翌日出発のため大量の荷物を作り終えてふと外を見ると朝の光が海岸に輝きはじめていた。゛そう言えば、フランス人から朝のコーヒーを誘われていたっけ、日本の女が嘘をついては沽券にかかわる!゛ と、眠い目をこすりつつ彼の部屋をノックしたら、ドアを開けた彼の目は真赤だった。一睡もせずに彼女を待っていたのだ。そこで初めて越路は気がついた。 ゛夜明けのコーヒーを飲もうと言うのは、フランスでは一夜を共にしようということだったのね!゛

数年後、この話を「恋の季節」で使った彼女に対し、越路は「時子さんは恋泥棒だ。私の恋を見ては歌を作る」と言ったそうな。取材やインタビューを通じて、そんな面白いエピソードを集めて書いた田家氏 にとても楽しませてもらった。゛あの歌゛が流行った頃の自分を思い起こせるのも、もうひとつの楽しみかも知れない。


                  □上:本のブックカバーと 下:本の帯、懐かしいジャケットがたくさん
心の襞からことばの糸を紡ぐように、また皮膚や身体の感覚をことばで表しながら、彼女は選び抜かれた美しい日本語で゛愛の詩゛を作り続けた。人を愛するというのはどういうことなのか、それを言葉で伝えるのというのはどういうことなのか。そのことばが美しいメロディと一緒になって未だに多くの人に歌い継がれ、私達のこころの琴線に触れてくる。90歳を越えて今は都心のホテルにひとり暮らしていると言う彼女にインタビューした作者は、彼女の印象を次のように綴っている。
「清楚で控えめ、そして匂い立つ様な華のある柔らかな物腰。そんな彼女のたたずまいは、初対面であった筆者にとって思いがけないものだった。言葉の端に滲む知性と品性、それでいて適度にユーモラス。笑顔のあどけなさは、年齢を超えていた。」