2014年11月25日火曜日

2014フィギュアスケートGPS・フランス杯から(男子シングル)



男子シングルの表彰台は、町田樹(日・銀)、マキシム・コフトゥン(金RUS)、デニス・テン(銅KAZ)
3人、高度な4回転ジャンプの戦いだった。 All Photo by ZIMBIO


中国杯での本番前練習中・アクシデントで、羽生結弦(日)とHan YAN(中国名:閻涵エンカン)が背面衝突し、

羽生はそのフリー演技を包帯姿で滑走した姿はまだ記憶に新しいが、このフランス杯にHan YANは出場し

てきた。しかしその演技は精彩を欠いていたし、成績も8位に終わった。羽生は今週のNHK杯に出場を予定

しているが、果たして後遺症もなくちゃんと滑れるのだろうか? というのも、GPS5戦を終えてすでに、ハビエル

・フェルナンデス(ESP)はモスクワ杯を制し(金)、カナダ杯でも2位の成績でファイナル戦への出場を決め、

マキシム・コプトゥン(RUS)は、中国杯・フランス杯ともに優勝、町田樹もアメリカ杯優勝・フランス杯2位に着け、

3選手ともファイナル戦に勝ち進んでいるのだ。NHK杯には、カナダ杯を制した(金)無良崇人(日)も出てくる。

ファイナル戦の残り3枠に入る選手として、羽生結弦・無良崇人・セルゲイボロノフ(RUS・モスクワ杯2位)達

の戦いが見ものだ。すでに2戦を終えているデニス・テン(KAZ・フランス杯3位)の枠入りは微妙だが...


ここ数年精彩を欠いていたロシアの男子フィギュアスケート選手の中から

オリンピック出場枠(ソチ)をプルシェンコと争ったマキシム・コフトゥンが

表彰台を狙う選手として急速に台頭してきた。176㎝(19歳)という長身から

繰り出すジャンプは迫力満点だ。このフランス杯でも、ただ一人、4回転

ジャンプを2度成功させ、一気に波に乗った。スピンのコンビネーションも、また

ステップのシークエンスもきれいにまとめて、『エグゾジェニシス交響曲』の

ドラマチックなメロディに乗った滑りは、すべてのジャンプをノーミスでこなし、

文句なしの優勝だった。中国杯でも優勝している彼が、ファイナルで真ん中

の表彰台に上がるのも現実味を帯びてきた。











すでにアメリカ杯に優勝している町田樹にとって、このフランス杯を制した

い思いは強かったと思うが、なかなか思い通りにはいかないものだ。

ベートーベンの『交響曲第9番』(お馴染みの歓喜がテーマ)に乗っての滑走

は、細部まで神経を行き渡らせたむずかしいものだったが、やや力が入ったか?

バランスに欠けるところがあり、冒頭の4回転ジャンプ(ルッツ)で転倒し、波に

乗れなかった。気を取り直して、スピンやステップをまとめ、残りのジャンプを

うまくこなしたが、2位に終わった。しかし、゛氷上の哲学者゛と呼ばれるように、

彼のスケーティング・コンセプトは大変明確だ。昨年シーズンの『火の鳥』の

ように、曲と演技がハーモニーしてくれば、今後もより上の演技点を狙えるだろう。

高橋大輔が引退し、小塚崇彦が低迷している日本選手の中では、羽生結弦と

ともに表彰台に上がれる選手として応援したいところだ。




デニス・テン(KAZ)は、日本ではあまり良く知られていないのが実情だろうが、

実力は超一級だ。2013年世界選手権銀メダル、2014年ソチオリンピック銅

メダリスト、あのパトリック・チャンを一回り小さくしたような体躯から繰り出す

演技は、スピードとキレがあり、演技をつなぐ間の取り方も絶妙で、身体の

小さな選手のお手本と言えよう。今回のフリー演技では、『New Impossibilities』

(十面埋伏)という珍しい曲(演奏はYo Yo Ma)で滑ったが、4回転ジャンプを

2度とも成功できず、点数を伸ばせなかった。しかし、ショートの演技はトップの

91.78の高得点をたたき出して、その実力振りを見せてくれた。













GPSファイナル戦(スペイン・バルセロナ)での優勝争いは、ハビエル・フェルナンデス、マキシム・コフトゥン、

町田樹の3選手に絞られるのが濃厚だが、ソチオリンピック金メダリストの羽生結弦がどこまで巻き返すか、

また、無良崇人とセルゲイ・ボロノフがどこまで食い込んでくるのか? 興味はまだまだつきないのだ。

2014年11月24日月曜日

2014フィギュアスケートGPS・フランス杯から(女子シングル)



フランス杯で表彰台に上ったのは、ユリア・リプニツカヤ(銀RUS)、エレーナ・ラジオノワ(金RUS)、
アシュリー・ワグナー(銅USA)の3人、ロシア娘たちの活躍が際立っていた。 All Photo by Zimbio


今シーズンのフィギュアスケートのフランス杯をTV録画で見た。正式には、『ISUグランプリシリーズ ・ボン

パール杯 フィギュアスケート国際競技会2014』という長いタイトルがついているのだが、国際スケート連盟

(ISU)主催の競技会で、10月下旬から12月中旬まで世界各地を転戦する中のランス大会だ。アメリカ(シカゴ)

 ⇒ カナダ(ケロワナ) ⇒ 中国(上海) ⇒ ロシア(モスクワ) ⇒ フランス(ボルドー) ⇒ 日本(大阪) の6ヶ所で

開催され、その上位成績選手(達)6人による最終戦(Grand Prix Final)が、今年はスペイン(バルセロナ)で

行われてシーズン・チャンピオンが決まるのだ。ここに載せた画像は、例によってインターネット・サイトの

ZIMBIOによるものとお断りしておく。


今シーズンの女子シングルでは、ロシア勢の躍進が目立った。それも

ジュニア、またはジュニアから上がってきたばかりの若い選手たちだ。

表彰台真ん中(金)のエレーナ・ラジオノワは15歳155㎝、フリーでは、

『ピアノ協奏曲第3番』(ラフマニノフ)のドラマチックなメロディに乗って、

すべてのジャンプを成功させた。コンビネーション・スピンも滑らか、

ステップも軽やかで、最後まで滑走のスピードが落ちなかった。2012年

と2013年の世界ジュニア・チャンピオンを制した勢いをそのままGPS戦

に持ち込んできた感がある。先のアメリカ杯に続く優勝(2回目)で、GPS

ファイナルの出場枠をいち早く決めたが、スピードに乗ったバランスのいい

演技は、ファイナルでの表彰台を予感させるものだった。(フォトはフリー

演技のもの)


ユリア・リプニツカヤ(銀RUS)は、冬季ソチ・オリンピックの団体戦金

メダルで記憶にも新しいが、やはり確実に力をつけてきているロシア

勢の一人だ。フリーでは、映画『ロメオとジュリエット』のテーマ音楽に

乗って滑ったが、こういうロマンチックな曲でも演技できることを見せて

くれたのが良かった。彼女の特技のキャンドル・スピンを組み込んだ

コンビネーションスピンはやはり迫力満点だったが、ジャンプ(3回転

フリップ)を一度ミスしたことが、最終的にラジオノワに次ぐ2位となる

結果となった。中国杯はエリザベート・ツクタミシュワ(金RUS)に次ぐ

2位、これでGPSファイナルの出場を決めたが、ファイナル戦ではどんな

演技を見せてくれるかが楽しみだ。(フォトはショート演技)


アシュリー・ワグナー(銅USA・23歳)は、今回出場女子選手の一番年上だ

というから驚いた。日本の鈴木明子は28歳まで現役だったが、これは高齢

選手としては珍しい口で、ロシア勢の女子選手がほとんど10代中心なの

を見ると、随分と選手層が若返った気がする。しかし、ベテランの味という

ものを存分に見せてくれたワグナーの演技は良かった。映画『ムーラン・

ルージュ』のテーマ音楽に乗って、キレのあるジャンプと、滑らかで優雅

スピン・ステップで観客を魅了した。長らく競技会の華だったカロリーナ

・コストナー(伊)が第一線を退いた後、優雅なスケーティングを見せて

くれるのは彼女が第一人者だろう。カナダ杯では2位の成績、あと一つの

GPS・NHK杯の結果次第だが、ファイナル戦に登場する可能性は高いと

思う。(フォトはショート演技)




さて、GPS戦は今週末に大阪でのNHK杯を残すのみとなった。女子シングル戦には、グレイシー・ゴールド

(USA・アメリカ杯3位)、村上佳菜子(日・中国杯3位)、宮原知子(日・カナダ杯3位)が出場予定だ。ロシア杯で

チャンピオン(金)となった本郷理華(日)の出場はないが、NHK杯の結果でファイナル戦の出場者が決まる。

今回のフランス杯の結果を経て、すでにファイナル戦への出場を決めたロシア勢4人の実力はかなり高い

ものと思われる。アンナ・ポゴリーナ(フォト上・RUS)は、すでにカナダ杯を制し(金)、ロシア杯でも2位の成績

だし、ツクタミシュワは中国杯を制し(金)、アメリカ杯では2位に食い込んでいる。ロシア4人娘たち、恐るべし!!

ここに、アメリカ勢2人と日本勢2人がどこまで食い込めるのか、華麗な氷上の戦いは、がぜん面白くなって

きた。


2014年11月21日金曜日

プール通いと洋楽ナイト




調布市総合体育館の25m温水プール、オフシーズンなので混雑なしの快適時間。HPより


高校同期生のバンドライブもひと段落したので、というわけでもないのだが、この秋前から必要を感じて

いたトレーニングをまたやろうと思い、プールに通っている(と言っても、週一回のペースだが)。この年

(60代後半)にもなると、気は若いつもりでも身体のあちこちに疲労や不具合が生じて、なかなかすぐには

回復しないことが時折あるのだ。かくいう私もここ10年程の間に、腰(というより大臀筋)を二度痛めたし、

右腕・右肩に疲労がたまり、帯状疱疹も経験している。毎朝のストレッチ(15~20分位)と、日々の自転車

乗りで、かなり身体は動かしてはいるのものの、やはり各筋肉に負荷をかけて全身を整えないと筋力の衰えに

対処できないかな、と感じるわけだ。加えて、長時間のギター演奏後に、腕や指に疲労が残るのを覚えて

(前はそんなことはなかった!)、思いついたが吉日、全身のほぐしと筋力負荷を兼ねて泳ぐことにした。平日の

昼間にゆっくりと泳ごうと思い、ご近所の世田谷体育館や調布総合体育館を利用している。2時間程度で

400円の利用料なので気軽に利用できるのが良い。始めた時には、自分の上腕筋と背筋の力が弱っている

のが分かったが、4・5回目になったら、ようやくスムーズに水に乗れるようになった。一時間くらい休み休み

ゆっくりと泳いでいる。泳いだ後は、身体がすっと軽くなるのが感じられ、心地良さが残る。




「木立ダリア」の名前が、最近は「皇帝ダリア」と呼ばれるそうな。園芸店や個人の庭・公園の一角
にも、散見されるようになった。この冬花が珍しくて、寒さが強まるこの時期に、小石川植物園まで
見に行ったことが何回かある。名前も随分と出世したものだ。 (散歩道の途中で)




「ピラカンサス」の赤い実は、花の少ないこの時期に目を楽しませてくれる貴重な花実だ。やはり
この花実は、日当たりの良い庭や公園の南向きに位置すると、多くの実をつけて、大振りの
艶やか実色で見る人を楽しませてくれる。 (散歩道の途中で)




「洋楽ナイト」でセッションを楽しむメンバー達、左よりお店のYDさん(Pf)、常連のソウヘイさん
(Ba)、歌うゲンさん(Vo/Gt)、ソロギターのBEさん(Ac.Gt)、ロック好きのDAさん(Dr)の面々。



久し振りに経堂の音楽酒場ピックを訪れてみると、まだ私しか来ていなかったので、店主の高澤さんと四方山

話をしていると、9時を過ぎたら常連のお客さんたちが次々と集まってきた。毎月第1・3木曜日は、「洋楽

ナイト」の日で、洋楽ならなんでもござれのセッション日だ。カントリー・R&B・ジャズ・ボサノヴァ・シャンソン

・ビートルズ など、お馴染みのスタンダード曲を一緒に楽しもうという、まことにアバウトで制約のない催し日

なのだ。ソロベーシストとして活躍している山口ソウヘイさんを中心に、早速セッションが始まった。BEさんが

「Your cheatin' heart」を歌えば、ゲンさんが「Tie a yellow ribon~」で応え、紅一点のMIcaさんは最近練習

した「サマータイム」をサム・クック張りに歌い、私は「Wave」と「オルフェのサンバ」、そして「Caravan」

を皆と一緒にやってみた。ほとんど初めての顔合わせ(ソウヘイさんとは過去一度あり)なのに、とても楽しく

セッション出来た。修理中だったオペイションのエレアコも治って来ていたので、張り替えたての弦の音も

なかなか良かった。夜11時頃まで楽しませてもらったが、まだ遅くまで続ける皆さんに挨拶して先に上がら

せてもらった。



快晴の朝、自宅のベランダから見える富士山の雄姿。白雪を被った山頂の姿が澄んだ空気の中
でくっきりと際立っている。初冬のこの時期だけ楽しめる眺めだ。放射冷却により、雲のない
乾燥した朝には、特にきれいな山姿が望める。 All Photo by TAKA


2014年11月5日水曜日

北斎 ボストン美術館・浮世絵名品展から(その2)





『花鳥図 朝顔に蛙』 横大判錦絵、朝顔の大振りな紫色花弁や絞りの入った青色花弁、咲き終わ
った薄紅色花弁などが美しく描かれている。葉色に溶け込んでいるような蛙を探すのにしばらく
時間がかかった。よくみると、蛙の左足が蕾の朝顔の弦にひょいとかかっている。誠に芸が細か
いのに感心してしまった。緑の葉色と花色のコントラストもすっきりしている。



今回の浮世絵展で見ることができた作品中、『諸国瀧廻り』シリーズ8作品と併せて、『花鳥図』シリーズ9作品

を見ることができたのはとてもラッキーだった。ともに、このような保存状態のいい版画をまとめて見る機会は

今までなかったからだ。残念ながら展覧会HPには掲載されていないので、画像は足立版画研究所のHP

からのもの(復刻版)だが、ややきれい目に刷り上がってはいるものの、原画の雰囲気をよく伝えていると思い

ここに載せてみた。北斎(1760~1849年)は90年の生涯中、美人画や役者絵、日本や中国の歴史画、風景

画や花鳥図、百人一首や六歌仙等々、あらゆる画題に挑戦しているが、この花鳥図シリーズは今までほと

んど見たことがなかったので、そのすばらしさに見入ってしまった。制作は天保4-5年(1833-43年)頃という

から、北斎70代半ばだ。う~む ! なんて元気な老人なのだ ! HIさんも、この花鳥画シリーズを初めて見て、

「ほんときれいね~ ! 」と感心していた。



『花鳥図 紫陽花に燕』 横大判錦絵、江戸時代後期の紫陽花はやや小ぶりの形だったようだが、
薄青から薄紅の花色がぼかしの様に続いていてきれいだ。燕が右上から飛来して、画面を引き
締めているのがいい。



『花鳥図 牡丹に蝶』 横大判錦絵、揺れる牡丹の花とふわりと舞う蝶の姿が一瞬の風を感じさ
せてくれる。牡丹の薄紅色の花弁は、原画ではもっと平面的に描かれているが、足立版画では
細かな縞模様まで密に表現されている。ただ、花の艶やかさはとても魅力的、日本人好みの
画題であることには相違ない。



『百物語』の版画シリーズは、江戸時代に流行した妖怪物語を題材にしたものだが、今回全5作品が出ていた。

北斎の妖怪画は一ひねりも二ひねりもしてあって、番町皿屋敷のお「岩さんは」提灯仕立てだし、「小はだ

小平治」は、その頃長崎に伝えられた西洋医学の解剖図みたいだし、ユーモラスな妖怪になっているのが

面白かった。しかしこのシリーズも天保2-3年頃の制作というから、北斎70代初めの作だ ! 全く元気老人を

地で行く壮健振りだと思う。



『百物語 お岩さん』 中判錦絵(T39㎝×Y27㎝)、怖面白い妖怪画も当時人気だったのだろうか?


『百物語』のテーマについては、現代のミステリー作家:京極夏彦も数々の作品で執筆しているが、私も一時、

『巷説百物語』や『続巷説百物語』など、妖怪シリーズ本を夢中になって読んだことがある。映画化もされた

のでご存知の方も多いと思うが、今も昔も怖面白い話には人気が集まるのだろう。


ボストン美術館の浮世絵コレクションの形成については、アーネスト・フェノロサ(明治初期に東京大学で

教鞭をとり、帰国後ボストン美術館東洋美術部長として日本美術の紹介に努めた)と、エドワード・モース

(動物学者として東京大学で教鞭をとった、大森貝塚の発掘者)、及びウィリアム・ピゲロー(日本美術の収集家、

帰国後ボストン美術館の理事に就任、自らの収集品をボストン美術館に寄付した)の名前が展覧会案内に

記されていたが、彼らの日本美術への深い理解と高い評価があってこそ、今の時代まで残された貴重な

作品群を再び見ることが出来るのを、大いに感謝せねばならないと思う。

その当時(明治初期)の日本は、廃仏毀釈や伝統的日本文化の否定に傾いており、貴重な日本美術、特に

江戸文化を代表する浮世絵や工芸品は海外に流出してしまい、膝元日本ではコレクションが少ないのが

現状だ。今になって、日本の伝統料理(江戸時代にルーツを持つ)に基づいた和食が脚光を浴び、大衆演劇

の歌舞伎や能が勢いを盛り返し、日本文化の幾つかのジャンルが世界の注目を集めてはいるが、美術に

関しては、北斎や広重のように世界中の人々を虜にするアーティストは出現してはいない。そのような稀有の

アーティストの珠玉の作品の数々を今回堪能できたのは、望外の喜びだった。

<この項終わり>


北斎 ボストン美術館・浮世絵名品展を見て(その1)




「異才、極彩、北斎」のキャッチ・フレーズがついた今回の浮世絵名品展のチケット(図柄は、お馴
染みの『富嶽三十六景 神奈川沖浪裏』)。タイトルに違わず、素晴らしい作品の数々に出会えた。
画像は全て展覧会のHPからのものです。


『富嶽三十六景』でお馴染みの、葛飾北斎の浮世絵版画をメインとする絵画展ではあるが、そのすべての

出品作がボストン美術館所蔵のものによるという稀有の展覧会を、上野の森美術館で見ることができた。

浮世絵版画のファンである私は、時折この種の専門美術館や展覧会を覗くが、今回の142作品に出逢えた

のは、とても幸せだった。ボストンへ行って見ることが出来るものもあるだろうが、その多くは色彩の退化や

紙質の劣化を防ぐために、所蔵室奥に保管されているものがほとんどなので、千歳一遇の機会とはこのこと

だと思った。



 ▢諸国瀧廻り全8作品中の『下野黒髪山きりふりの滝』大判錦絵(T53㎝×Y39㎝)
滝を流れ落ちる水の線描と白から群青色への濃淡、滝つぼに飛び散るしぶきの点描、周囲の木々
の緑系色と岩肌の茶系色のコントラスト、見上げるまた見下ろす人々の姿、右上タイトルの配置..
すべてが小サイズの宇宙に超微細で描かれた第一級のグラフィック・アートだ。


同じく諸国瀧廻り中の『木曽路ノ奥阿弥陀ヶ瀧』大判錦絵
このシリーズ作品は、1833(天保4)年頃作と言われるから、北斎73歳のものだ ! なんだ、なんだぁ~ !
70を超えた老人(今にして言えば)が、こんな素晴らしい絵を描いていたとは ! 滝上の池に溜まり落
ちる寸前の水姿は波紋を揺らすがごとき円形、流れ落ちる線状の水は、白から群青へのグラデー
ション、平面的にデザイン化された迫力満点の水の流れが美しい。左の岩の上、敷物に座って
゛瀧見で一杯゛やっている見物人たちがユーモラス。 大自然の水と緑の色彩がとてもきれいだった。

ここに載せた画像は、HPの画像をもとに、会場で見た原画の印象にできる限り近づけるために
画質調整を施してありますが、やはり原画の色には届かない。(Arranged by TAKA)。


土曜日の上野公園は小雨がぱらついていた。お誘いした絵友のHIさんと共に10時半頃会場の上野の森

美術館に着くと、チケット売り場には人が並んでいた。会場に入ると、人の列が作品の前にたむろし、ゆっくり

としか動かなかった。何時もは平日の空いた時間帯にくるのだが、今回は久し振りに混んだ会場での絵画

鑑賞となった。やはり、北斎の浮世絵人気は高く、ファンも老若男女・国籍を問わず多いのを改めて確認

した。それから約2時間、表現の超細かい作品にへばりつく様にして見続けたが、見終わってかなり目が

疲れた(腰も同様だった!)。しかし、作品の保存状態は極めてよく、刷り上がったばかりのような極彩色の

版画を見ることが出来たのは、本当に嬉しかった。浮世絵版画の鑑賞としては、今までになかった感動で

すらあった。



『富嶽三十六景 凱風快晴』 横大判錦絵、何度か見ている有名作品だが、実に色彩が鮮やかだっ
た。当時、摺師達に流行りはじめた「ベロ藍」が快晴の空色に使われている。その藍色と富士山の
赤色の対比が劇的に素晴らしい。棚引く雲の線描とふもとの森の点描も、単純化されたグラフィッ
ク・アートの極限的な表現に高まっている。下絵師・彫師・摺師の職人技が、当時の世界でも第一
級だったことを思わせてくれる作品だ。



『富嶽三十六景 本所立川』 横大判錦絵、左の縦横に組み上げられた切り木も、右の立て掛けら
れた長い柱も非現実的に強調されているが、木場の湾と家並みの向うに見える富士山の姿がきれ
いだ。掛け声をかけて切り木を放り投げ・受け取る職人の仕草も、また角柱を鋸で弾く職人の仕草
も、威勢のいい声が聞こえてくるような詩情に溢れた作品だ。


今回、『富嶽三十六景』のシリーズでは、21作品(全46図中)が出品されていたが、制作は天保2年(1831年)

と言われている。北斎はその年なんと71歳である ! 会場様の混雑ぶりから先に2階会場を見て回った

ため、このシリーズは最後にさっと見ることになった。というのも、『諸国瀧廻り』シリーズや『花鳥図』シリーズ、

そして『百物語』シリーズなど、素晴らしい作品群を堪能した後だったので、やや疲れていたかもしれない。

でも、保存状態の良い極彩色の版画を見ることができたのは、ほんとに素晴らしかった。

<この項つづく>


2014年11月3日月曜日

深まる秋を訪ねて:ワイン試飲と富士山ふもとの紅葉



雲一つない秋晴れの一日、ワインと紅葉を求めて甲府勝沼まで出かけてみた。昨年出かけたぶどうの丘が

とても良かったので、今年も再びの訪れだった。この小旅行でよかったものをあげてみると、まず「天空の湯」:

ぶどう畑の天辺にある建物の屋上に設けられた露天風呂からの眺めは素晴らしいものだった。それから隣接の

和食レストランで食べた「ほうとう鍋」と「甲州牛のすきやき鍋」:赤味噌が効いていてとても美味しかった。

ワインの試飲は、今回ぶどう畑の一角にある小さなワイナリー「まるき葡萄酒」でしてみたが、120年以上の

歴史を持つこのワイナリーの「和食に合うワイン」の味は、私好みでとてもまろやかだった。

帰路、山中湖を抜けて御殿場に降りたが、快晴の空に「雪を被った富士山」の雄姿は、めったに見られない

鮮やかなものだった。また、「ススキや広葉樹の紅葉」を堪能することができたし、秋の行楽としては願ったり

かなったりの旅となった。今回も健康オタクのYKさんの車に便乗させて頂いたが、改めて日本の自然の

豊かさを感じることができた。以下、余り写真は撮らなかったのだが、幾つかを載せるので目の保養として

いただきたいと思う。



山中湖畔からの富士山の眺め、山頂の白雪と山裾に手前の紅葉が配されて、
コントラストがとてもきれいだった。All Photo by TAKA



忍野付近からの富士山の眺め、ススキの向うに臨める雄大な姿(車中より)



ドウダンツツジの紅葉は深い紅色、秋晴れの陽光に映えて美しかった(山中湖畔にて)。




「天空の湯」からの甲府盆地の展望、ちょうど沈む夕日が眺められた。



ゆるゆると温泉に浸かっていると、身体の節々に湯が浸透してきて、ライブの疲れも消えていく気がした。



翌朝も快晴が続いた。湿度の少ない清涼な空気に満たされて、甲府盆地の
山並みと街の眺めはとても開放感に溢れていた。





まるき葡萄酒では数種類のワインを試飲したが、すべて今年新発売のワインだった。最近ラベル
デザインを一新し、「不起草生栽培と減農薬による極力自然に近い環境で育てた自社農園のブド
ウ種」にこだわる思いをラベルに表現した、とのこと。お店のカウンターで応対してくれた女性ソムリ
エの話を聞きながら、甲州種やべりーA、カベルネ・ソービニオンで作られたワインを試飲した。
後ろの看板2種は創業当時から使っていたもの、今は店内に飾られているが、字体といいデザイン
といい、とても趣きのあるもので感激してしまった。



お土産に買ったワイン2種とぶどう「甲斐おとめ」の大粒な房、甘味たっぷりで土の香りがした。