2014年8月23日土曜日

冷たい炎の画家・ヴァロットン展、その②



2枚の写真を合成して描いたという作品・「ボール」、ボールを追う少女と後方の2人の人物
との焦点は全くあっていないし、覆いかぶさる木の枝に影はなく、左側から大きく伸びた木陰と
少女の影も不自然。まるでだまし絵の様な不思議な作品だ。 (美術展チケットより)


産経ニュース「美の扉」に掲載された、『何かが起こる、胸騒ぎの光景』(フェリックス・ヴァロットン財団〈スイス〉

名誉学芸員・マリナ・デュクレさん講演)によると、ヴァロットンは34歳の時に、ユダヤ人大画商の娘で3人の

子持ち女性と結婚したという。兄がスイスで画商をしていたので、その繋がりかもしれないが、パリ住まいの

大富豪の邸宅で血の繋がらぬ3人の子供たちと一緒に暮らす生活は、どんなものだったのだろう?  恐らく、

義父を通した絵画注文も沢山あっただろうし、お金には全く不自由しなかったと思われるが、作品タイトルに

しばしば登場する「嘘」とか「お金」とか、「怠情」とか「狼狽」とか、「トルコ風呂」とか「もっともな理由」とか...

鬱屈し解放されなかっただろう生活の中で、巧みな技法を駆使して作品を描き続けた画家の心の在り様が、作品の

歪みや毒のある諧謔、緊張感のある画面に集約されているように思える。



美術展パンフレットより(他も同じ)

彼の作品群の中で、黒白の木製創作版画は秀逸のものだと思う。「アンティミテ」と題される一連のモノトーン

版画は、陰影やグラデーションを排した大胆なフレーミングで、ブルジョワの都会生活シーンを切り取り、

密会劇を覗き見するような驚きと不安が画面に漂っている。上の『お金』は、漆黒の闇が画面を支配し、

いきなり男のシルエットに直結するという画面構成、今夜の情事の交渉なのか、または、女性を口説くための

金銭提供の申し出なのか、白いドレスの女性とのコントラスが見る人をドッキリさせる色彩だ。画面からは、

何やら胡散臭い香りが漂ってくる。




それとは逆に、単純化されたグラフィック・パターンが面白い『怠情』、市松や格子柄など、日本の浮世絵

版画に登場する柄をよく研究したようなベッドカバーの上にうつ伏せの裸婦。薄っぺらな猫は、まるで存在感

はないが、白い肌の裸婦と敷物の黒白柄が、緊張感のあるコントラストを醸し出している。恐らく、義父の

画廊で、当時話題になっていた浮世絵版画を多く見ていたのだろう。この絵画展にも、彼の所蔵していた

浮世絵版画が4点参考出品されていたが、19世紀末にパリで開催された大々的な浮世絵版画展で話題を

博したジャポニズムの影響を、他の多くの芸術家同様、彼も刺激的に受けていたのだろう。


私的には、今回の回顧展の中で、この版画シリーズが一番面白かったが、ご一緒した絵友のHIさんは、

やや白が混じったような油彩画面の緑色やブルーに感心し、また、白いベールをかぶったような裸婦の肌色

にも興味を示していた。最近の美術展には興味を持てる催しがなく、久し振りの絵画鑑賞だったが、少規模

でも個性的な美術館が、単独作家の作品をコレクションとして所蔵し、世界の美術館と提携して他では見ら

れない企画展を開催してくれるのは、大いに歓迎したいと思う。

真夏の、謎めいた作品群を覗き見した絵画展だった。

冷たい炎の画家・ヴァロットン展を見て、その①



広葉樹や芝生・草花が配置された中庭、ベンチもたくさんあって、昼休みは近々オフィスの
OLさん達が、お弁当を広げていた。右の赤レンガの建物が美術館 Photo by TAKA


酷暑の続く夏の一日、丸の内の三菱一号館美術館に出かけてみた。スイス生まれ、パリで活躍した画家・

ヴァロットンの日本初公開の絵画展を見に行ったのだが、この美術館も、ヴァロットンも初めて見るものだった。

一度解体保存されていた古い赤レンガ造りのビル(1894年建設)を建て直し、美術館としてオープンした

のが2010年、以来年3回の企画展を開催しているとのこと。丸の内地区が再開発され、古いビルが新しい

オフィスビルになるとともに、国内・海外の有名ブランドショップと飲食店がテナントとしてたくさん入り、新たな

賑わいを取り戻していることをニュースで聞いたりしていたが、こちらは都心にとんとご無沙汰だった。地下鉄

から美術館への街並みも、街路樹が枝を伸ばし木陰を作り、歩道も広くてとてもきれいになっていた。

美術館の中庭は、沢山の木々と芝生・草花が植えられていて、ちょっと都心のオアシスみたいないい雰囲気

だった。美術館所蔵のヴァロットン版画作品60点と、ヨーロッパ各地の美術館(パリ・オルセー美術館、

スイス・ローザンヌ州立美術館など)から集められた60点の油彩など、計120展の作品が、2階と3階の各

展示室に出品されていて、1時間半程ゆっくりと見て回ることがで来た。 

絵画史の主流からは離れているし、日本でも初めての回顧展と言うこともあり、出品作品は多岐に亘って

いたが、ほとんどが初めて見るものだった。テーマも肖像画(自画像も)、裸婦、歴史画、風俗画(パリの

風景・娼婦館・自宅の部屋等)、黒白版画など、よくまぁあっちこっちから集めてきたね、と感心してしまったが...

美術展の企画者たちも、「裏側の視線」とか、「解けない謎の様な重層的な作品群」とか、「冷ややかなエロス

をまとう裸婦像」とか、いろいろキャッチフレーズをつけてくれているが、確かに一筋縄ではいかない絵画

精神を感じた。


ヴァロットンの油彩・「赤い服を着た後姿の女性のいる室内」、見れば見るほど不思議な絵だ。
拡大してみるとよく解る。 美術館パンフレットより(他作品も同じ)


上に掲げた画像の「赤い服を着た~女性~」の絵も、よく見るとまともな遠近法ではない。ドアの垂直線は

左に歪んでいるし、奥の部屋入り口の縦桟とカーテン、壁紙柄も同じ。前の部屋の横椅子と奥の部屋のベッド

の焦点もずれて歪んでいる。水平線の天井の張りはわずかに左の傾き、3段のステップは逆に右に傾いて

いる。壁にかかったフォトフレームも右に傾いでいるし。脱ぎ捨てられた衣類や乱れたベットのカバーなどは

まるで情事のあとの様(娼婦館なのか?)。それを見つめる赤いロングドレスの女は誰なのか(画家の妻、

それとも画家の分身)? 歪んだ世界からは、熟れて饐えたような匂いが漂ってくるが、この構図を描く筆の

タッチも、赤服とグレーイッシュな緑のドアと壁を塗った色彩構成も、画家の技量が、並外れて優れたのもの

であることを示している。なぜこのような絵を描いたのか? この絵を見続けると、立ち眩みに襲われるような

違和感と覗き見をしているような変な胸騒ぎにを覚えるのだ。



鮮やかな色のコントラストを背景に描かれた「肘掛椅子に座る裸婦」、よく見るとこの絵も何か変だ。

この作品に描かれた肘掛椅子は右の肘掛があるだけで、本来あるべき左側がない。よしんば片肘掛けの

椅子だとしても、垂れ下がった左の乳房と左手が、椅子に溶け込んでしまっている。椅子の横幅に対して

背もたれ幅が狭く、しかも背の縁線が見る側からして右下がりして見える。壁の垂直線と床の巾木は、まともな

遠近法で描かれてれているに、この奇妙な空間のゆがみと裸婦の実在感のなさは何なのだろうか?


ヴァロットンは、スイスの大学で古典を学んだあと、パリの私立美術学校「アカデミー・ジュリアン」で美術を学

んだ。官立の美術学校「エコール・ド・ボザール」(日本の東京芸大に当たるか)と、サロン・ド・パリ(フランス・

アカデミーによる公式展覧会)の流れとは違う、自由で前衛的な芸術活動に身を置いたようだ。彼の母校の

仲間たちが結成した「ナビ派」に彼も参加し、20代から30代にかけて、彼は多くの絵を描き、美術批評を書き、

革新的な木製版画(後に゛グラフィック・アート゛と呼ばれる先駆的作品)を数多く作った。

ポスト・ナビ期(40代以降)には、風俗画・裸体画・肖像画を描きながら、美術批評や戯曲・小説も手掛けた、

と言うから、とても多彩な創作活動を続けたマルチ・アーチストだったようだ。(プロフィルはWikipediaより)

<この項続く>

2014年8月9日土曜日

真夏のブルーベリー摘みは、ご近所で。



白く粉を吹いた獲れたてのブルーベリーは、無農薬・完熟で、酸味と甘味が絶妙のバランス!
All Photo by TAKA


猛暑が続くこの夏ではありますが、自宅(狛江市)近くにブルーベリーの摘み取り園があるので、食い友の

RKさんを誘って出かけてみた。私が所属する地域サービスの拠点(地域包括センター・特別養護老人

ホーム・訪問看護介護)の事業所に隣接する広いブルーベリー畑は、とみなが農園という名前で、数年前に

区画が一つでき、その後2区画が増え、今では3区画に沢山の種類のブルーベリーが、この時期(7月下旬

~9月上旬)紫色のたわわな実をつける。時折事業所に寄る時に、道路から実が熟しているのを見ることが

できるので、摘み取りを楽しみにしていた。


その日の受付が始まる午前8時前には、沢山のお客さんが開園を待ってベンチに腰かけていた。


今年の開園案内がブルーベリー園の前に掲げられたのは、7月の中頃だった。7月24日から9月15日まで、

毎週木曜日と日曜日が開園日で、朝8時前から受付を開始し、満員(150名ほど)になり次第受付終了。

無農薬・完熟の実だけを摘み取ってもらうために、3つの園に分かれて入園してもらう。レジャー農園のように、

食べながら摘み取ることはできないが、100g/210円で持ち帰りができる。完熟のおいしい実だけを摘んで

もらうために、予約は一切受けない。お客さんは近隣にお住いのご家族が多いので、ほとんどがリピーター。

ブルーベリーの種類は沢山あるので、収穫時期もそれぞれ違う。開園当時はよくご存じのリピーターさんで

込み合うので、初めての方は8月に入ってからの収穫最盛期においで下さい。

以上の案内を滔々と弁舌爽やかに述べてくれたのは、摘み取り開始前のある日ふと立ち寄ってみた時に

応対してくれた当園の当主の富永さんだった。



ラビットアイ系(熟し始めの赤い実色が、ウサギの眼の色に似ている)の「ティフブルー」、丁度
熟期だったので、大振りの熟した実が沢山摘めた。甘味の中に酸味が入って美味。




同じくラビットアイ系の「バルドゥィン」、緑→白→赤→紫と、熟すに従って実色が変化していく。
完熟した実はとても甘味が増し大きくなるので、その実だけを摘む。未熟の実はまだ酸味が強い。



その日も、熱帯夜と酷暑が続く一日だったが、早起きしてチャリで自宅から5分のブルーベリー園に7時半頃

着くと、もう開園を待つお客さんが30人ほど、実を入れるバケツ(受付で渡してくれる)を持ってベンチに座って

いた。おじいちゃん・おばあちゃん、パパとママ、子供たち、近隣から来た人たちがほとんどだ。開園10分

前に、初めて実を摘む人たちを集めて、富永さんが「完熟した実だけを摘んで下さい!」と、ブルーベリーの

サンプルを見せたり、試食してもらったりしながら丁寧にレクチャーしてくれた。何せご本人は、ガーデニングの

講師もされているとか。道理で弁舌滑らかなわけだ。「一本の木から沢山の実が摘めるので、ゆっくりいい実

だけを摘んでね。」と、皆を一番奥のブルーベリー園に案内してくれた。


家族連れでのブルーベリー摘み、子供たちは背の高い大人が見過ごしてしまう下の枝や葉裏も
見られるので、意外とたくさんの実を摘めるとのこと。夏休みの楽しいレジャーになっただろう。



陽が照り付けるブルーベリー園で入園から小ー時間、熟した実を摘み取って小さなバケツに入れ続けたが、

私は1㎏、RKさんは1,5㎏(お隣ご近所さんにお裾分けするとのこと)の完熟実を収穫した。受付に戻って

計量し会計後、持参した冷水ポットの水をたっぷりと飲みながら実を食べてみた。食品スーパーや百貨店の

食料品売り場で売っているブルーベリー(多くは酸味が強いし小粒)と違い、大振りで完熟の実はとても

美味しかった。汗をかいた後の爽快な気分を満喫した。





朝ゆっくり寝て起きた休日の遅い朝食(昼食を兼ねて)、何時ものメニューのヨーグルトにブルーベリーを
たっぷり入れた(付け合わせはネクタリン)。平日は玄米胚芽粉のお湯溶きスープなのだが、休みの日は
入れたてコーヒーを味わう。完熟のブルーベリーのナチュラルな味をゆっくりと味わった。