2016年4月20日水曜日

高尾のサクラ保存林では、珍しいサクラが沢山見られた。




一山中に沢山の種類のサクラが植えられ保存されている多摩森林科学園・サクラ保存林、広大な敷地内を歩いて
見学できる遊歩道が巡らされていた。 All Photo by TAKA



京王線高尾駅から徒歩10分に位置する多摩森林科学園は、「国立研究開発法人・森林総合研究所」という厳めしい冠名が

つく施設だが、簡単に言えば、日本全国の桜を集めた「桜品種保存林」なのだ。その多くは、日本の主要のサクラの栽培品種

や天然記念物のクローン(挿し木や接ぎ木)であり、約500種(1,400本)が植えられている、と見学案内に載せられていた。

日本のサクラの代表品種「ソメイヨシノ」は、江戸末期に一本の原木からクローンが作られ、「染井吉野」と命名されてから

(明治33年/1900年)以降116年間にそのクローンを全国津々浦々にまで植樹して広げたという世界でも類がないサクラの

蔓延だが、そのおかげで個体の性質もそっくりなサクラの開花が、日本列島を北上するという゛サクラ前線゛なる言葉まで誕生

している。



『鬱金(ウコン)』:サトザクラの栽培品種(ヤマサクラ×オオシマサクラ)、明治時代の荒川土手で栽培されていた。
大輪・八重咲きで開花期は薄黄色を帯びた花色、満開から散る間際には赤みが強くなり、他の里桜との区別は
つかなくなる。名前は、淡い黄色の花色から、ショウガ科のウコン(ターメリック)に由来する。




満開時のウコン、淡黄色が飛んでしまう。


日本人の桜好きはソメイヨシノを代表格とするが、サクラには早咲き・四季咲き・枝垂れ・里サクラなど多くの品種がある。私

自身も、早咲の「寒桜」やソメイヨシノに先駆けて咲く「枝垂れサクラ」、そして全国各地に残る樹齢数百年~千数百年の古木

(その多くはエドヒガンかエドヒガン系の枝垂れサクラ)、あるいはソメイヨシノが散った後に花開く山桜・里桜(多くは八重系)を

楽しんできている。最近は、桜名所の混雑ぶりを敬遠して、人混みの中での桜見物は遠慮しているのだが、つい先日は皇居

の桜を見に出かけてしまった(ほとんど野次馬根性です!)。以前から、高尾のサクラ保存林のことは知っていたが、今回ふと

思い立って、健康オタクのYKさんを誘って出かけてみた。





『佐野の桐ケ谷』:京都の佐野造園(創業天保3年、代々御室御所に植木職人として仕え、明治期からは造園業を営む老舗)
が伝えるサトザクラ、一枝のなかに一重と八重が交り咲く、という。名前に諸説ありというが(鎌倉の桐ケ谷が発祥の地、とか、
天皇が御車を返してまで見たことから゛御車返し゛の別名゛あり、とか)、一重と八重の交り咲きは遠方からの眺めで判然としなかった。


佐野造園のHPを覗いてみたら、当主は代々桜守として著名な『佐野藤枝門』を継承し現在16代目(全国の桜守としての活動

は14代目から)、造園業の社名は「植藤造園」とある。自宅の広大な庭園に植樹している約200種のサクラを開花期に一般

開放しており、多くの種類が見学可能な知る人ぞ知るの桜名所なのだ。個人宅の善意で公開されているサクラなので、観光地

の様にはいかないが、機会があったら一度ぜひ訪れてみたいものだ。その佐野藤右衛門作出のサクラがここの保存林に何本

あり、珍しい枝垂れ桜も見ることができた。




満開の『佐野の八重紅枝垂れ』、やや濃い薄紅色の小振りな花がびっしりと付いて見栄えがあった。




可憐ながらも気品を漂わす花びらの連なり、やはり京都地で伝えられてきた高貴なDNAが感じられる。




山の坂道を登ったり、尾根道をぐるっと回ったりしながら、色々なサクラを見て廻ったが、種類の解説や出目なども詳細に案内板

に記されており、読んでみるのもなかなか面白かった。その中に、『牧野日本植物図鑑増補』に画工として植物画を提供して

いる「川崎哲也」氏の創りだしたサクラが数種あり、彼は桜研究家として書籍も何冊か残している(『日本の桜・増補改訂版』等)。

このことは、後から調べて分かったのだが、名前の『飴玉桜(アメダマサクラ)』には、ちょっとびっくりした。とても可愛らしいサクラ

なので、見て思わず微笑んでしまいそうな花姿だが、名前を知って「え~! 何このサクラ~!」と思わず言ってしまった。




川崎哲也氏発見の『飴玉桜』、神奈川県真鶴半島で見つけたとのこと。蕾の形がまん丸に近いののが命名の由来らしい。
マメサクラ×オオシマサクラの交雑種



『薄重大島(ウスガサネオオシマ)』、小振りな花弁だが半八重(5~10枚)の栽培品種、牧野富太郎により真鶴半島で
発見された。鋸歯状の花は、多くのオオシマサクラ品種と同様に、葉と同時に展開する。




多種植えられたサクラ樹の中には、台風の影響で倒れたり、害虫や病気で朽ちてしまった樹も少なからずあった。実生

(種から実を出して成長する、従がって個体のDNAは継承される)と違って、挿し木や接ぎ木による一代限りのサクラは、

本質的に脆弱性を持っているのかもしれない。日本各地のソメイヨシノが枯れる現象に対し「60年寿命説」も言われている

が、100年を超える寿命を生き続けているソメイヨシノの存在も伝えられている。桜守たちは、根の大切さを訴え、古木の

周辺を保護したり、また、古木のとなりに若い苗木を植樹してクローン・サクラの継承を促したりしているが、サクラを愛で

続けるためには、多くの人たちのそういった努力が欠かせないことを理解することが必要だと思う。私の住む建物の周りに

植えられている4本のサクラ(50年以上の古木)も、毎年素晴らしい花を開いて楽しませてくれるので、わざわざ桜(ソメイヨシノ)

見物出かけるのも最近は意欲が少々落ちたが、日本各地にはまだまだ沢山の種類のサクラがあるので、また来年のサクラ

の時期を楽しみにしたいと思う。すでに緑の葉が拡がり、新緑の季節に移りつつあるが、今回サクラ保存林を見られたのは

とてもいい機会だったと感じているのだ。




イロハモミジの新葉が拡がり、明るい陽射しを浴びて初夏の到来を告げていた。



ヤマブキの黄色花も、光り輝いていた。


<付記>この日は快晴に恵まれ、明るい陽射しは初夏を思わせる温かさがあったが、1時間半程の山歩きの後は、翌日身体も
 
軽く感じられ血行が良くなったように感じた。車での往復中、高尾駅周辺で2度(往きと帰りに)信号で長時間止められたこと
 
があった。サイレンを鳴らす警察車両と黒塗り高級車が何台か通過していったが、あれは近くの多摩御陵で、皇室関係の式典
 
があったのだろうと二人でうわさした。そのとばっちりで、高尾山口で美味しいお蕎麦を食べる気力も失せて帰途についたが、
 
町田街道脇にうどん屋を見つけて遅い昼食となった。「開都」という屋号だが、良く知っている「かいと」(足踏みの讃岐
 
うどん店)の姉妹店と分かり、腰のしっかりしたうどんを食べて大満足だった。人生苦あれば楽あり、思わぬ幸運も飛び込んで
 
くるものだ。
 

2016年4月13日水曜日

再開なったどようかいは、おおいに弾けたのだった!



再開なった『どようかい』に集まった面々、皆さんでまた一緒に音楽を楽しめることを喜び合った。
Photo by TAKA and Yatamari


マスターの急逝で約一ケ月お休みしていた椿珈琲店が再びお店を開き、どようかいも再開が成った(4月9日)。茂子ママも、

何時までも店を閉めたままではいられないと、昼間の喫茶を再開し夜は土曜日だけどようかいのために開くことを決めて、

準備の都合から予約制とした。連絡がメンバー達に届いたのでほっと一安心すると共に、当夜は12人の面々が駆けつけて

楽器を弾き・吹き鳴らし、歌い合っておおいに弾けたのだった。



左より、ウッチー(Gt/Pia)・TAKA(Gt/Per)・サイトウさん(Tr/Gt)、Yatamariさん撮影のiPhone斜めショットを
調整したら、ちょっと不思議な画像となった。



左より、キリさん(Pia/Gt)・タッキー(Gt)・ハジメちゃん(Uku)、ピアニカのチューブをマイク代わりにして、十八番の
『雪が降る』を熱唱。「♪ 小雪は来ない~ いくら呼んでも~♪ 」 同じくフォトYatamari


ここでの唄と演奏スタイルは、セッションとかオン・ステージとか格別決めてなく、各自の持ち歌をお店揃えの5冊の歌集の

中から選び、弾き語りや伴奏付きで歌っていく。イントロや間奏・エンディングをソロ楽器(トランペット・ピアニカ・ギターなど)

で入れ、オブリガードやパーカッション(マラカス・シェーカー・クラベス・カホンなど)も加わる。一つの歌曲をみんな参加で

それぞれ楽しみ、次から次へと曲が進むので、6時からスタートした歌会はあっという間に深夜に及び、気がつけば10時

を周っていて遠方から来ているメンバーは、タクシーを呼んでご帰還ということになる。どようかいは1ケ月以上お休みして

いたので、この夜はみんな弾けてしまった。うろ覚えの頭で、当夜唄った歌・演奏した曲を思い出してみるが...

●キリさん:『恋』(松山千春)、『どうぞこのまま』(丸山圭子)、『リバーサイド・ホテル』(井上陽水)

●サイトウさん:『Msty』(JAZZ)、『哀愁の街に霧が降る』(山田真二)、『別れの一本杉』(春日八郎)

●ハジメちゃん:『Stand by Me』(Am-POPS)ーマリさんと一緒、『雪が降る』(アダモ)、『白いブランコ』(ビリー・バンバン)

●茂子さん『Crying Time』(Am-POPS) ●タッキー:『天城越え』(石川さゆり)、『哀しみ本線日本海』(森昌子)

●ウッチー:『パイナップル・プリンセス』(田代みどり)、『夢の中へ』(斉藤由貴)、『あなただけを』(あおい輝彦)

●タカコさん:『朧月夜』(唱歌)、『静かな湖畔』(唱歌)ー4グループで輪唱、『夏は来ぬ』(唱歌)

●TAKA:『黄昏のビギン』(ちあきなおみ) ●ヒサコさん:『昭和枯れすすき』(さくらと一郎)―サイトウさんとデュエット 等々...



ハジメちゃん(Uku)とマリさん(Gt)の伴奏で『Stand by Me』を歌い踊るヒサコさんとキリさん、乗り乗りでした!



茂子さんも『Crying Time』(レイ・チャールズ)を熱唱、右端は飲みすぎでも乗っているダイスケ



サイトウさんとヒサコさんのデュエットは、昭和の名曲(迷曲?)『昭和枯れすすき』、この歌がないとどようかいは終わらない?!



キリさんのPia間奏を入れながら、歌うはタッキーの『天城越え』、ノリノリの演歌です!



タカコさん(元合唱団長)の指導とイズミちゃんの指揮で合唱するのは『静かな湖畔』、4グループに分かれて、追っかけ輪唱。
「俺は、静かな股間だぁ~!」と叫んでいた不届き者もいたが...やれやれ!



私はこの夜専ら伴奏に終始したが、時折シェーカーでリズムを刻んだりもした。フォトYatamari


どようかいは、ウッチーを中心にやってきているが、彼が遠方で家族の介護もあることから、私も補佐している。再開なった

どようかいではあるが、運営の仕方も少し新しさを出して行こうと思っているところだ。49日が明けてまた新しいステージ

に入ったら、例えばお店のレイアウトを変えて小ステージ・スペースを作ったり、ピアノを前に出してきたり、マスターが集めて

まだ使ってないアンプやマイクを活用したり...色々なアイデアは出ているが、まずは店主茂子さんのやりたいようにやったら

よいと私は思っている。定年後の楽しみにマスターと二人で開いた店なのだから、マスターがいなくなっても、集ってくる人々

と楽しい時間が過ごせるようにやっていかれたらよろしいのだと思う。なにせ、集めた楽器はギター(数本)・ELベース・トラン

ペット・サックス・ウクレレ・三味線・DGピアノ・鳴り物各種...とにかく、楽器を持参しなくて済むので、店置きの楽器を

使わせてもらえるのは大変助かる。昨今はギターを背負って移動するだけでも疲れるからね。我等、行き所のない淋しい

おじさん・おばさんたち? と最近加わってくれた若い世代の人たちとともに、一緒に音楽を楽しめるスペースで在り続けて

欲しいと誰もが願っているのに違いないのだ。

2016年4月10日日曜日

シルク・ドゥ・ソレイユ・『TOTEM』 東京公演を観た!



『TOTEM』のテーマ・メインビシユアル、樹木・カメ・カエル人間・蝶・竹など、自然物のイメージを組み合わせたロゴで
表現されている。 All Photo by 「フジテレビ・ダイレクト」HPより。


ダイハツ工業・特別協賛の シルク・ドゥ・ソレイユ『TOTEM』を、お台場のビック・トップで観てきた(4月5日)。日本公演はフジ

テレビジョンが主催、企画はシルク・ドゥ・ソレイユ(フジ~も共同企画)だ。前回の公演(2014年4月25日に観た)『Ovo』以来

2年振りとなる。その時の感激は今でもよく覚えているが、このブログにも以下のように載せている...「各出演者(゛アーチスト゛

と呼んでいた!)の身体能力とパーフォマンスのレベルは高く、衣装の色やデザイン、芸の道具仕立てと舞台構成の素晴らしさ、

そして全編オリジナル曲を生演奏で聞かせてくれる音のハーモニーの心地よさと迫力。『かってないスケールと芸術性を

融合したアクロバットの数々』(パンフより)と謳われるのも納得できると言うものだった。」 演目の違いこそあれ今回も見ご

たえ十分、30分の休憩を挟んで、あっという間の2時間半だった。今回の公演の中から記憶に残るパーフォマンスを幾つか

ご紹介しよう。


『ロシアン・バー』:長さ5m×20㎝位の細長いばね板の上で、飛び跳ね・回転する゛宇宙遊泳人間゛の様なアクロバット。
3人が並行するバーの上で飛び交い位置替えするのにはビックリ。衣装もアポリジニ・アートのような、カラフルで不思議な
幾何学模様だった。迫力とスリル満点!



『ユニサイクル・ウイズ・ボール』:インドネシアの原住民のような衣装の女性たちが、高さ2mの一輪車を漕ぎながら、
金属のボール(お椀)を片足で投げ飛ばし、それを頭の上で受ける集団アクロバット。連続10枚というチョー難しい技だが、
ほとん落とさずに観客から大拍手!!!



オープニングで、ステージ中央にある巨大な亀の甲羅(地球上の生命の起源を象徴しているとのこと)で始まるカエル
達のパーフォマンス。平行棒で、2・3人同時に棒から棒へ飛び移り、宙を舞う姿は圧巻だった。




『フィックスト・トラビス・デュオ』:空中ブランコのアクロバット、恋人同士ような男女二人がつなぎ合い・絡まり合いながら、
極限の空中フォームを披露する。よくそれで落ちないね! と感心しながら観ていた。




『ローラースケート』:結婚式の白い衣装に身を包んだ男女2人によるアクロバット、直径1,8メートルの台の上で回転し
旋回する。特に、二人の身体を首輪でつないで、女性が自転しながら高速で回転するのは、深い信頼関係がなければ
不可能な技だと思った。手に汗握っちゃいました!



『TOTEM(トーテム)』というネーミングは、「太平洋岸の北米原住民族間で自分の部落の表象とする動物またはその他の

自然物;彼等はそれを自分らの先祖として神聖視する」(CROWN・英和辞典より)と辞典にある。私達には「TOTEM POLE」

(トーテムポール);トーテムの像を丸太に刻んで色彩を施したもので、悪魔よけとして家の前に建てる(同辞典)の名で馴染み

がある。モチーフとなって彫り込まれているのは、自然界の動物や鳥、湖や海・川に住む魚や動物、また先住民が伝承して

きた神話や伝承に登場する怪物や超能力的な存在等だ。シルク・ドゥ・ソレイユは現在、世界中の各都市で18の演目を同時

公演していると聞くが、この『TOTEM』も2010年の初演以来、アメリカ・ヨーロッパ・オセアニアなど7ヶ国33都市での公演を

続けている(400万人以上動員)。演出家のロベール・ルパージュが創りだした幻想的な世界観は、原始の世界あるいは

先住民たちが住んでいた豊かな自然や超自然的な霊物の存在を彷彿とさせるイメージに満ちている。「宇宙から舞い降りて、

地球に生命を与える」役の『クリスタルマン』(キンキラキンに光る衣装で天井からロープで降りて来る!)もそうだし、『フープ・

ダンサー』(インディアンの衣装に身を包んで、6個の輪投げを自在に操る)にしてもそうだ。



『クリスタルマン』は、ほとんど逆さづりになったままで天と地の間をロープで上下する。いやはや、頭にみんな血が
上って(いや、下がって)しまうのではないかと心配した。


それらのアーチストたちが次から次へと繰り広げるアクロバットの凄技は、ステージ中央奥に設けられた楕円形の板状ステ

ージに、プロジェクション・マッピングで映像(画像や動画)が写しだされ舞台のイメージが造られていく。そしてその中央が

可動式ステージとなって、ステージがせり出したりカーブして上方に畳まれたりして、アーチストたちが登場し退出していく。

最新のテクノロジーによる演出は迫力満点だった。舞台を見続ける私は、手に汗握り心臓はバクバク、上を見上げては

口をあんぐり開けたまんま...楽しかったけれど結構疲れた~! だった。ラテン・サウンドの音楽も良かったし、キャラクター

達(サンエンス・アーチスト、クラウン・フィッシャーマン、ヴァレンチーノ等)のコミカルな動きも楽しめた。

前回観た『オーヴォ』は、集団空中ブランコや巨大な壁(10m位)にトランポリンで跳ね上る集団芸など、スケールの大きな

アクロバットが多かったが、今回の『TOTEM』は、1人または2人の超絶的アクロバットが多く、曲芸の原点を見るような楽しさ

があった。世界各地で人気を得ているのも、そんな解りやすいアクロバットであることによるのだろうと感じた。私のシルク・ドゥ

・ソレイユ好きを知っていて、チケットを手配してくれたHIさんも、大いに楽しめた、と言ってくれた。会場の観客も老若男女

・家族連れ・孫連れ・カップルなど非常に広い客層だったことも、この公演の人気ぶりを見させてもらった。



『フィナーレ』で、空中釣りのクリスタルマンを中心に、歌い踊る出演者たち、もちろん音楽は陽気なラテン・サウンドだった。


2016年4月7日木曜日

フィギュアスケート世界選手権2016より(その2)



男子シングルの表彰台は、ハビエル・フェルナンデス(金/スペ・23歳)、羽生結弦(銀/日・20歳)、金博洋
(ボーヤン・ジン、銅/中・17歳)の3選手だった。 All Photo by Zimbio


今年のフィギュアスケート世界選手権・男子シングルの競技結果は、順当だったと思う。どちらが優勝してもおかしくない二人

は、フェルナンデスの安定性が光った。羽生結弦は、調子のピークをGPS・ファイナル戦に持っていったため、一年の王者

を決める戦いで、体調が万全でなく(左足甲の故障?)また、SPの高得点で優勝を意識して硬くなったか緊張気味で身体が

良く動かなかった。その中で、ボーヤン・ンの健闘とミハイル・コリヤダ(4位/ロ・21歳)の急成長ぶりが光った。



フランク・シナトラのジャズヴォーカルに乗って滑るフェルナンデスは、肩ベルトの粋な男を演じきった。


試合後の選手インタビューで、羽生結弦が同じコーチ(ブライアン・オーサー)の元でトレーニングするフェルナンデス(ライ

バルでもある)を評して゛柔(やわらか)゛と言っていたのが印象的だったが、SPのテーマ曲は『ラ・マラゲーニヤ』、FSは

『野郎どもと女たち』、ともに彼のスケーティングの滑らかさが秀逸だった。とくにFSでは、ジャズのスゥイングに乗って、

軽やかにステップを踏みながら、全てのジャンプをノーミスで成功させた。その中でも、4回転サルコーと3回転トゥ―

ループのコンビネーションは、中継するイギリスTV局の解説者に「羽根の様だ!」と言わしめるほどふわりと舞った。自己

ベストを更新して、FS216.41/合計314.93という得点も素晴らしかったが、世界選手権2連覇という偉業は、近年では

エフゲニー・プルシェンコ(ロ・3回)、パトリック・チャン(カ・3回)に迫る記録なので、どこまで彼の時代が続くかは見物だ。



試合後のKiss and Cryで、コーチのB.オーサーと話なが悔しさをむき出しにする羽生結弦


昨年12月のGPSファイナル戦(スペイン・バルセロナ)で、合計得点330.43という途轍もない記録を打ち出した羽生にとって

今回SP1位の結果は、再び『異次元の世界』に挑むステップかと誰もが期待を抱いただろう。しかし、運命の女神は微笑

まなかった。フェルナンデスも、足に故障を抱えながらの演技だったが、羽生にとっても4回転ジャンプや、それを入れたコン

ビネーションを多用することで、軸足への負担が増していたのだと思う。フィギュア・スケーターにとって、高難度の技術に

挑戦し続けることは、さほどに身体への負担が厳しくなっているのだろう。それは体操競技など多くのスポーツに共通のこと

で、進化し続ける身体表現技術の際限は、当分止まないだろう。いやはやアスリートにとっても大変な時代になったものだ。

縮緬ジャコをたくさん食べて、骨強化に取り組まねばならないだろう(おバカを言っていますが...)! FSのテーマ曲『SEIMEI』
 
も、陰陽師という稀有な日本的な世界観に取り組んだことは評価できるが、身体表現が伴わなければその「絶対的イメージ」は
 
崩れてしまう。勝負にこだわることは大事だが、もっとリラックスして楽しい世界観にも挑んでみたらより軽やかに滑れるの
 
ではないかと私は思うのだが...しかし当分の間、ライバル同志の凌ぎあいが続くだろうから、また来シーズンの戦いを楽しみ
 
としたい。


3種類・4度の4回転ジャンプに挑戦したボーヤン・ジン、まだ粗削りだが表彰台に立ったのは立派のひとこと。


ペアダンスに強い中国から、今年は男子シングルで初めて表彰台に立ったのがボーヤン・ジン、宇野昌磨(7位/日・18歳)と

ジュニア時代から良きライバルとして戦ってきた選手だ。女子女王のメドベジェワもそうだが、新採点ルールで育ってきた

若手選手達は果敢に高難度のジャンプに挑戦する。それが高得点を得られる道だから。そして、ステップやスピンの表現力も

身に付けられれば鬼に金棒となる。彼の細い身体に、筋力がついて来ると、これからもトップを脅かす存在になる可能性

だ思う。


ノーマークでダークホースとなったミハイル・コリヤダ(4位/ロ・21歳)、ノーミスジャンプとスピンの素晴らしさで
入賞を果たした。



往年のチャンピオン・パトリックチャンも、ジャンプにミスが出て(カ・25歳)5位に沈んだ。




ベテランのアダムリッポン(米/6位・26歳)は健闘して入賞、FS『ビートルズ・ナンバー』は会場を沸かせた。
「コスチューム大賞男子部門」(TAKAの勝手)は彼に贈りたい。紫色の衣装と紋章風のアクセサリーが素敵だった。


フィギュアスケートの楽しさは、滑走技術のもさることながらテーマ曲の世界観の表現という芸術性(あるいはエンターティ

メント性)にもある。そういう観点では、男子優勝のフェルナンデスの「ふてぶてしさ」というか「いい加減な兄ちゃん」の

雰囲気を醸し出した身体表現は光っていた。F.シナトラの唄と「ジゴロ風」な彼の仕草はぴったりだった。スケーティングは、

やはり滑る人のキャラクターも色濃くにじみ出てくる。往年のカロリーナ・コストナー(伊・2012世界選手権・金)の

『ボレロ』、荒川静香の(トリノオリンピック・金)の『トゥーランドット』、遅咲きだった小林明子(2012NHK杯・銀)の

『オー(シルク・ド・ソレイユのテーマ)』など、記憶にいつまでも鮮明に残っているパーフォマンスは、スケーティング技術

と芸術性が見事にハーモニーした瞬間だったと思う。ベテランの選手たち(浅田真央しかり、A.ワグナー・G.ゴールドしかり、

P.チヤンやH.フェルナンデスしかり)には、ぜひそういう「ハーモニー」を見せ続けて欲しいと願うものだ。



フィギュアスケート競技では、ペアダンスとペアの競技に有力な日本選手がいないため、報道やTV中継もシングル競技に

片寄ってしまうが、二人で息の合った表現やアクロバチックなダンスも魅力は大きい。如何せんそれを見られる機会が少ない

のは残念ではある。この記事もシングル競技だけになってしまうが、トップ選手たちの活躍を見てフィギュアスケート競技に

入って来る児童たちも増えているようだ。ジュニア選手の国際舞台での活躍も目立つようになっているので、これからもこの

競技を楽しんでいきたいと思う。音楽世界のテーマををバックボーンにした身体表現技術と芸術性の融合という点では、とても

楽しめるスポーツであることを感じながら、来シーズンの各選手の活躍を期待したい。


<この項終わり>

2016年4月6日水曜日

フィギュアスケート世界選手権2016より(その1)



女子シングル表彰台は、エフゲニア・メドベージェワ(金・ロ)、アシュリー・ワグナー(銀・米)、アンナ・ポゴリラヤ(銅・ロ)
の3選手だった。6位までの入賞者も、ロシア3選手・アメリカ2選手・日本1選手と、圧倒的にロシア勢が強かった。
All Photo by Zimbio


アメリカ・ボストンで開催された今年のフィギュアスケート世界選手権(2016.3/28~4/3)は、今シーズンのフィナーレを飾る

に相応しい見応えのある大会となった。特に女子シングルの戦いは、ハイレベルの競技が繰り広げられ、上位選手はほぼ

ノーミスというスリリングな結果となった。SP(ショート・プログラム)の上位6選手は全員70点台の成績だったし、フリー・

スケーティング(FS)でも、同じ6選手が138点以上(グレイシー・ゴールドは134点)、合計得点でもその6選手が210点以上

(E.ラジオノワは209点)という、まことに素晴らしい競技を楽しめた大会だった。




金メダルを獲得してウィニング・ラン(ウィニング・スケート?)で観客に応えるE.メドベージェワ(ロ・17歳)


優勝したメドベージェワの演技は、とても安定していた。SPもFSもジャンプはノーミス、ステップもスピンも演技にメリハリが

あり、『白鳥の調べ』(SP)・『ヴォリスとエドワード』(FS)のテーマ曲(共に映画音楽)の世界観をよく表現していた。やはり、

何といっても彼女のジャンプは、フィギュア新時代を象徴するような゛手挙げジャンプ゛がほとんどだった。「出来るだけ多くの

ジャンプを、できるだけ完成度高く飛ぶ」ことに採点の重視が置かれた得点ルールの中では、難度の高いジャンプ(手挙げ

やコンビネーション)を成功させることは高得点に繋がるということを、コーチとともに作戦を立てて競技に臨んでいることが

解るのだ。フィギュアスケートのジャンプは、6種類あって(アクセル/A・ルッツ/R・ループ/L・サルコウ/S・トゥループ/T

・フリップ/F)、それぞれ、1/2回転多く廻るか、前向きか後ろ向きかで踏み切るか、右・左足の外エッヂか内エッヂかで踏み

切るか、右か左足の先端をついて踏み切るか等で分れるのだが、私自身もTV中継で見ていても即時に判断できない場合が

多い。しかし、メドべージェワの場合、6種類全てのジャンプを3回転+3回転(+1 or 2回転、ルッツのみ単独)のコンビネー

ションで飛んでいた! しかも完璧に! 恐るべき17歳だ。これでは、3A(トリプルアクセル)を一本勝負に 10年を超えるシニア

戦を以前の採点基準で争ってきた浅田真央(日・7位25歳)も敵わないだろう。日本期待の宮原知子(5位)にしても、滑走技術

完成度は高まっているが、まだ3Aは飛べてないし、3+3回転のジャンプは組み込まれていないのだ(3回転+2回転のみ)。

まったく女子のフィギュアスケートも「異次元の世界」(羽生結弦の演技を評しての)になっちまったのだ! ジュニア時代から

の高難度演技に挑戦する選手の多くは、故障を抱えているか、あるいは故障のため選手生命を絶たれてしまうか、身体に

負担の多い高難度ジャンプはリスクも大きいのだけれど、メドベージェワが故障もなく選手生活を送れれば、これからも

大いに活躍するだろう。日本のアニメが好きな彼女が、勝利インタビューの折にセーラームーンの歌詞を日本語で唱って

いたのがとても印象的だった。



SPのノーミス演技を終えて、会心の出来具合をリングに座り込んで喜ぶアシュリー・ワグナー(米・24歳)


大事な局面でジャンプミスが出て、なかなか表彰台に上れなかったワグナーが、今回はやってくれました。スピンやステップ

も良かったが、ジャンプは3A以外のジャンプをすべてきれいに決めた。とくに、3F+3Tと3R+3Tの3回転コンビネーション

の出来が抜群だった。私はこの゛左回りジャンパー゛が好きで、スピードに乗ったキレのいい演技を好ましく思ってきた。全身

バネの様な体躯と、表情や身体から醸し出す表現力も巧みで、『Hip Hop Chin Chin』(SP)と『ムーラン・ルージュ』(FS)

のテーマ曲に乗ったきびきびとした演技は、観客を大いに魅了したのだった。世代が若返り、気がつけばシニア戦10年

以上のベテランは浅田真央と彼女の二人だけ。でも、ようやく大きなメダルを獲得したのだから、これからも氷上でもう一花

咲かせてほしい。


FSの演技を終えて喜びを爆発させるアンナ・ポゴリラヤ(ロ・17歳)、ジャンプの安定度が増して好成績に
つながった。テーマ曲『シェヘラザード』は、「千一夜物語」の語り子になる王妃の名前、世界観を表現
する衣装とアクセサリーでも、「コスチューム大賞」を贈りたい(TAKAの勝手です!)。


GPS(グランプリ・シリーズ)の低迷から、誰がポゴリラヤの表彰台を予想しただろうか? かく言う私もノーマークだった。やはり

ジャンプの成功が大きいと思う。今まで長身(167㎝)を生かし切れず、飛びあがった後着地で転倒するシーンが多かったの

だが、今シーズンの最後はそれがなかった。彼女も3A以外の全てのジャンプを成功させた。そうなると長身のダイナミックな

体躯は生きてくる。実際のところ『シェヘラザード』(バレエ音楽より・FS)の東洋的衣装と振り付けに乗った演技は迫力があった。

スピードに乗っていたし、全身を大きく見せていた。彼女としては今シーズン一番の会心の出来だったと思う。最後の舞台で

それをできた事が、大きな喜びになったのだと思う。

 

SPノーミスの高得点を生かせず、FSのジャンプ・ミスでメダルを逃したグレイシー・ゴールド(4位/米・20歳)。
リバーシブル衣装の赤と黒・赤の髪飾りと金髪が、気品の中にもドッキリ感を醸し出してGood! だった。


ほぼノーミスの演技ながらジャンプの切れが今一つでメダルに届かなかったエレーナ・ラジオノワ(6位/ロ・17歳)


ハイレベルの戦いの中でやや緊張気味だった宮原知子(5位/日・18歳)、さらなる成長を期待したい。


女子フィギュアスケートの世界はまことに盛衰が激しい。特にロシア選手では、2年前のソチオリンピック・金メダリストの

アデリナ・ソトニコワは、1年休養の後今シーズンは低迷しているし、同じソチで活躍したユリア・リプニツカヤもここ2シー

ズンぱっとしない。昨年の世界選手権を制したエリザベータ・トゥクタミシェワも、昨シーズンの活躍がウソのように沈んで

しまった。私は彼女のバネのある体躯から繰り出す妖艶な演技のファンなのだが、また来シーズンの復活を期待したい。

こうした浮き沈みは、ハイレベルな演技が身体への負担や故障を加速させている面もあるが、一方で競技選手が増えた

ことで、ジュニア時代からの競争が激しくなっている面もあるだろう。その中で、今回6位に入賞したエレーナ・ラジオノワ

は、身長が10㎝以上伸びつつも第一線で活躍しているし、今回SPで1位に着けながらFSは硬くなったのかジャンプ

のミスで表彰台を逃したグレイシー・ゴールド(4位)は、来シーズン挽回を期してくるだろうし、日本の宮原知子(5位)も、

ジャンプの種類を増やしコンビネーションにも挑戦してくるだろう。来シーズンのフィギュアスケートが、技術面でも表現

面でも、さらに高度で質の良い競技となるのを期待したいと思う。

<この項つづく>