2018年12月30日日曜日

F.スケート全日本選手権2018の、ドラマチックな好勝負を堪能した。




女子シングル(S)戦の表彰台には、熾烈で高レベルの演技をした3選手が上がった。坂本花織(18歳)が228.01の高得点で
優勝、紀平梨花(16歳)が223.76で2位、5連覇を目指した宮原知子(20歳)は223.34で3位。4位の三原舞依(19歳)は220.30
と、4選手が220点台をマークするという結果は、日本女子選手層の充実振りを見せてくれた。
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F.スケート全日本選手権(第87回・大阪門真市)女子S戦を制した坂本花織は、SP(ショートプログラム)でノーミスの

2位・FS(フリースタイル)もノーミスの2位ながら、結果最高得点で優勝した。かたや、紀平梨花はSPで3A(トリプル

・アクセル)を転倒して5位・FSではその3Aを2本決めて1位、結果得点は2位となった。゛ミス・パーフェクト゛の

宮原知子はSPでその名をいかんなく発揮してノーミスの1位、ところがFSではジャンプに2つのミスが出て4位となり、

結果得点は3位となった。4位の三原舞依は、SP・FSともにノーミスながら、PCS(演技構成点)がいまひとつで表彰

台を逃した。



「今までは、視線がジャッジさんより下になっていたんですけど、今日はもう『跳ぶから見てろよ』という感じで、
むっちゃ見てました」(Sportsnavi) 、気迫の勝利を勝ち取った坂本花織。



各選手のこのせめぎ合いを見ると、浅田真央引退後の日本女子選手のレベルが非常に高くなり、国際試合での表彰台

にも度々上れる結果に繋がっている。GP(グランプリ)ファイナル戦に残った6選手は、ロシア勢3選手と日本勢3選手

だったことからしても、来年3月の世界選手権での好結果に期待が持てる。ここまでの高レベルな演技での試合を推

理すると、最高難度のジャンプ3Aを有する紀平梨花にしても、その成否が得点を大きく左右する。また他選手にし

ても、各種のジャンプやステップ・スピン演技においても、エッヂミス・回転不足。転倒などによるGOE(出来栄

え点)減点は、直接得点結果に影響する。ES(技術点)のみならず、芸術点とも言われるPCSの高得点は、言わばスケー

ティング技術の成熟点でもあるから、キャリアを重ねて表現技術を磨いた者にのみ与えられる評価だ。この点に関

しては10代半ばの若手選手では一朝一夕にこれを獲得するのは困難だろうと推察される。表彰台に上がった選手、

入賞した選手ともに、次回の勝者は誰になってもおかしくない程実力が接近している。しかも高レベルで。いず

にしても、今後のF.スケートを楽しめる要素が増えていることは、誠に喜ばしいことだと思う。



スケートシューズのテーピングによる調整が上手く行かず、SPでは3Aを転倒したがFSでは見事に2本の3Aを決めた
紀平梨花、今シーズンの躍進を世界選手権でも見せてくれるか?


再構築しているジャンプの安定性を掴みつつある宮原知子、表現力にも増々磨きがかかってきた。しかし、FS演技
では各選手とも黒っぽいコスチュームになるのはどうしてなのかな?



男子S戦で会場を一番沸かせたのは高橋大輔の演技だった。引退表明以後4年を経ての復帰表明から約半年、脚部の

肉離れや足のけがを乗り越え、関西地区予選2つを勝ち上がって全日本の舞台に登場してきた。私もここまでやって

来るとは予想外だったし、本人もかなり厳しいトレーニングを積んだというが並大抵のことではなかったと思う。

2010年世界選手権優勝・同年のバンクーバー冬季オリンピック銅メダルなどの輝かしい成績を有するレジェンドが、

試合での緊張感を求めて再びリンクに登場したのを観客は大声援で迎えた。FSでは冒頭で4T(トゥループ)に挑戦し

3Tとはなったが、3Aは成功し現役当時世界一と評された華麗なステップを披露して大きな拍手を得た。キス & クラ

イで自身の得点を確認すると「え~! うっそ―、マジで~!」と驚いて見せたが、ジャンプの失敗が重なったのでそ

んな高得点だとは信じ難かったのだろう。若い後進に道を譲りたい、ということで世界選手権への出場は辞退した

が、まだまだ彼の演技を試合の中で見たいファンは沢山いると思う。国際試合のリンクに立つ彼の姿を私も期待し

ている。羽生結弦欠場の全日本選手権を、高橋大輔が盛り上げてくれたのは、F.スケートファン冥利に尽きること

だった。



右足首負傷のためスケートシューズが履けず、スポーツシューズのままで表彰台に上がった宇野昌磨(20歳.優勝)と
予想外の準優勝に自身で驚いた高橋大輔(32歳)、必死の踏ん張りで3位に食い込んだ田中刑事(24歳)の表彰台3選手。



優勝した宇野昌磨については、このブログ(今月13日・『宇野昌磨はシルバーコレクターのままなのか?』)で触れ、

飽くなき勝負へのこだわりが必要だ!」と述べた。この全日本選手権で、彼が真の勝負師の姿を見せてくれたのは

とても嬉しい。SP公式練習の最中に足をひねって負傷した彼は、SP終了後のインタビューで、「怪我のせいだと言

い訳したくないので、詳しくは試合終了後にお話します。」と言い右足首の負傷については触れなかった。また、

ねん挫して痛みのある足首の状態ではFS試合を棄権すべきだ、という樋口コーチに対して、「これは僕の生き方

です! (地上を歩けるなら出ようと思った。)」(Number Web)と言って出場にこだわった。試合後には、「アクシデン

トの中でも、だからこそ、自分を信じることが出来た。その経験を今季後半の試合に生かせたらな、と思います。」

(同) と答えている。かくして、SP.102.06・ FS187.04 計289.10の今季自己ベスト(国内試合のため非公認・羽生結弦

のフィンランド杯297.12に次ぐ)の高得点で彼は優勝した。火事場のくそ力、でもないが、何か障害のある時にこそ

普段に倍する能力を発揮できる事例を我々もよく見ているが、負傷を力に変えた宇野昌磨の勝負魂は本ものだと思う。




右足首怪我を乗り越え、渾身の演技を終えた後の宇野昌磨の吠えるような表情。勝負師としての気迫がみなぎる
1ショットだ。ようやく一皮むけて戦う男の顔となった。



大ちゃんのステップは世界を魅了する素晴らしいものだということを改めて認識した演技だった。ミーシャ・ジー
に師事する友野一希(今回4位)や、ステファン・ランビエールをコーチに持つ島田高志郎(今回5位)も力を着けて来た。
彼らのお手本と成るべくもうしばらく現役を続けて欲しい。



小さなジャンプミスはあったものの4S(サルコー)のコンビネーションを決めて気を吐いた田中刑事、ベテランの
踏ん張りは嬉しい。



さて、2018年のブログは今回にて〆とさせて頂きます。アクセスいただいた皆様・ご愛読いただいた皆様には
厚く御礼申し上げます。2019年(平成31年)がより良き年となることをお祈りして、来年もまたどうぞよろしくお
願いします。



2018年12月25日火曜日

復活「うちだばんど」X'masライブにお祝い出演




10年振りに復活なった「うちだばんど」の面々、バンマス内田裕之(ウッチー)/Pfと北川立也/Ts(前列)、
風早龍也/Baと花見至常/Ds(後列)、実力者メンバー達の創りだすサウンドは、歯切れがよく心地よかった。
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音友ウッチーがバンドを復活してライブをやることになり、懐かしいメンバー達が経堂マレットに集って、クリス

マスの一夜を乗りのいいジャズ・ナンバーで彩った。Voにこれもまた以前のメンバーだった菊池りかを迎え、パワ

フルな歌声で共演した。Baは、愛娘の千秋さんが担当していたのだが、今回は都合がつかず代わりに以前共演した

ことのある風早さんが今回のメンバーとなった。Pf・Ba・Drのお三方は、私の「Jovial TAKA Band」のバックを

何度か勤めて頂いたこともある方たちなので、これはぜひ聞きに行かねばなるまいと駆けつけることとなった。

準備中の折、かようかい(喜多見・椿珈琲店での歌会、毎週火曜日例会)の時に、色々なゲストを迎えて賑やかに楽し

たい、との構想を聞き、それじゃぁ私もお祝いに2曲歌いましょう、と話がまとまった。ウッチーからは一緒にリ

してバックバンドでやってほしい、という要望もあったのだが、余り本格的なことではなくお祝いに気軽な形が

いいと思い、ウクレレとピアニカのユニット「Taka & Roco」でやらせてもらうことにした。



ヴォーカルの菊池りかさん(右)、地元狛江でジャズ・ライブを開いたり、音楽教室で歌を教えたりと活躍中、
この夜もリズムカルで乗りのいいジャズ・ナンバーを聞かせてくれた。



ライブは、「リカズ・ドリーム」(バンドのテーマ曲)で始まり、1部全体と2部の真ん中に「Lullaby of Birdland」・

「Guilty」・「Cry me a River」などのお馴染みのジャズ・ナンバーを演奏し、ラテンやボサノバも入るなど多彩。

唄うドラマーの花見さんが「The Nearness of you」を披露したり、りかさんと二人のデュエットで「The lady is

 a Tramp」が混じるなど、楽しい曲が続いた。最後は「No More Blues」(バンドテーマ曲)で〆た。楽しそうに演

するメンバーの皆さんの顔が輝いていた。やはりゲストとして、狛江のシンガーソング・ライターのさこ大介が

「宝石箱」など2曲を披露し、またりかさんピアノ伴奏をしているコーラス・グループのメンバー達が、クリスマ

・ソングをメドレーで歌い、「きよこの夜」を会場の皆さんと一緒に歌ってライブは終了した。



「Taka & Roco」(Takaのウクレレ弾き語りと、Rocoのピアニカ・コーラスによるデュオ)も2曲をお祝いに演奏して、
復活バンドに色を添えた。Photo by Ryo


2部の頭で、Taka & Rocoがこの夜のお祝いのために用意した曲は「Coraçao de Wine-Red」(ワインレッドのこころ)

とオリジナル曲「君に酔ってしまいそうな夜」。「ワインレッド~」は、テンション・コードによるウクレレ・サ

ウンドとポルトガル・バージョンの歌詞が珍しいのか、お客さんたちから大きな拍手をいただいた。軽快なリズム

の「君に酔って~」を歌い終えてから、「では皆さん、今宵は音楽とお酒でおおいに酔いしれて下さい!」と言って

マイクをバンドに返した。Rocoも2曲とも何度か一緒に披露している曲なので、リズムに乗って気持ち良く歌い・

演奏できた。

バンド演奏が終了した後も、お客さんたちの歓談が続いたが、以前共演したことのあるヴァイオリン弾き・みほこん

が来ていたので、ウッチーから「黄昏のビギン」を一緒に演ろうと提案があり、私はマイクを握って歌うという

おまけもあった。狛江在住のギタリスト・リョウちゃんと久し振りに挨拶したり、風早さんと「ご無沙汰で~す」

と話したり、くつろいだライブの間、顔見知りの方達とお会いできたのも嬉しかった。今年の音楽シーンをを締

める楽しいライブだった。



2018年12月13日木曜日

宇野昌磨はシルバー・コレクターのままなのか? 2018 GPファイナル男子Sより




ISU(国際フィギュアスケート連盟)のGP(グランプリ)ファイナル戦の表彰台は、ネイサン・チェン(金.米19歳)、
宇野昌磨(銀.日20歳)、チャ・ジュナン(銅.韓16歳)の3選手だった。3選手ともジャンプのミスが目立ち、今一つ
盛り上がりに欠ける試合だった。画像はISUホームページより



宇野昌磨のここ3シーズンにわたるF.S.(フィギュア・スケート)主要国際試合の成績を見てみると、2017世界選手権

2位(優勝は羽生結弦)・2017GPファイナル2位(優勝はN.チェン)・2018冬季オリンピック2位(優勝は羽生結弦)・2018

世界選手権2位(優勝はN.チェン)・今回のGPファイナルも2位だ。国内選手権やGPSシリーズ戦ではトップに立てても、

肝心な試合では表彰台の真ん中には立てないでいる。パトリック・チャンとハビエル・フェルナンデスが一線を退い

た今シーズン、右足負傷のためGPファイナルを欠場した羽生結弦の不在で、今回こそ優勝のチャンスが巡ってきたか、

と思われたが、結果を出せなかった。宇野ファンの方達には申し訳ないが、万年2位に甘んじている宇野を称して、海

外メディアの一部には「シルバー・コレクター」というあり難くないニックネームを供する所もある。



4種類の4回転ジャンプを駆使し、3A(トリプルアクセル)も加えたジャンプのGOE(出来栄え点)も高く、ステップや
スピンも高いレベルで演技できるバランスの良さが彼の身上だ。テーマ曲の表現レべルもメリハリがあり、PCS
(演技構成点)も常に評価が高い。それでいて勝てないのは、何が欠けているのか?



常に高い目標を掲げ、アスリートとしての自分の存在を高めるために、厳しい鍛錬を自己に課す゛修行者゛のよう

羽生結弦は、オリンピック2連覇と主要国際試合のタイトルをほとんど手中に収めたが、代償として自己身体の損傷を

余儀なくされた。恐らく、身体の回復を機会にまた競技一線に復帰してくると思われるが、長らく頭の上に居る

羽生結弦の存在に宇野昌磨は甘んじてしまったのだろうか? 彼の戦うためのモチベーションが良く見えない。(羽生

結弦のモチベーションについては、このブログ11月12日の項を参照されたい) 

GPファイナルの後のインタビューで「自分を信じる難しさ。こんなにも自分のことなのに難しいんだなと実感して

います...僕の中では3A(アクセル)と4T(トゥループ)は余り失敗しないジャンプ。それが練習で立て続けに失敗した時

に、自身を失くしてしまったのだと思います。」(Number Web) 彼の話は時に客観的で、勝負にこだわらない冷静さや

屈託のなさを見せるのだが、一方でどのような高みを目指すのか? あるいは具体的な目標が何か? というものが見え

てこない。「今度は、ユズ君に勝ちたい!」というコメントもあったが、羽生欠場でそれも見えなくなったのだろうか? 

推測を重ねても仕方ないが、現在ISU世界ランキング1位であり、国際ジャッジもその実力と才能を認め練習量も豊

富な彼が、真の実力者1位に輝くには、一皮むけて飽くなき勝負へのこだわりが必要だと思う。




 ▢N.チェンは、SP・FSともにジャンプのミスはあったが、4F(フリップ)と4T+3Tのジャンプは出色の出来だった。
ジャンプ以外のステップ・スピンはレベルも高く磨かれて総合力の強化が感じられる演技だった。゛4回転ジャン
パー゛からバランスの取れたF.スケーターに成長した彼は、これからも表彰台の常連となるだろう。



2015年からカナダのブライアン・オーサーコーチの元で指導を受けて来たチャ・ジュナンが、GPファイナルで
銅メダルを獲得したのは快挙と言えよう。177㎝の長身ながら身体が柔らかく、ジャンプ・ステップ・スピンの
演技バランスも良い。今後の成長が楽しみな若手選手の一人だ。



2018年のGPS7戦を振り返ってみて、やはりジャンプのE.S.(基礎点と出来栄え点を足した技術点)がいかに大切か、

ということを知らされる。ちなみに、N.チェンはFSジャンプ7本の演技で101.79中の79.09(77.7%)jをマークし、

紀平梨花は同ジャンプ7本で78.21中の56.64(72.4%)を稼ぎ出している。正確で美しいジャンプが如何に得点を左右

するかがわかる。また、選手を指導するコーチ、あるいはコーチング・スタッフ(単独の指導者ではなく、複数以上

の専門的な分野を指導するスタッフのいる組織的コーチ体制)の重要性も増してきている。例えば、カナダのチーム・

ブライアン(Brian OrserとTracy Willsonのもとに専門コーチが集う指導組織)では、ジャンプ専門はGhislain Briand、

スピン専門はPaige Aistropなど、その他に専門コーチによる分野指導体制と2人のヘッドコーチが総合的に各選手を

見る組織が機能している、という(masatoyo ogasawara blog)。

今シーズンからチーム・ブライアンに移ったジェイソン・ブラウン(米23歳)は、GPフランス杯のSPで、3Aを加えた

3種類のジャンプを完璧に決めて96.41の高得点をマークし、N.チェンを抑えてトップに立った。FSでは、その3Aが

決まらず結果総合得点2位だったが、コーチを変えてジャンプに磨きをかけた成果が如実に表れたシーンだった。本来

の表現力に加えて、改善したジャンプの技術点が上がリ、キス & クライでも大喜びする本人の姿が印象的だった。

今回まだ成果を出せなかったが、エフゲニア・メドべージェワもG.ブリアンに指導を受けてジャンプを見直しつつ

あるし、日本に招へいして彼の指導を受けた宮原知子も、成果はこれから出てくるのではないかと思う。


G.ブリアンの指導によると、両肩と両腰を結ぶ線が正確な正方形を描く空中姿勢が取れたら、ジャンプはより正確

に美しく飛べる、とのこと。各選手のジャンプ演技を見ていると、空中でどちらかの肩が下がったり、腰が開いて

どちらかに曲がっていたり、踏切でつま先がきちんと立っていなかったり(つま先が潰れる、という)していると、

きれいなジャンプにならないのが良くわかる(TV朝日「Get Sports」)。 その点、羽生結弦のジャンプは、踏切→空中

姿勢→着地まで、お手本になる様なきれいなジャンプに見える。ジャンプ専門のコーチと言う存在も、F.スケートが

要請する新たな指導ポジションだし、今後増々重要性が高くなるように思う。




右足負傷の羽生結弦をオリンピック優勝に導いたチーム・ブライアン、ブライアン・オーサー・ヘッドコーチ(左)と、
ジスラン・ブリアン・ジャンプ専門コーチ(右)。



ロシアのトゥトベリーゼコーチの元では、金メダリスト・ザギトワだけでなく、4回転ジャンプを駆使する若手女子

選手が輩出しているし、ラファエル・アルトゥニアン・コーチ(米)の下では、N.チェンやマライア・ベル・本田真凛

などが指導を受けている。オリンピック・メダリストのステファン・ランピエール(スイス)の下では、D.バシリエ

フスや島田高志郎(Jr.GP3位)などがいるし...指導力の高いコーチあるいはコーチング・スタッフの元へ有望選手が席

置くケースが増えている。素質や才能もさることながら、コーチやスタッフと一体となったスケーティング技術の

修得とブラッシュ・アップが、今後増々F.スケートファンの注目を集めるようになると思う。日本のコーチ陣も、

の課題に対応していくことが求められる趨勢となった。


2018年12月11日火曜日

紀平梨花の2018.GPファイナル制覇は、「A Beautiful Storm(美しい嵐)」だった。




ISU(国際スケート連盟)・GP(グランプリ)ファイナル戦の表彰台は、紀平梨花(金.日16歳)、アリーナ・ザギトワ
(銀.ロ16歳)、エリザベータ・トゥクタミシェワ(銅.ロ21歳)の3選手。技術レベルも高く表現力も引けを取らない3選手
だったが、高難度の3A(トリプル・アクセル)を成功させた紀平梨花が戦いを制した。画像はISUホームページより。



F.S.(フィギュアスケート)GPファイナルの女子S(シングル)戦で、驚異的な高得点をマークして優勝した紀平梨花の

偉業を評して、「浅田真央の再来! シニア戦初出場でGPファイナル制覇は13年振り!」とか、「ロシアから5年振り

にチャンピオンシップを取り戻した!」などとマスコミは沸いているが、私自身もこれだけ進化し続け優勝をさら

ってしまったことについては、シーズン入り当初ノーマークだった。ただ、ジュニア戦で3Aを成功した選手が出て

来た、位の認識しかなかったのだが。NHK杯とフランス杯を連破し、ファイナル戦も優勝だから文句のつけようは

何もない。ただ、脱帽であります。しかし、凄い!



武器の3Aだけでなく、他の5種類のジャンプやスピン・ステップの技術・表現レベルも高く、久し振りに総合力を備え
た本格的な選手の登場に観客は沸いた。コーチの濱田美栄も「全てのバランスがいい、柔らかすぎず、硬すぎず、バネ
もある。上半身も、日本人は弱い子が多いけどしっかりしている。」(スポーツ報知)とその強さの秘密を挙げた。


彼女の驚異的身体能力については、体脂肪率が6%というからアスリートで言えばイチローか本田圭佑並みだ!! 筋力

トレーニングをしながらTVのインタビューに答えて、私は「女マッチョ!」言って笑っていたが、腕もがっちり腹筋

は見事に割れていた。滑走技術を支える体力を徹底的に鍛え、プラスしてダンスやヨガで表現力を磨いているのを

見ると、アスリートとしての基本がとてもしっかりしているのを感じる。F.スケートに集中するために高校もインター

ットで学べる学校にした、と言うから覚悟が゛半端ない゛。今後の精進・努力によっては、日本の女子フィギュ

スケートを牽引していく存在となるだろう。将来がとても楽しみだ。





2018平昌オリンピック優勝以後身長が7㎝伸びた(ということは体重も増加し、胸や臀部も大きくなった)ザギトワの
SP(ショート・プログラム)・FS(フリー・スタイル)演技は、コンビネーションジャンプの失敗ひとつを除けばほぼ
完ぺきだった。しかし、紀平に勝てなかったことで、より高度なジャンプ(3Aや4T)をプログラムに入れてリベンジ
してくるだろう。



紀平梨花とA.ザギトワとの対決については、その演技内容のジャッジ・スコア(得点詳細)つまり、Base Value(基礎点)

+GOE(出来栄え点)のElement Score(技術点)と、Program Component Score(構成点)の合計が得点になるのだが、

その比較情報を解説者の佐野稔氏やスポーツ新聞各誌が伝えているので、ここでは詳細を省く。ただ、両者とも構成

点では遜色がなく、両者ともミスはあったものの3A成功させた紀平に軍配が上がった結果となった。今後も両者の対

決は続くと思うが、彼女はザギトワのリベンジを覚悟しているし、それ以上に女子シングル・ジュニア戦で表彰台に

上がったアリョウ―ナ・コストルナヤ(金.ロ15歳、4回転ジャンプは飛ばなかったがとてもバランスの良い演技で優勝)

とアレクサンドラ・トゥルソワ(銀.ロ14歳、3種類の4回転ジャンプにチャレンジ、4T:4回転トゥループを成功)らロシ

ア若手選手を見据えていた。北京オリンピックでの優勝を目指すために、4回転ジャンプのチャレンジに取りかかる

ことを明言した。こういう具体的な目標を持っている選手は強くなる。

紀平梨花のFSテーマ曲は、ジェニファー・トーマスのピアノ・ヴァイオリン曲だった。美しいメロディラインを

持つこの曲は、時に嵐の高まりを思わせる劇的な激しさと、風と波が治まった時の穏やかな静けさが交差する

「ネイチャー・コンチェルト」の不思議な魅力を持っている。このテーマ曲に乗って作りだした彼女の演技世界は、

奇しくも今シーズン、CSオンドレイネペラ杯 →GPNHK杯 →GPフランス杯 →GPファイナルを疾風怒濤のように

勝ち上がって偉業を成し遂げた「美しい嵐」のそのものだった。さらなる精進を続けて、フィギュア・スケーターと

して大成してほしいと思う。

岩肌の露出した浜辺と荒れる海をバックに、Behr Bro's & Co. のヴィンテージピアノを弾き、太古の趣を残す森林で

ヴァイオリンを奏でるJ.トーマスのイメージ動画は、You-Tubeで見られます。

https://www.youtube.com/watch?v=ulYQOszNig8




トレーニングで身体を絞り3Aのジャンプと華麗な演技で復活したE.トゥクタミシェワは、成熟した女性のしたたかさ
を見せて再び表彰台に上った。10代の選手が中心となり、またジュニア戦から上がってくるさらに若い選手が増える
中で、彼女の演技はF.スケートの魅力を体現する貴重な存在だ。


2018年12月6日木曜日

初冬の神代植物公園を歩く




神代植物公園・かえで園の紅葉は今が盛り、黄・橙・赤の色づいた紅葉が織りなす錦絵を楽しめた。
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久し振りに神代植物公園に出かけてみた。ここ2~3年は信州白馬方面に出かけて渓流釣りや音楽ライブなどで時間を

過ごすことが多く、近隣スポットへの花巡りも出かける機会が少なかった。今年は師走とは言っても大分温かい。

木枯らしがピュンピュン吹いたり朝晩の冷え込みで息が白くなることも少ないので、関東地区の紅葉も大分遅れて

いるように思う。銀杏の黄色葉が、バラバラ舞い落ちてくるのをまだ見ないでいる。そんなことで、まだ見られる

かもしれない紅葉と冬バラの咲き残り、季節のサザンカ辺りを目当てに行ってみた。武蔵野の樹林の雰囲気を色濃く

残すこの園を歩きながら、デジカメ撮影を時折して2時間程過ごしたが、厚い雲に覆われた冬空から時折薄日がのぞ

く天気の中の気持ちいいウォーキングとなった。


電チャリに乗って、野川沿いの遊歩道をゆっくり走り、三鷹通りから深大寺の門前を抜けて植物園の深大寺門から

入園した。つばき・さざんか園に続く路の途中で、多くの人がかえで園の紅葉を撮影していた。紅葉具合は丁度い

いタイミングだった。10月末に白馬と奥裾花・真田の郷の紅葉をすっかり堪能していたので、どんなもんかな? と

思っていたのだが、頃合いにレイアウトされたかえで園のすべすべした樹々と紅葉はとてもきれいだった。柵を巡

らせた遊歩道もいい雰囲気だった。やはり人手をかけて手入れされている植物園を見るのは気持ちが良い。入園料は

安いが(シニア割引で250円)、それが管理の行き届いた景観に役立っているのはいいことだと思う。




「富士の峰」(寒椿系サザンカ)は大輪八重の白色、咲きっぷりがなかなか迫力あり



獅子頭(寒椿系サザンカ)の花色はいかにもサザンカらしい紅色だ。



まだ蕾だけのつばき園の一角でサザンカを見られたが、種類はさほど多くない。初冬から春先まで次から次へと咲き

続くサザンカは、ずっと私好みでなかった。やはり花は美しく咲いてはかなく散ってしまうのが花たる由縁と信じて

いるので、元気すぎる花と言うのは苦手なのだ。同じ理由で、夏花のムクゲ(槿)やサルスベリ(百日紅)も好みではない。

私の勝手な好き好きなので、これらの花を好む方には申し訳ないが...ま、しかし、花の少ない季節を彩ってくれ

る貴重な花という意味では、大いに存在価値があると思う。




かえで園からバラ園に歩いて行く途中、根をむき出しにして倒れている巨木に遭遇した。案内板によると樹高20m
程のユリノキの巨木がこの秋の台風24号の強風で倒された、とのこと。すでに数m毎に刻まれ寝かされていたが、
やはり途轍もない風が吹いたのだった。根元には深さ150㎝位の巨穴が開いていた。すげぇ~!




私の好きなバラ・「マチルダ」(仏作出・フロリバンダ系)、この季節まで咲き残ってやわらかなピンク色の中輪花
を開いていた。咲始めから咲終わりまで、花色が退色することなく咲き続くのが素敵だ。



「エスター・オファリム」(独作出・フロリバンダ系)は緋色がかった赤色、この植物園では初めて見た。



バラ園に廻って咲き残りのバラを見てみようと行ったのだが、初冬とは言えこの温かさなので、かなりの種類のバラ

が花開いていた。10月中頃が秋バラの盛期なので、流石に溢れんばかりのバラたちという雰囲気ではなかったが、

予想外のバラの花を見ることができ、来てみて良かったと思った。広いバラ園を廻って咲き残っているバラの花を見

ていたら、結婚式の後らしきカップルが、バラの花をバックに記念撮影していた。両親と思しき2人が、カメラのシャ

ッターを切っているという、珍しいウェディング・ショットに遭遇した。



 
曇り空のすき間から時折薄日が差していたが、もう少し晴れていればよかったのにね。お幸せに!



バラ園から深大寺門に戻る途中、せせらぎの小路を抜けていくと、池の水溜りの中で何やら網を持って動き回る人々

に出会った。「さては、TVの池の水抜く大作戦か?!」と思いきや、TV撮影ではなく、ボランティアの方達の搔い掘り

だった。しばらく見学しながらリーダーと思しき方に話を聞いてみた。東京都の委託で搔い掘り作業をしているとの

こと。見れば池脇のビニールプールには鯉が数十匹、ボートの様なプラケースには海老・メダカ・ザリガニなどの小

魚が沢山。カメが沢山いたのだが時期が遅いせいか池に続く土の中に潜り込んで冬眠に入ったらしく、一匹も掴まえ

てない、などと。小魚を捕獲し終わったら池の水を全部抜き、泥を搔き出して天日干した後在来種のみを池に戻すの

だ。寒い中本当にご苦労さんです!



搔い掘りボランティアの皆さんの小魚すくい



網ですくった小魚を仕分けする青年たち、根気の要る作業であります。