□フィギュアスケート(F.S.)世界選手権2018を制して表彰台に上がったのは、ケイトリン・オズモンド(カ22歳 金)、
樋口新葉(日17歳 銀)、宮原知子(日19歳 銅)の3人だった。オリンピック金メダリストのアリーナ・ザギトワはフリー
スタイル(FS)でジャンプの転倒を繰り返し、ショートプログラム(SP)で首位だったカロリーナ・コストナーはジャ
ンプのミスが多く、共にメダルには届かなかった。画像はISUのHPより。
今シーズン(2017~2018年)をしめくくるF.S.世界選手権はイタリア・ミラノで開催され、総ての競技を終了した。男
子では、オリンピック・メダリストの羽生結弦とJ.フェルナンデスが欠場し、女子では同メダリストのE.メドベデワも
欠場、トップ選手たちを欠く世界選手権に興味はやや薄れていたが、いざ試合が始まってみるとスリリングな試合運
びがあり、幾つかのドラマが展開されるのを見たのでとても面白かった。
□今シーズンの試合(GPSシリーズ戦やオリンピック)で表彰台を欠かさなかったオズモンドは、この世界選手権で
ようやく優勝を勝ち取った。SPでは3つのジャンプ中2つにミスがあったが、FSでは7つのジャンプ中6つをきれい
に決めて(ひとつのコンビネーションは着地に乱れ)、ただ一人得点計220点台(223.23)を獲得した。PCS(演技構成点)
がすべて9点台というのも素晴らしかった。FSのテーマ曲「ブラックスワン」の衣装も素敵だった。
女子シングル戦での各選手のプログラム(演技構成)も相当高度になっているので、演技を如何にミス無くまた加点が
得られるような出来栄えでアピールできるかが、得点の分かれ目になってくる。その視点から言えば、金メダルの
オズモンドも銀メダルの樋口新葉も大きなミスがなかった。特に樋口若葉の出来栄えは素晴らしく、スピード感に
溢れたキレの良いジャンプを飛ぶごとに、会場の声援が高まっていくのが見られた。最近のF.S.ファンは、ジャンプ
の種類やスピン・ステップの演技にもよく通じているので、目の肥えたファンたちは国の違いにこだわらず、良い
演技を見わけて各選手を応援するし、素晴らしい演技には大きな拍手と声援が返ってくるのだ。恐らく、この日の
出場選手の中では、一番の盛り上がりだったように私は感じた。
□演技終了後、達成感をあらわにしてのガッツポーズに続いて喜びの涙をながした樋口新葉、オリンピックの選に
漏れた悔しさをバネにリベンジを誓って切磋琢磨してきた努力が実った一瞬だった。すべて8点台だったPCSを9点
台に持っていくことが今後のテーマだろう。FSのテーマ曲「007スカイホール」では゛ワカバ・ボンド゛も映えた。
□゛ミスパーフェクト゛と呼ばれる宮原知子にも取りこぼしはある。FSテーマ曲「蝶々夫人」では、ジャンプに2つ
の回転不足と1つの転倒があったが、この減点をPCSの高得点でカバーし銅メダルを得た。演技にやや硬さがあった
分伸びを欠いたように見えた。しかし、樋口新葉と二人の健闘で来年の世界選手権3枠を勝ち取ったのはご立派! の
ひと言に尽きる。
ひと言に尽きる。
さて表題の二人だが、シニア戦に参入した今シーズン、A.ザギトワ(ロ15歳)の快進撃は6戦負けなしで、平昌オリン
ピック・欧州選手権・GPSファイナル戦など、国際試合での軒並みの優勝を続けて世界選手権にで出来た。特にFS
のテーマ曲「ドン・キホーテ」に乗っての演技では、7種類のジャンプを全て後半に持ってくるという高難度の構成
で組み立てられ、次から次へと繰り出すジャンプをノーミスで滑走する、という前例のない作戦だった。オリンピッ
クではこれが功を奏して、絶対女王と言われたE.メドベデワ(ロ17歳)を僅差で下して金メダルに輝いたが、今回はこ
れが裏目に出た。体調不良・準備不足・緊張感...色々な理由はあるかもしれないが、他選手が選ばない高難度の
構成にしたことが゛諸刃の刃゛となってしまった。一つのジャンプを失敗した後それを立て直す暇もなく、負の連鎖
に陥ってしまった。
□ジャンプ転倒は自分でも信じられないことだったのか? 試合後トゥトベリーゼコーチの胸で泣き崩れる姿が印象的
だった。「10代のオリンピック金メダリストは大成しない」とのジンクスはあるが、タラ・リピンスキー(1998年
長野オリンピック 15歳)・アデリーナ・ソトニコワ(2014年ソチオリンピック 17歳)などの前例を覆して、ザギトワ
は今後さらにF.スケーターとしてのキャリアを深めていけるのだろうか?
転倒による減点4、回転不足(アンダーローテーション)による減点が4つという惨憺たる結果だった。また、次から
次に演技を繰り出す構成は、゛静と動をつなぐ゛という「間」もなく、すべて動という゛詰め込み過ぎ゛の構成
となり、息つくヒマもないという印象を与えてしまった。ザギトワは今後、演技構成についての根本的な立て直し
に迫られるだろう。ジャンプに転倒はあったものの、後半盛り返して「リカバリー」した宇野昌磨やM.コリヤダ
のしぶとさを学ぶ必要がある。選手と言えども人間は完ぺきではないのだから、失敗を最小限に抑える技術と精神
力が大切だということを痛感したドラマだった。
□SP(テーマ曲 Ne Quitte Pas!)の冒頭ジャンプ3F+3Tをきれいに決め、ノーミスで身体のキレの良い演技を披露し、
80.27の高得点でトップに立ったカロリーナ・コストナー(伊31歳)、FSをミス無く終えれば世界選手権優勝のタイ
トルに一番近かったはずだったが...
゛F.S.界のレジェンド゛コストナーに、地元開催の世界選手権優勝という女神が微笑むのを多くのファンが期待した
が、残念ながら願いは叶わなかった。最終滑走・しかもザギトワがジャンプ失敗に沈んだのを目の前にして、優勝
のプレッシャーがかかったのだろうか? 何時になく硬い表情でリングに入場していったのを見たが、 冒頭のジャン
プ3Lzを失敗してからリカバリーに精彩を欠き、何時もの滑らかな演技は影を潜め、ジャンプ計3回の失敗で表彰台に
上れなかった。しかし現役女子最高齢のF.スケーターとして、今シーズンは国際試合で表彰台に上ることも多く、テー
マ曲に乗った華麗で滑らかな演技を見せ続けてくれたのは、ファンを大いに楽しませてくれたと賛辞に値する。それ
も、10代のトップ選手たちと互角に張り合ってのことだから、長い期間に渡って競技を続けていく素晴らしさを誰
もが感じていたと思う。彼女の競技活動引退の可能性も報じられてはいるが、できることならばその円熟したパー
フォマンスを一日も長く見られたら、その喜びに尽きるものはないと思う。
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