2019年2月11日月曜日

逆転また逆転! アスリート魂が戦いを制した。(2019四大陸選手権より・その1.男子シングル)




FS演技終了後、すべてを出し切って氷上に倒れ込んだ宇野昌磨、SP4位の不出来を逆転するまさに渾身の演技だった。
画像はISU(国際スケート連盟)のHPより



アメリカ・カルフォルニア州のアナハイムで開催された「フィギュアスケート・4大陸選手権」(ヨーロッパ・ロシア

以外のアフリカ・アジア・アメリカ・オセアニアからの参加選手による国際大会)は、今年1月にベラルーシュ・ミン

スクで開催された欧州選手権とともに、2019世界選手権(今年3月埼玉にて開催予定)の前哨戦と位置づけられる。実

際には、北アメリカ(米国・カナダ)とアジア(日本・中国・韓国)の有力選手の試合となっているのが現状だ。今大会

には、オリンピック連覇の金メダリスト羽生結弦が足首怪我のために不参加、また、昨年12月のGP(グランプリ)

ファイナルと今年1月の全米選手権を優勝したネイサン・チェンの不参加(イェール大学の学業優先、と伝えられて

いる)により、私自身も試合への興味をややそがれていたが、ふたを開けてみたらとてもスリリングで高度な技術レベ

ルの試合となったので、TV中継や試合後のYouTube動画を見ていても大いに楽しめた。


男子シングルを制したのは宇野昌磨(日20歳)だった。昨年12月の全日本選手権では、右足首ねん挫のケガを乗り越

えて見事な優勝をなし遂げ、「彼の勝負魂は本物になった!」と私はこのブログに記したが(2018/12/30 「F.スケート

2018全日本選手権の、ドラマチックな好勝負を堪能した」参照)、羽生もチェンも不在なこの試合は彼にとって優勝

は容易だとも思われた。しかし、全日本選手権後の試合練習中に三度のねん挫を繰り返し、充分な練習が出来ずにこ

の大会を迎えざるを得なかったという。はたして、SP(ショートプログラム)はジャンプのミスが続き演技に精彩を

欠き4位だった。しかし、FS(フリースタイル)では、4回転ジャンプ(4Fフリップ、4Tトゥループ、4T+2T)と3Aア

クセル、及び3回転ジャンプとCoコンビネーションをすべて決め(Coの3Fのみ減点)、スピンもステップもレベル

4、PC(演技構成点)もすべて9点台、合計197.36の今季最高FS得点を叩きだしたのだった。SPとの合計点:289.12

の高得点も、今季GPフィンランド杯・羽生結弦の297.12に次ぐものだ。演技終了後に、すべての力を出し切ったか

のように膝から氷上に崩れ落ち、しばらく立ち上がれなかった(9秒間とのこと)宇野の姿も初めて見たし、まさに

「渾身の演技」だった。その気迫と言うか、アスリート魂を傾けた゛勝負士゛を見た気がした。気持ちとか気合

とかとは一段と次元の違う゛魂の領域゛に入ったのだ。それは、シルバーコレクター゛の名前を返上した見事な

逆転優勝だった。


ロスアンゼルス・タイム誌は、国際試合での初優勝を「宇野がベートーベンの『ムーンライト・ソナタ』に乗って、

ほぼ完璧な演技を終えた時、彼はもう、まるで身体の中にもう吐く息も進む力も残っていないかのように、ホンダ

センターの氷上に膝をついた」と伝えている。テーマ曲の「月光」はゆったりとしたピアノ曲だが、こういうスロー

なバラード曲は演奏や歌唱が一番むずかしいことを、音楽に携わっている方はよくご存知のことと思う。すなわち、

細部に亘ってしっかりと表現しないと聴く人に伝わらないのだ。アップテンポの曲なら、多少ごまかしてもリズム

に乗れば何とかなるのだが、バラードは真の実力を問われるからごまかしが効かない。宇野昌磨の「月光」は、ジャ

ンプの入り・空中姿勢・着地までとても滑らかだったし、Spスピン・Stステップも手先の動き・間の取り方・身体

の切れ具合まで、観戦していても上質のワインを飲んでいるような極上感があった。彼もようやく、゛ゆづくん゛と

堂々と渡り合えるレベルになってきたか! と私は感無量だった。




今季怪我のため低迷していた金博洋も復調してきた。FS冒頭の4Lzルッツのミスはあったものの、その他のジャンプ
(3Aと3回転ジャンプ・Co)をすべて決めて気を吐いた。ジャンプだけでなくSp・Stも改善されて来た。何といっても
2016年と2017年の世界選手権銅メダリストだ。今年3月の世界選手権でも表彰台に絡んでくるか?



「4回転ジャンパー」の異名に甘んじていたヴィンセント・ゾウも、そのジャンプ精度を上げて来た。SP1位(最高
難度の4Lz+3Tを決めて100,18)でそのまま突っ走るかとの期待もあったが、FSではジャンプのミス(回転不足)を繰り
返して得点が伸びず、総合3位に終わった。もう一人5位に食い込んだジェイソン・ブラウンとともに、アメリカ勢も
層が厚くなった。




4大陸選手権の表彰台は、宇野昌磨(金・日20歳)・金博洋(銀・中21歳)・ヴィンセント・ゾウ(銅・米18歳)の3人
だった。FS最終グループ一番滑走の宇野昌磨の演技(今季最高の高得点)は、彼に続く他の5人に相当なプレッシャー
を与えたものと思う。熾烈で高レベルの戦いはとても見応えがあった。



さて、2019世界選手権には、羽生結弦(日23歳)とネイサンチェン(米19歳)が出場してくる。果たしてどんな戦いになる

のか? 今年1月下旬に開催済みの、もう一つの世界選手権前哨戦である欧州選手権では、J.フェルナンデス(Sp.27歳)が

優勝し、競技会からの引退に花を添えた。A.サマリン(2位.ロ20歳)とM.リッツォ(3位.伊20歳)は、果たして世界選手権

の表彰台に昇ることが可能だろうか? フェルナンデスの良きライバルでもあったP.チャン(カ27歳)もすでに引退して

いるから、恐らく羽生・宇野・チャンのトップ3で争われる可能性が高い。今から興味は尽きないのだ。


 羽生結弦の右足首は、度重なる負傷でもろくなっているのではないか? という不安をどこまで乗り越え、体調を
整えて来るのか。彼も゛半端ない゛勝負魂の選手だ。宇野・羽生・チェン、三つ巴えの試合が実現するのをぜひ
見てみたい。


2019全米選手権を優勝したチェンの総合得点は、なんと342.22だ。GOE(出来栄え点)が通常よりかなり高い国内評価
なのでそのまま鵜のみにはできないが、4回転4本を含む全てのジャンプを成功させての高得点なので脅威ではある。



フェルナンデス、長い間お疲れ様でした! FSの4Sサルコウと3Aアクセル、クォリティの高い素晴らしいジャンプでした。


<この項つづく>


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