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□夏の炎天下、赤の色も鮮やかに咲くアオイの花(正式名は不明) Photo by TAKA
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猛暑と熱帯夜がまた戻ってきた。仕事柄、日中の移動は電動チャリなので、幅広帽子に日焼け止めの筒袖、7分パンツにメッシュ・スニーカーとニー・ソックスというスタイルで、何とか暑さを乗り切ろうと心がけてはいるが、やはり汗だくで水分補給も欠かせない。盛夏のこの時期は、夏にめっぽう強いムクゲ・百日紅・カンナなどをよく見かけるが、「どうしてそんなに元気なのぉ~!」と思いつつも、なぜかじっくり見る気にはなれない。
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夏花の中では、芙蓉・スイフヨウなどのアオイ科フヨウ属の花が私は好きなのだが、時折通りかかる世田谷区砧の住宅街の畑で、今年もきれいな咲き姿に出会った。広い菜園の一角、道路側に数株の花が植えられており、立ち姿からすると全てフヨウ属の花だった。しかし、黄蜀葵(おうしょっき)と呼ばれる「トロロアオイ」とも、紅蜀葵(こうしょっき)とも呼ばれる「モミジアオイ」とも違っていた。色鮮やかな5弁花の形と大きさ(直径20cm位)はトロロアオイに似ているが、花の中心から伸びるシベはモミジアオイの形だ。枝の立ち姿は、根元から何本もびっしりと今年の新しい枝が伸びていて、花は枝先にいくつもの蕾をつけている。フヨウやムクゲとは、花の大きさ・葉の形が違う。多年草とすればモミジアオイに近い。白花と薄紅花と赤花の3色の木株を見ると、今年植えられたと思しき細枝の株もあった。
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恐らくこの花は、トロロアオイとモミジアオイの交配種(園芸種)で、数年のうちに株がしっかりと根付き、毎年きれいな花をつける様になったのではないか...と推測しながら、持参していたデジカメで撮影していたら、「キッー」とブレーキをかける自転車の音がして、女性が「きれいな花ですねぇ~!」と話しかけてきた。縁巻きの白い帽子にレース地の白いプルオーバー、黒のサブリナ・パンツに皮サンダルという涼しげな装いのひとだった。「私もカメラを持っているので、撮ろうかなっ」と言って取り出したのはキャノンのデジカメだった。
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この花の名前に話題がいった時、私の見解を言うと「ずいぶんとお詳しいのねぇ~」と言いながら、ご自分の好きな花のことを次から次へと話してくれた。小花で香りのいい卯の花のこと、ひまわりでもレモン・イエロー色の「モネのひまわり」と呼ばれる種類があること、朝開花して、午後には閉じ、翌日の午前中に散ってしまう蓮の花のこと...私は専ら聞き役だった。演劇もお好きで、それも最近旅回りの大衆演劇にはまっている事などなど。
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炎天下の昼下がり、雲ひとつない強い日差しを浴びていることも忘れて、愛でる花を巡る会話は楽しかった。ふっと、まだ遅い昼ご飯をとらないでいることと、次の訪問先に向かわなければならないことに気づいて、私の名前を彼女に告げると、彼女は自分の名前を教えてくれた。
『○○○なつこ、です』
「えぇっ~、ほんとに夏子さんですか? 夏の夏子ですか?」
『そうなんですよぉ~。でも暑い夏は嫌いで、寒いくらいの冬の方が好きです。』
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あまりの符丁の合い方に、私の胸はドキドキしてしまった。
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「では、また~!」と言い合って、再びチャリに乗ってそれぞれの方向に別れたが、ひと時の花の話題で気持ちがリラックスできたせいか、微笑む彼女が唇にひいたルージュの鮮やかなオレンジ色が最後まで目に残った。
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