■女子シングルの表彰台は、エフゲニア・メドベデワ(金:ロ.17歳)、ケイトリン・オズモンド(銀:カ.21歳)、
ガブリエル・デールマン(銅:カ.19歳)の3人だった。E.メドベデワのSP/FS合計得点は233.41の歴代最高得点、
自身のもつ記録を更新した。All Photo by Sports News
今回の世界選手権女子シングル戦の話題は、何といってもE.メドベデワのミスのない完璧な演技に尽きるだろう。
(「メドベージェワ」との表記もあるが、ロシアTVのアナウンサーの発音を聞いていると、「メドベデワ」の方が
近い。) 女子シングルは、かくも高レベルな演技による戦いのゾーンに入ってきてしまった。そういう点から言え
ば、昨シーズンから今シーズンの初めにかけて、出場した試合のジャンプで転倒したり、着地が決まらずにもがいて
ば、昨シーズンから今シーズンの初めにかけて、出場した試合のジャンプで転倒したり、着地が決まらずにもがいて
いた浅田真央の演技とは、随分と違ったレベルを感じる。メドベデワは、ジュニアからシニア戦に入って来て2シー
ズンだが、2015年のGPロステレコム杯で優勝したE.ラジオノワについでの2位になった以外は、国際大会で12回の
優勝を果たし、ロシア選手権・欧州選手権・世界選手権ともに2連覇という凄い成績を残して来ている。これだけ
でも、「なんだ!なんだ!」という驚きを隠せないが、演技の内容が素晴らしすぎるのだ。昨シーズンのGPSファイナル
・男子シングル戦で優勝した羽生結弦(歴代最高得点の330.43!)の演技を例えて『異次元のレベル』とマスコミは称し
たが、彼女の演技もやはり『異次元』であると言わざるを得ない。
彼女は、3A(トリプルアクセル)を除くすべての3回転ジャンプ(3T:トゥループ・3S:サルコウ・3F:フリップ・3R:ルッツ
・3Lo:ループ)を飛ぶことができ、3F+3Tや3S+3Tなどのコンビネーションや、2A+2T+2Tの3連続ジャンプもプロ
グラムに入れている。また、片手を挙げたり両手を挙げたままでジャンプするという高難度の回転技術も備えている
のだ。また、スピンはF.S(フライング・シットスピン)やB.S(ビールマン・スピン)・R.S(レイバック・スピン)など、
回転軸のブレない多彩な演技が可能だ。ステップやスパイラルシークェンスでも、美しい図形を描くような表現を見
せてくれる。今シーズンのFSテーマ曲は、「ものすごくうるさくて、ありえないほど近い」という映画曲だったが、
恋人を交通事故で亡くした時に受けた電話のシーンをドラマチックなスケーティングで表現した。この出来具合も、
GPSの各大会を通してプログラムに磨きをかけ、今回の世界選手権で高難度の演技を正確かつ完璧に表現し、ドラマ
性も見事に見せたのだから、やはり賞賛に値すると思う。
連戦連勝のメドベデワの牙城を崩せる選手が現れるかどうかは、今後の興味を引くことだが、今回驚いたのは、カナダ
勢2人の大健闘だった。スピードに乗ったダイナミックな滑走と終始耐えることのない笑顔で人気のK.オズモンドは、
長らくケガや骨折でシーズンを棒に振ったりして、国際大会では表彰台に上ることがほとんどなかった(2012年のGP
スケートカナダは優勝しているが)。しかし、今シーズンに入って体調が整ったのか入賞や表彰台が続き、今回の世界
選手権銀メダル獲得を果たした。SPのテーマ曲はシャンソンの「エデットピアフ・シリーズ」、FSはフレンチPOPS
の「ラ・ポエム」、ともにキュートでバランスの取れた肢体から繰り出す演技とマッチしていて迫力があった。ジャ
ンプもノーミス(着地がやや乱れたものが2回あったが)、合計得点の218.13は自己ベストの高得点、一躍トップ選手に
仲間入りした。
銅メダルのG.デールマンの存在は、あまり知られていなかったのでノーマークに近かったし、私も良く知らなかった。
彼女はカナダ選手権ではここ数シーズン、K.オズモンドと1・2を争ってきているが、昨シーズンからコーチをブライ
アン・オーサーに、振り付けをローリー・ニコル(フィギュアスケート界の゛黄金コンビ゛と言われている)に変えて
から、急速に力をつけて来た。同じB.オーサーに指導を受けている世界王者のH.フェルナンデスから「君は国際大会
でも表彰台に上れる選手なのに、それを自分が気付いていないね。」と言われて一気に実力が開花したとのこと
(Figure Skate Sports Newsより)。今大会ではSPもFSもノーミス、スピードに乗ったジャンプは高さも切れもあり、
躍動感にあふれる素晴らしい演技だった。彼女も200点越えの合計213.52を叩きだした。いやはや、女子の戦いもミス
のない正確な演技と多彩な表現力がないと表彰台には上れない時代となった。
■今シーズンの好成績をひっさげ、世界選手権でも表彰台に上る最有力選手の一人だったアンナ・ポゴリラヤ
(ロ.18歳)は、何の魔が差したのかジャンプでの転倒を繰り返し入賞も出来なかった。試合後リンクで泣き
崩れる姿は、勝負の非情さを垣間見せた。
■3シーズン振りに競技に復帰した大ベテランのカロリーナ・コストナー(伊.30歳!)、スケーティング技術のお手本
のような、華麗で伸びやかな演技でファンを沸かせた。言わばもう゛過去の人゛と言われ兼ねないのに、SP:66.33
/ FS:130.50、合計196.83の成績で6位入賞はご立派! まだまだ競技会で活躍してほしい!
■ベテランのもう一人:アシュリー・ワグナー(米.25歳)は今回精彩を欠いた。ジャンプもコンビネーションが
決まらず入賞ならず7位となった。
■日本女王の宮原知子を欠く(骨折のため欠場)日本勢の中で、一人5位入賞を果たした三原舞依(日.17歳)、ノーミスで
演技できたFS138.29の得点は立派。SP演技最後のジャンプ3Fの転倒がなければ200点越えがあったかもしれない。
女子シングル戦も終わってみれば、表彰台独占を予想されていたロシア勢では、メドベデワだけがメダルを得て、
マリア・ソツコワもA.ポゴリラヤも入賞できなかった。日本勢も、高難度の演技を正確に表現出来るトップ選手には
届かず、オリンピック枠も2枠に留まった。トップ選手層の薄さが今後の課題となるだろう。アメリカ勢は、カレン
・チェン(17歳)の頑張りで4位に入賞し、A.ワグナーの入賞と併せてオリンピック枠3枠を得て踏ん張った。カナダ勢
の大躍進は、今後の競技会表彰台を争う勢力として、各国選手からマークされるだろう。
今回の世界選手権の面白さは、男子も女子も技術的にも高レベルでの戦いだったのに加えて、若手選手・中堅実力選手
・ベテラン選手が、ガップリと四つに組んでの熾烈な戦いだったことによる。本当に小さなミスでも、得点に大きく響
いて来るような、見ていてもスリリングな(言ってみれば、手に汗を握る様な!) 試合は、これからも多くのファンを沸か
せてくれると思う。今シーズンの戦いは、あと一つの国別対抗戦を残すのみとなったが、また来シーズンのフィギュア
スケート試合を楽しみとして、今シーズンの最後のコメントとしたい。
<この項お終い>
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