2017年4月5日水曜日

フィギュアスケート世界選手権2017より(その1.男子シングル)




世界選手権を制すると見られた有力選手の中で表彰台に上がったのは、男子では羽生結弦(金:日.22歳)・
宇野昌磨(銀:日.19歳)・ボーヤン・ジン(銅:中.19歳)のアジア勢3人、女子ではエフゲニア・メドベデワ
(金:ロ.17歳)・ケイトリン・オズモンド(銀:カ.21歳)・ガブリエル・デールマン(銅:カ.19歳)の海外勢3人
だった。All Photo by フジTV and Sports Net Newsより。


今年のフィギュアスケート世界選手権(3/29~4/1.Fin.ヘルシンキにて開催)は、例年になくレベルの高いスリリングな

試合となり、TVやネット動画で見ていてもなかなか見応えがあった。男子は「真4回転時代」、女子は「ミスのない

完璧な演技」が戦いを象徴するキーワードとなったが、長年(10年以上)F.スケートのファンとして試合を見てきた私に

とっても、随分と高次元な世界に入ってきたなぁ、という印象が強い。

男子シングル戦優勝の羽生結弦にとって、今シーズンは昨シーズン末に痛めた左足の回復度合や全日本選手権前に

罹病したインフルエンザなどの影響もあり、調子が上がらなかった。NHK杯とGPS(グランプリシリーズ)ファイナル

戦こそ制したが、スケートカナダではパトリック・チャンに、四大陸選手権ではネイサン・チェンに後れを取った。

SP(ショートプログラム)とFS(フリースタイル)の演技に彼が組み込んだ3種類6回の「4回転ジャンプ」のうち、4S

(サルコウ)と4T(トゥループ)と4Lo(ループ)の単独ジャンプは成功させているが、4S+3Tのコンビネーションがすべ

て決まらなかった(転倒や着地失敗)。SPの演技も身体の動きが硬く感じられたし、優勝は無理だろうと私は予想した。

ところが、ところがである! FSでは、全てのジャンプを完璧に飛んだのだ。課題の4S+3Tもきっちり決めて223.20

の高得点をたたき出し、SPとのトータル321.59という驚異的な高得点を出したのだから凄かった。Kiss & Cryでの本人

とブライアン・オーサーコーチの喜びようも半端でなかった。2015年のGPSファイナル戦で出したSP110点台の完璧

な演技が出来ていれば、その時に出した歴代最高得点330.43を今回は越えていたかもしれない。

彼の演技の良さは、ジャンプ回転軸のブレのなさ、踏切から空中姿勢・着地姿勢までのバランスの良さを挙げられる

が、ステップもスピンも流れるように美しい。そして、越えるべき相手は自分自身と見極めて、最高レベルの演技を

実現するために飽くなき挑戦をし続ける姿勢だろう。ファイティング・スピリットも旺盛だし、克己心も強い。SPの

で身体表現ががやや硬かったので、FSの時にもその思惑にとらわれて演技が硬くなるのでは? と心配したが、そ

杞憂を見事に拭い去ってくれた。これで彼は、2014年冬季オリンピック(ソチ)・金メダルに次いで、2回目の世界

選手優勝者となった(1度目は2014年)。


宇野昌磨の成長振りをここまで予測した人も少ないだろう。入賞・上手く行けば銅メダルかも、と私は思っていた

が、SPもミスのない滑らかな演技、FSは緩急を付けた動きの良い演技でほぼノーミスだった。3Lz(ルッツ)と4Tの

着地姿勢の評価が低かったのを除けば、計3種類6回の4回転ジャンプ(その中には4F:フリップも入る)を成功させ、

特にコンビネーションはきれいに決まった。前回の世界選手権で調子を落として7位に終わった雪辱を果たすために、

ミスのない演技を磨いてきた努力が実ったことを、本人も喜んでいた。柔和で優しい風貌だった若者が、戦いを

挑む凛々しくもまた引き締まった表情になっていたのを見て、私もとても頼もしい気持ちになった。


ボーヤン・ジン(金博洋)のSPテーマ曲は「スパイダーマン」、FSは「道(F.フェリーニ)」、ともにきびとした動きと、

ちょっとコミカルな演技で彼独特の世界を表現していて面白かった。SPはノーミス、FSも同じくノーミス、計4種

類6回の4回転ジャンプを決めたのだ! 何時もいい所でジャンプを失敗し、優勝を逃していた彼が、今回は前年の世界

選手権に続き3位の表彰台に上った。童顔で細身の彼が(身長は171㎝ある)、3年連続中国チャンピオンを獲得しなが

ら、世界でも表彰台を争って戦える実力者に成長してきたのを見て、男子シングルの競技がますます面白くなって

きたのを感じた。





男子シングルチャンピオンの羽生結弦(中)・宇野昌磨(左)・ボーヤンジン(右)の表彰台3人


さて、SPが終わった段階では、H.フェルナンデス(Esp.25歳)が完璧な演技で首位に立っていた(得点は109.05!)。テー

マ曲のフラメンコ「ラ・マラゲーニヤ」に乗って、磨き上げ完成した演技とはこういうものだ、というお手本の様

なパーフォマンスだった。手足の動きだけでなく、指先まで行き渡った身体表現が鮮やかだった。SPで5位に終わ

った羽生に較べ、今回はフェルナンデスの優勝を誰もが予測しただろう。パトリック・チャン(カ.26歳)もしかり、

SPの流れるように優雅な演技は、ベテランの熟成した表現力を見せてくれたし、4Tのジャンプを見事に決めた(得点

は102.13)。ともに100点越えの二人が、優勝を争うだろうと多く人が予測したと思うが、勝負というものは最後ま

でほんとに分からないものだ。

最終グループ一番手の羽生が素晴らしい演技で打ち出したFS得点:223.20に、どの選手も度肝を抜かれてしまった。

何とかこれに対抗せねば、と平常心でいられなくなった選手と、「ゆず君のこの得点は越えられっこないから、自

の演技をしよう!」(宇野談)と開き直った選手の差が出たのだと思う。フェルナンデスはジャンプに精鋭を欠き、

転倒とミスを繰り返した。P.チャンは、一つ一つの演技を丁寧にこなしてテーマ曲に乗ろうとしたが、ジャンプの

着地がぎくしゃくして、いつもの滑らかさがなかった。アメリカ・チャンピオンのネイサン・チェン(米.17歳)は、

FSでも4種類6本の4回転ジャンプに顕然と挑戦したが、転倒とミスが多く、200点に届かなかった。この3人の選手が

表彰台に上れなかったのは、4回転ジャンプが決まらなかったことが要因だが、トップから入賞者(6位)まで、誰が勝

ってもおかしくないほど、実力は伯仲している。ミスのないジャンプと、その完成度でどこまで正確な技術と踏切

から着地までのスムースな姿勢を見せられるかで、得点はガラッと変わってくる。現行の採点基準からすれば、ジャ

ンプの種類やコンビネーションに大きなウェイトがあり、それに較べてステップやスピンの種類・多彩な表現に対

してはウェイトが低いのだ。それまで、プルシェンコ(ロ)やブライアン・シュベール(仏)が果敢に挑戦した4回転ジャ

ンプに対して評価が低かった時代もあるのだ(プルシェンコはこの点について、何時も悔しさをアピールしていた。




FS演技を終えて感極まり、達成感をあらわにしたミーシャ・ジー、とても素敵でした!


しかし、現在の採点基準の中でも、やはりフィギュアスケートの醍醐味と言うか、美しさというか、それは「氷上

で如何に滑らかでメリハリのある身体表現をできるか!」とアピールする選手もいる。私的には、巧みなスケーティ

ング技術(エッヂワークや滑走姿勢など)で氷上を滑走する身体表現のやわらかな選手を応援したい気持ちが強い。今

季限りで引退し、振付師へ転身が伝えられているミーシャ・ジー(Uz.25歳)の演技は、優雅で美しかった。SPテーマ

曲はリストのピアノ曲「愛の夢」、FSの曲はバレエ音楽「くるみ割り人形」、4回転ジャンプこそないが、フィギュ

アスケートの楽しさと魅力を余すことなく表現して見せてくれた。



身体の柔らかさでは当代随一のジェイソン・ブラウン(米.22歳)、今回も芸術的な表現で観客を沸せた。彼の
インスタグラムで画像を見ても、風貌や仕草になんとなくオネエキャラを感じるのは私だけかなぁ?


その点では、J.ブラウンも同じだ。彼も4回転ジャンプで勝負せず(一応4Tを跳んで見せたが)、3回転ジャンプの完成

度と多彩でキレの良いスピンとステップをプログラムの中心にに組み込んで演技している。滑走中の両足ジャンプ

も高い! (良く足が上がるもんだ)。往年のエヴァン・ライザチェック(米.2010バンクーバー・オリンピック金メダル、

2009世界選手権優勝)がそうであったように、ジャンプに偏らずに、フィギュアスケートの総合的な表現力で演技す

技姿勢の流れを受け継いでいる、と言えようか。


ともあれ、「真・4回転時代」を合言葉に、スリリングなジャンプで勝負する試合は当分続くと思うし、表彰台を

巡って、若手と実力者とベテランたちが技を競って戦う姿を見るのは、とても興味深いと思う。ネット動画も昨日

の試合を翌日配信してくれるので、録画でじっくりと演技を見られるのは楽しい。この点では,民放各社のTV放映

が日本選手に片寄り、CMもやたらに入ってきて興味をそぐのは好ましくないと私は思っているが。


<この項つづく>

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