▢今回の表彰台は、アンナ・シェルバコワ(金 ロ17歳)、アレクサンドラ・トゥルソワ(銀 ロ17歳)、坂本花織(銅 日21歳)の
3選手だった。カミラ・ワリエワ(4位 ロ15歳)のドーピング違反を巡って騒然とした雰囲気の中で、坂本花織は4回
転無しのプログラムをノーミスで滑り、銅メダル獲得は世界中から祝福された快挙だった。画像はISUホームページより。
今回の五輪、坂本花織の銅メダル獲得は快挙であり、世界のフィギュアスケート・ファンからも大いに祝福される
結果だった。女子フィギュアスケート界が、「四回転ジャンプ」・「低年齢化」(10代半ばの選手)・「ロシア偏重」
に傾く中で、彼女は2010年(10歳)全日本ノービス選手権デビュー以来、ジュニア・シニアクラスでスケートキャリア
を重ねてきた。その間、2016年の全日本ジュニア選手権優勝頃から頭角を表し、シニアクラスでも、GPシリーズや
各国際大会でも表彰台に上る機会が増え、全日本選手権でも2回(2018/2022年 )の優勝を果たしている。
その12年に及ぶキャリアの中で、フィギュアスケートの本道 : 即ち、「ジャンプ・ステップ・スピンの総合的な
スケーティング技術を磨き、テーマ曲に合わせた世界観を正確にかつ優美にに表現する。」これを追求し体現した
選手に成長したと言えよう。中野園子コーチと共に、幾度かの故障やケガを乗り越え、4回転ジャンプを飛ばなく
ても(将来はあるかも?)、ジャンプのスピード・高さ・飛距離と正確さでGOE(出来栄え点)を積み重ねていく、とい
う戦略は、ロシアコーチ陣と選手たちの真逆を行くものだった。あまりに強力なロシア勢に対して、その一手しか
なかったのも事実だが、長いスケートキャリアを経て成長し、成熟した美しい表現を獲得した選手達の演技を、多く
のファンが見たいと望んでいることも確かなことだ。過酷な練習と食事制限・薬物使用(疑惑)によって獲得したメ
ダリストたちの多く(特にロシア選手)が、次のオリンピックには姿を消しているのは、尋常のことではない。羽生
結弦(現27歳)がそうであったように、坂本選手には新たな挑戦を自らに課しながら、キャリアを積み重ねて゛力強く
美しいスケーティング゛をこれからも私達ファンに見せて欲しいと願っている。スポーツの醍醐味は、切磋琢磨し
た類稀なる身体表現を、競技を通じて私達に見せてくれることだから。彼女の今後の活躍に期待したい。
▢坂本選手(愛称゛かおちゃん゛)のGOEは、SP(ショートプログラム)で36.62(5項目中4つが9点台)、FS(フリースタ
イル)では74.39(すべて9点台)だった。ちなみに首位のシェルパコワは、SP37.73、FS75.26で、僅差だが遜色のない
評価を審判員が下しているのも頷ける結果だった。
A.シェルパコワのFS演技はノーミスの完璧なものだった。2本の4F(4回転フリップ)を組み込んだ7本のジャンプを
全て成功し、スピン・ステップ(レベル4)も乱れず、GOEもすべて9点台という高得点だった。総合得点255.95は、
当面敵う相手がいないレベルと思われるものだ。しかしその得点とは裏腹に、テーマ曲は先に演技ありしの寄せ集め
(「ルスカ」と「レクレイム」編集曲)の感が免れず、テーマ曲世界との一体感は乏しかった。この点では、2位の
A.トゥルソワも同じで、FSのテーマ曲『クルエラ』(映画より)も、強調された早いリズムが目立ち、5本の4回転
ジャンプを際立たせる効果しかなかったように思う。高難度のジャンプに重きを置いたプログラム構成で、得点を
稼ぐのがロシア陣の狙いなのだから、それは仕方がないのだが...
ワリエラのドーピング問題の影響で、悪いイメージがロシア勢に付きまとい、心から試合の演技を楽しめなかった
のは残念だった。リンクに登場する2人の選手のコスチュームとメイクを見ても、鬼コーチに操られた゛ロボット戦士゛
のような、ちょっち不気味なものを感じてしまった(全く個人的な感想だが)。
▢昨シーズンの世界選手権と今回冬季五輪のチャンピオンとなったシェルパコワ、果たして来シーズンもトップ選手の
位置を続けられるのか? それとも、ザギトワやメドベージェワのように、競技には戻らず早々に引退するのだろうか?
▢4種類(4T/ 4S/ 4F/ 4Lz)5本の4回転ジャンプで着氷したトゥルソワ、小さなミスはあったものの最高難度のプログ
ラムを成功させた。小柄ながら゛マッチョ・ウーマン゛のように身体能力は高い。冬季五輪の場でこれを成し遂げた
ことで、金メダル間違いなしと思った彼女に僅差で女神は微笑まなかった!
▢樋口新葉(5位 日21歳)の、SP・FS2本の3A(トリプルアクセル)は゛ご立派の゛ひと言に尽きる。アンコ型体型から
繰り出す演技は迫力満点。2018年に右足首怪我のため平昌五輪出場から漏れた悔しさをバネに、今回は見事雪辱を果
たしロシア勢との好勝負を繰り広げた。まだまだ、これからが楽しみな選手だ。
加えて、今回競技会には世界中から選手の参加があったので、ニコル・ショット(17位 独25歳)がカロリーナ・コス
トナーの振り付けで登場する懐かしい姿を見たり、東欧(グルジア・ベラルーシ・ポーランド)の選手は、グバノワ・
アナスタシア(11位 GOE20歳)もクラコワ・エカテリーナ(12位 POL20歳)も、サフォノワ・ヴィクトリア(13位 BLR
19歳)も、ともにモスクワやペテルスブルグ出身(ロシア)であることも知った。あまりに競争の激しい母国から他国に
国籍替えする例は、卓球王国:中国にもよく見られるケースなので、興味深かった。さほどにフィギュア界のロシア事
情は異常なのかもしれない。
▢カミラ・ワリエワ(4位)のドーピング問題と「ロシアの闇」については、次回で触れます。
<この項つづく>
0 件のコメント:
コメントを投稿