2022年2月12日土曜日

ハイレベルの戦い、見応えは圧巻だった ! (フィギュアスケート2022冬季五輪 男子シングル戦)


今回の表彰台は(右から)、ネイサン・チェン(金 米22歳)・鍵山優真(銀 日18歳)・宇野昌磨(銅 日24歳)、そして羽生結弦

は4位(日27歳)だった。高度なスケーティング技術を駆使し、気迫あふれたそれぞれの挑戦を見せてくれた競技は、世界

のファンを楽しませてくれた圧巻のドラマだった。画像はISUのHPより。


今回の冬季オリンピック・フィギュアスケートに関しては、TV・新聞・SNSでも連日多くの報道が為されているの

で、競技結果・選手のインタビューなどの詳細に触れるのは、ここでは避けたいと思う。さほどに巷では、毎日の

コロナ感染情報と同様に、オリンピック情報も過熱気味にに報道されているので。

羽生結弦は、オリンピックこそ2連覇(2014ソチと2018平昌)しているが、毎年シーズンの最後に行われる世界選

手権については、2014年と2017年に優勝し、2015年と2016年ではH.フェルナンデス(優勝)の2位となっている。

その後度重なる故障を乗り越え、2019年にはネイサン・チェン(優勝)の2位に返り咲いた。N.チェンは羽生の後、

2018・2019(2020はコロナのため中止)・2021年と3連覇し、名実ともに現在最強のフィギュア・スケーターと

なっている。2011・2012・2013年と3連覇したパトリック・チャン(カ)は、その前年の2009・2010年には、

ともに2位だったから、5年の長きに亘り世界のトップに君臨したと言える。その武器となったのは4回転トゥル

ープ(4T)だった。

今や、多くのフィギュアスケーターが4回転ジャンプをプログラムに取り入れ、高難度の回転技術に挑んでいるが、

その歴史はカート・ブラウニング(カ)が1988年の世界選手権で公認されたのが初めてで、日本人選手では本田武史

(現コーチ・プロスケーター) が、1998年の世界選手権(予選)で4Tを成功し、2002・2003年2度の世界選手権3位

を獲得している。




SP(ショートプログラム)で氷の穴に嵌まったり、今一歩の4A着氷だったり、「氷に嫌われちゃったかな?」という
コメントも彼らしかった。フィギュアスケート世界を牽引してきた彼の功績は偉大で、多くの選手の目標となる
レジェンドとして、これからも沢山の人々の敬意を受けていくだろう。



すでに2度のオリンピック・チャンピオンを獲得し、国際大会のほとんどの優勝を得た後、「取れるものも取っちゃ

ったし...」と言いながら、競技生活を続けるモチベ――ションとして4A(4回転アクスル)を成功させることを公言

しつつ、彼はこの舞台に挑戦してきたが、公式記録に4A(転倒)というマークを残したことを、彼は今ほろ苦い気

持ちで受け止めていると思う。多くの選手たち・大会関係者・マスコミが、彼の前人未到の挑戦に賛辞を送ったが、

試合後の松岡修造氏のインタビューで、「この北京であなたは何を見ましたか?」という質問には、しばし後ろを向

いて涙をぬぐった姿がとても印象深かった。万感の思いだったのだろう。試合の勝ち負けとは別に、残された唯一

の仕事=『4Aジャンプの完成』が、今後彼のモチベーションになるかも知れない(競技を続けるとすれば...)。羽生結弦

選手、あなたの挑戦は素晴らしかった! みんなに勇気を与えてくれました!




ネイサン・チェン、あなたの演技は素晴らしかった! そして強かった! ジャンプ評価の4T+3T(4.40)・ 4F(4.24)・
4Lz(4.93)という出来栄え点(GOE)も、ハンパナイ! です。



現在、男子フィギュア・スケーターとしては最強と言われるN.チェンだが、今回のオリンピック優勝でその地位を

不動のものとした。4Aを除く5種全ての4回転ジャンプ(4T・4S・4Lo・4F・4Lz)を公式試合で成功させているの

は彼だけだ。この点では、羽生も宇野もまた鍵山も及ばない。しかも、ジャンプのスピード・高さ・距離でも群

を抜いている。FS(フリースタイル)のテーマ曲「ロケットマン」に乗った演技(ステップ・スピン)でも、身体の切れ

や動作の早さで素晴らしいものを見せてくれた。前回オリンピック(平昌)での惨敗を機に、臥薪嘗胆(がしんしょう

たん:かたきを討とうとして苦心・苦労すること)して、身体を鍛え技術を磨いてきた4年間だったに違いない。SP

113.97・FS218.6 計332.60の高得点は、その集大成だった。現在22歳の選手活動絶頂期と見えるが、今後競技を

続けて行けばもう2~3年は彼の時代となるだろう。一部の報道では、学業に戻り科学者か医者への道を志すとの

記事も見られるが、願うらくはもうしばし、我々に素晴らしい演技を見せ続けて欲しいものだ。




FSのテーマ曲は、緩やかなバロックの名曲「オーボエ協奏曲」(A.マルチェルロ)だったが、プログラムの内容は
明らかな゛攻めのテーマ゛だった。全体としてキビキビとした動きが、観客を大いに魅了した。



宇野昌磨は蘇えった。コーチ不在だった昨シーズンの不振を乗り越えて、リンクの上で戦えるチャレンジャーとして

戻って来た。本人の努力もさることながら、ステファン・ランビエールというコーチを得たことが大きい。リンク

サイドやキス&クライでの2人のやり取りを見ていても、ランピエールの的確な指導と宇野の師への信頼振りが良く

伝わってくる。何よりもスケーティングを楽しむ姿勢と、難度の高い演技にチャレンジする意気込みが良く見て取

れるのだ。今回のFSでも、一番高度な4Lzを除く4種類の4回転ジャンプをプログラムに組み込んできた。本人も、

今までにない高難度のプログラムだと言っていた。ジャンプの転倒や小さなミスはあったけれど、このプログラム

を滑り切ったことは大いに自信になると思う。これからのステップが見えてきたのではないか? チャレンジを続け

ることで、何時の日か表彰台のトップに立つことを期待したい。




4Loの回転不足を除き、総てのジャンプをノーミスで飛び、ステップ・スピンも高評価された彼のFS演技は素晴らし
かった。全体的にやわらかで伸びやかな表現力は、とてもバランスの良い選手に成長してきたと思う。次世代のフィ
ギュア・スケーターとして、彼への期待は大だ。



鍵山優真の銀メダル獲得と合計点300点越え(310.05)は、賞賛に値する。現役高校生が何時の間にこんなに強くなっ

たのか? オリンピック2回出場の実績を持つ父親・正和コーチの存在と、本人の練習熱心さが伝えられているが、

ノービス・ジュニア時代も含めて10年以上の競技キャリア(2012-13シーズンから)を経てきているのは゛ハンパ

ナイ゛のだ。その間、父親コーチの厳しい指導に耐え、自ら切磋琢磨してスケーティング技術を身に付けてきた。

小柄な体躯ながら、全体的にバランスが良い。好きだという(本人談)スピンの演技もきれいだ。現在、4T・4S・

4Lo(最近取得した)3種類の4回転ジャンプを跳ぶが、ここに4Fと4Lzが加われば鬼に金棒だ。童顔(ベビーフェイ

ス)の風貌とは裏腹に、物事に動じない冷静さとガッツ(肝っ玉)を内に秘めているのが頼もしい。゛彗星のごとく登場

してきた新人゛とマスコミは評するが、本人は予てからネイサン・チェンと宇野昌磨を尊敬する根っからのフィギュ

ア・スケーターなのが嬉しい。羽生はじめ、偉大な先輩たちを目標にしながら、次の世代の選手が育っているフィ

ギュア界(日本と世界)は、これからもなかなか面白いスポーツとなりそうだ。

加えて、芸術的なスケーティングで定評のあるジェイソン・ブラウン(6位 米27歳)の元気な姿も見られたし、イタ

リアの新星ダニエル・グラスル(7位19歳)の、キレの良い演技も良かった。世界トップクラスの選手たちが集まった

大会は、とても見応えのある競技会だった。


<この項つづく>


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