2012年8月9日木曜日

「真珠の耳飾りの少女」に見つめられて...




マウリッツハイス美術館展のチケット、お目当てはフェルメールの代表作。
暦で立秋の声を聞いたら、北の高気圧が張り出してきて、朝晩の温度が25℃を下り少し涼しくなった。日中の暑さは相変わらずだが、季節は少しづつ秋に向かっている。
絵友のHIさんのお誘いに乗って、上野の東京美術館に出かけた。一年余りの改装を機に休館していたのだが、新装なったこの美術館の記念展として、オランダ・マウリッツハイス美術館展が開催されている。丁度先方の美術館が改装休館中ということで、普段では門外不出のオランダ・フランドル絵画の゛珠玉のコレクション゛が、東京美術館にやってきたのだ。その中に、ヨハネス・フェルメールの「真珠の耳飾りの少女」があり、やはりこれはぜひ見なくては、と上野に繰り出した。
ご存知の方も多いかと思うが、短い生涯(43歳で死去)の中でフェルメールが残した作品はわずか30数点、そのほとんどが、個人や美術館蔵なので、本物の彼の作品にふれる機会はめったにない。私自身も数年前に上野で開催されたオランダ絵画の美術展で、「牛乳を注ぐ女」(1660頃作)を見ただけだ。また、彼の作品を巡っては、贋作事件や盗難事件も数多く発生し、これも極端に少ない作品数によるものと世間に騒がしてきた。
夏季の美術館サービスとして、夕方は6時まで開館(金曜日は8時まで)を利用して、夕方4時に入館しゆっくりと作品を見ることが出来た。混雑もほとんどなく、約50点の作品をHIさんと色々話しながら見て廻った。フェルメールの時代は、東洋との海洋貿易による莫大な富がもたらされたオランダの黄金時代だった。王侯貴族だけでなく、市民階級も富裕層となり、新興階級の求めで多くの歴史絵・風景画・肖像画・風俗画などが描かれた。レンブラントやブリューゲル、フランス・ハルスやフェルメールもその求めに応じて数多くの絵を制作した。市民達はこぞって絵を注文し、家の部屋にに飾って楽しんだという。
オランダの歴史や現状については、私自身はあまりよく知らないが、海洋覇権を争ってイギリスと3度の戦争をくり返しやがて敗退、国土は荒廃した。また、チューリップへの投機から経済のバブル破綻を引き起こし、歴史の主役をわずか数十年務めて表舞台から消えていった国、という印象が強い。しかし、その発展期に、数多くの絵画作家が登場し数多くの作品が残された。イギリスに破れ経済破綻した後の画家の数は、約4分の1に減ったというから、バブル破綻後の銀座の画廊数減少といいとこ勝負かも知れない。
件のフェルメールも、有力なパトロンに恵まれ、自身も画家組合の理事を務めるなどの恵まれた暮らしが一変し、多額の負債を抱えて失意のうちに没したという。
さて、暗い背景の中に人物像を描いただけの小作品「真珠の耳飾りの少女」だが、この魅せられる様な゛眼力(めぢから)゛は素晴らしい。この時代の肖像画・歴史画にも多くの人物が登場するが、これだけ人間の内面まで入り込んで描かれた人物像はないだろうと思う。17世紀・近代という歴史の中で、すでに現代の今を取り込んでいるかのような、人間接近振りを感じる。゛見返り美人゛のような肩越しの視線、その2つの瞳は右目と左目のハイライト(光の点)が微妙にずれている。見つめられているのか、どこか別のところを見ているのか、不思議な視線だ。見る人によって、色々な想いを抱かせるにちがいない。私には、最近自分で作詞・作曲した「愛は、どこへ?」の歌詞の一節...
『 ♪ あなたは今、誰かを愛しているの?  あなたは今、誰かに愛されているの?  ♪ 』
と、問いかけられているような気がした。
えり抜きの和服のような衣装と頭に巻いたターバン、どこかオリエンタルな雰囲気が漂うが、服のダークイエローとターバンの明るいイエローに対照的なマリンブルーの色が素敵だ。作品解説に寄ると、当時金と同じくらい高価だった青色顔料のウルトラ・マリンブルー(鉱石のスズライトなどを原料とするラピスラズリから精製して作る)をふんだんに使っているという。全体の色数は少ないが、唇の赤と瞳の黒と白、活き活きとした肌の色に呼応した全体の色のハーモニーがいい。丁寧にじっくりと作品に取り組んだ時間を感じる傑作だと思う。















フェルメールとオランダ絵画を堪能したあとは、神田に移動し、久し振りに室町の゛砂場で゛江戸前蕎麦を楽しんだ。注文してから焼き上げてくれる出汁巻き卵と焼き鳥で一杯やった後、この店の特製「天ざる」を賞味した。

蕎麦は三番挽きの白い細めん、言ってみれば米を磨いて作る゛吟醸酒゛のように、ソバの実を磨きこんで作った蕎麦めんだ。小海老と貝柱の掻き揚げが、温かいソバ出汁の中に入ってついてくる。この掻き揚げを崩しながら、蕎麦を汁につけて一緒に食べるのだ。東京では、この室町と赤坂の2店のみだが、変わらぬ美味しさに舌つづみを打った。蕎麦好きの私は、生まれ育った信州戸隠の岩戸屋さんの手打ち蕎麦を一番と思うが、この砂場の蕎麦も、洒落た江戸っ子の意気を感じる蕎麦として愛して止まないのだ。

すてきな絵と、美味しいおソバを絵友と一緒に楽しんだひと宵だった。

フェルメールの公式ホーム・ページに、彼の作品と絵画技法(鋲を打って一点に集中させる遠近法)の動画などが紹介されているので、興味のある方は覗いてみてね。
http://www.vermeerdelft.nl/250.pp

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