2017年10月30日月曜日

文芸別冊 総特集 『阿久悠』は内容が盛り沢山で面白かった。




河出書房新社出版のムック本の表紙、A5版232ページです。


久し振りに本を読んだ。『阿久悠』と言うタイトルの特集本だ。きっかけは駅の本屋でちょっと時間つぶしをして


いたら、本棚に積まれているこの本を見つけた、というものだ。副題に「没後10年 時代と格闘した昭和歌謡界の


巨星」とうたってある。2017年8月30日初版発行、と奥付にあるからつい最近の出版物だ。毎週近所の喫茶店に


音楽好きが集まって、楽器(ギター・ウクレレ・トランペット・デジタルピアノ・ピアニカ・マンドリン・ベース


・カホン・マラカスなどのリズム楽器など)を演奏しながら歌本で歌ったりセッションする曲には、昭和歌謡曲も


多く入っているので、作詞家阿久悠の存在は身近な気がしていることもあった。


本の内容としては、インタビューあり、対談あり、各界名士による「私の阿久悠ベスト3」のエッセイなど盛り沢山

ではある。私が一番面白かったのは、音楽クリエーター・ヒャダイン氏による冒頭のインタビューで、「徹底解析! 

阿久悠作詞家憲法十五条」という記事だった。これらは、作詞家阿久悠が「窮屈でもそれにのっとって書く」こと

を自らに課したものだ。こんなものがあることすら今まで知らなかった上に、その内容がとても衝撃的・革新的で

あり、こんなことを規範として考えながら生涯に5,000曲と言われる曲の作詞をし、数々のメガヒット曲を生んだ基

になっていたのが驚きだった。作詞家デビューの初期(1970年初め)からこの「~十五条」があったというから凄い

ことだ。

このブログに、総てを載せるのにはスペースが足りないので、その中から幾つかを紹介しょう。(興味ある方は、この

本を入手して読んでみて下さい。)


その1. 美空ひばりによって完成したと思える流行歌の本道と、違う道はないものであろうか?

その2. 日本人の情念、あるいは精神性は、「怨」と「自虐」だけなのだろうか?

その5. 個人と個人の実にささやかな出来事を描きながら、同時に、社会へのメッセージにすることは可能か?

その9. 歌手をかたりべの役から、ドラマの主人公に役替えすることも必要ではないか?

その11. 「どうせ」と「しょせん」を排しても、歌は成立するのではないか?

その13. 歌にならないものはなにもない。たとえば一篇の小節、一本の映画、一回の演説、一周の遊園地、これ
          と同じボリュウムを四分間に盛ることも可能ではないか?

その15. 歌は時代とのキャッチボール。時代の中の隠れた飢餓に命中することが、ヒットではなかろうか?


「~十五条」は、全て疑問形である。それまでの流行歌とは一線を画して、新しい日本人の感性を「四分間のドラ

マ」に表現しようとする意志がありありと感じられる。その創作活動の中から、『ジョニーへの伝言』(ペドロ&

カプリシャス・作曲都倉俊一)、『宇宙戦艦ヤマト』(ささきいさお・作曲宮川泰)、『時の過ぎゆくままに』(沢田

研二・作曲大野克夫)、『ペッパー警部』(ピンクレディ・作曲都倉俊一)、『舟唄』(矢代亜紀・作曲浜圭介)、『熱き

心に』(小林旭・作曲大瀧詠一)、『津軽海峡・冬景色』(石川さゆり・作曲三木たかし)等々のヒット曲が生まれた

は、皆さんが良くご存知のことだ。私もささやかながら詞を書き曲を作るから、この十五条を自らに課しながら言葉

を削り言葉を磨いて、映画のワンシーンの様な情景が見えるドラマ世界を作り続けたことが、前人未到の為せる業だ

と思えてならない。


その他、作詞家デビュー曲の『朝まで待てない』(ザ・モッブス)を一緒に作った作曲家:村井邦彦氏のインタビュー

では、ホテルで缶詰めになって2日で曲を仕上げた話や、小林亜星と都倉俊一の対談では、2人が手掛けた阿久

悠との共作曲の多くはほとんど、曲が先に出来ていて、その符割りに合わせてきっちりと、また思いもよらない

新鮮な詞が作られて来たのに驚いたこと、などが面白かった。


『私の阿久悠ベスト3』にならって、自分が歌ったりいい詞だなと思う曲を挙げてみようと思う。まず、『たそがれ

マイラブ』(1978年・大橋純子・作曲筒美京平)。「♪しびれた指 すべりおちた 珈琲カップ 砕け散って♪~」、

別れの情景が映画のワンシーンのように見えるし、ラテンリズムのメロディーも秀逸だ。そして、『舟唄』(1979年

・八代亜紀・作曲浜圭介)。「♪お酒はぬるめの燗がいい 肴はあぶったイカでいい 女は無口なひとがいい 灯りは

ぼんやり灯りゃいい♪~」、韻を踏んだ心地よい詞を聞くと、何処か北の地の鄙びた漁村に旅したくなる。

もうひとつ、『五番街のマリーへ』(高橋真梨子・作曲都倉俊一)。「♪五番街へ行ったならば マリーの家へ行き 

どんなくらししているのか 見てきてほしい♪」、高橋真梨子の艶やかな声が素敵で、ニューヨークが舞台の歌と

いうのがとても新鮮だった。今でも歌えるラブソングだ。


阿久悠ファンにとっては、明治大学内に「阿久悠記念館」が設立されているというから、一度訪れてみるのも一興

だろう。(http://www.meiji.ac.jp/akuyou/)  また、阿久悠没後10年・作詞家50年メモリアルのコンサート『阿久悠

リスペクトコンサート』が、今年の11月17・18日に東京国際フォーラムで開催されるというのも、ファンにとっては

見逃せないイベントと思われる。ちょっと閑な時や、台風が2つも来て雨に降り込められた日々に少しづつ読んで

みたが、この特集本はなかなか面白い本だった。



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