2018年2月18日日曜日

羽生:金・宇野:銀、やってくれました!! (平昌オリンピック フィギュアスケート男子シングル戦より)




熾烈で高レベルの戦いを制して表彰台に上ったのは、金メダル:羽生結弦(日22歳)・銀メダル:宇野昌磨(日19歳)
・銅メダル:ハビエル・フェルナンデス(ス26歳)の3人だった。過去に例を見ない好勝負の連続で、観客とフィ
ギュスケートファンを熱狂させた試合だった。画像はISUのHPより。




今回の冬季オリンピック戦で、日本選手がなかなか取れなかった金メダル第1号であり、しかも銀メダルとダブル受賞

ということで新聞やTVは大騒ぎで喜んでいるし、フィギュアスケート・ファン歴10年の私自身も、始めて見る日本

選手ダブル表彰台だったので、羽生・宇野両選手の快挙にはほんとにびっくりしたし、また嬉しさもハンパでなか

た。オリンピック2連覇は、男子シングルではデッィク・バトン(米1952年オスロ)以来66年振りだというが、女子シン

グル・ペア・アイスダンスでは2連覇・3連覇の記録があるとは言うものの、とても凄いことを羽生選手はやってくれ

たものだ! と驚きが絶えないのだ。




演技終了後、「勝ったぁ~!!」と叫びながら観客に応える羽生選手。大怪我から復帰し最大の舞台で結果を
出した後の雄叫びは、「自分に勝ったぁ~!」と私には聞こえた。足負傷の不安を乗り越え、ファンの期待
周囲の重圧にも負けずに、ソチの失敗(ジャンプ転倒)を超えようとした演技の端々からも、勝とう! という
彼の闘志が溢れていた。



羽生結弦のジャンプは美しい。縦一本の筋が通ったままぶれずに回転する。加えて、ジャンプに入る前の姿勢が

スムースだし着地とその後の姿勢にも無理がない。「これから飛ぶぞ飛ぶぞ!」というようなタイムラグや力みも

皆無だし、着地後の手足の伸びや仕草も滑らかだ。4回転ジャンプは飛ばないが、゛ジャンプのお手本゛と言われる

ミーシャ・ジー(UZ26歳)の丁寧できれいなジャンプに勝るとも劣らない。今回のFS演技を見ると、3回飛んだ4Tと

3Lzがよろけて減点されたが、冒頭の4Sと4TはGOEが両方とも3点満点だった。また、PCS(5コンポーネンツ)も、

5項目すべて9点台後半の計96.62で出場選手中のトップ、高い滑走技術とテーマ曲「SEMEI」の世界観を

表現した素晴らしい出来栄えだった。まったく文句なしの優勝と言えよう。

今回優勝候補を争う一人と見られていたネイサン・チェン(米19歳)は、SPのジャンプ失敗を巻き返そうと、FSでは

なかなかいいジャンプを見せて(4種類6本の4回転ジャンプ)FS:215.08の高得点をマークしたが、そのGOEはすべて

1点台にとどまり、PCSもPerfomanceの9.04以外の項目は全て8点台だった。やはり、ジャンプの完成度・ステップ

やスピンを含めた表現力の出来栄えは、とうてい羽生結弦には及ばないのだ。「4回転時代」というタイトルはある

が、ただの「ジャンプ屋」ではタイトルをとるのは難しいことが見て取れる。今回惜しくも表彰台に上れなかった

金博洋(中20歳)にも同じことが言えるし、メダル有力候補の一人と前評判が高かったミハイル・コリヤダ(ロ22歳)も

同等だ。フィギュアスケートは、氷上の滑走と表現の総合競技だから、ジャンプ・ステップ・スピンの総合技術を

磨いて、高いレベルを獲得した者のみに栄誉が与えられるのを改めて認識することになった。





もしかすると3位に食い込めるかも?(私の試合前予想)を見事に裏切って、銀メダル獲得の宇野昌磨。SPテーマ曲
「四季・冬」でも、FSテーマ曲「トゥーランドット」でも、世界観が良く表現されていて、GOEはすべて9点台
前半の計92.72、羽生とは違ったタイプの緻密な表現力を体現できる選手になった。



試合後の彼へのインタビューを聞いていても落ち着いていたし、最終グループの最終滑走だったので、他の選手の

結果もすべてわかっていて「自分のプログラムを完璧に滑れば勝てる、と考えていた。」とコメントしていた。冷静

に状況を把握してリンクに出ていったことについては、19歳の青年らしからぬ沈着緻密な計算も見て取れた。確か

に、試合冒頭の4Loがきれいに成功していれば、それは可能だったかもしれない。だがこのジャンプを失敗(転倒)して

から彼の巻き返しが始まった。その後4T+2Tの小さなミスを除けば、総ての演技を成功させ攻める姿勢を貫いたと

ころに彼の真骨頂があった。すごくしぶとい選手になったものだ。恐らく、豊富な練習量をこなし樋口コーチとの

コミュニケーションも上手くいっているのだろうと思う。小柄な体を生かしたキレのある演技と、ジャンプ・ステ

ップ・スピンの一つ一つの技に磨きをかけていけば、羽生結弦ともいい勝負ができる選手に成長する可能性大だ。




ハビエル・フェルナンデス(ス26歳)にとっては、最後のオリンピックになったのかもしれない。欧州選手権6連覇
・世界選手権2連覇の輝かしい成績を持つ彼にとって、オリンピックだけは表彰台と縁がなかった。今回の銅メダル、
おめでとう! 歴史に残るいい試合だった!



羽生結弦のSPテーマ曲「ショパンバラード第1番」とFSテーマ曲「SEIMEI」、宇野昌磨の2つのテーマ曲、そして

J.フェルナンデスのSPテーマ曲「チャプリン・メドレー」とFSテーマ曲「ラ・マンチャの男」、いずれにしても

トップスケーターたちのテーマ曲世界観の表現は素晴らしいと思う。特にフェルナンデスのコミカルな仕草やメリ

ハリの効いた身体表現は秀逸だと言える。FSのPCSは計96.62で羽生とほぼ同じ、磨き抜かれた高い表現力を世界

は認めているのだ。しかし、ジャンプの唯一のミス(4Sが2Sに!)で基礎点を9.5失ったのが明暗を分けた。たった一つ

のミスが勝敗を決める厳しい戦いを、我々は目前で見られたのだ。スリリングで感動的な今回の試合は、いまだか

つてないハイレベルの戦いだったと思う。試合後、同じコーチとして指導を受けて来たブライアン・オーサーと羽生

・フェルナンデスの3人が抱き合うシーンがあったが、こんな素晴らしい栄誉に浴したコーチもいないだろう。

「優秀なコーチありて優秀な選手あり。」の好例を見ることができたのも、今回のオリンピック・男子シングル戦の

贈り物だったと思う。


<略語内容>
F.S.:Figure Skate フィギュアスケート ▢ ISU:International Skating Union 国際スケート連盟  SP:ショート・プログラム  FS:フリー・
スタイル  6種類のジャンプ A:アクセル Lz:ルッツ F:フリップ Lo:ループ S:サルコウ T:トゥループ  ▢ P.C.S:Program Components
(演技構成点) ▢ EL:Element Score(技術点) ▢ Co:コンビネーション・ジャンプ ▢ GOE:各演技の出来栄え点(+3から-3までのジャ
ッジ平均点)


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