2018年11月12日月曜日

羽生結弦のモチベーションとトゥクタミシェワの復活ーISU GPS2018より(その1.)




GPSフィンランド杯で、SP106.69 / FS190.43 計297.12の今季最高得点で優勝した羽生結弦。少年の日に憧れた2選手
のテーマ曲を使用して、新たな挑戦が始まった。画像はISUホームページより。



F.S.の国際競技会GPS戦も、はや4戦を終えてあと2戦とファイナル戦を残すのみとなった。2018年の戦いは、新人

(ジュニアからシニアに上がってきた選手)の台頭と中堅実力者の頑張り、そしてベテラン勢の踏ん張りでなかなか興味

深い試合が続いている。三つ巴えの競争でとても試合内容が充実してるので、見る人たちを楽しませてくれるは嬉しい

今季から採点基準となるルールが改正され、特にジャンプに偏重されていた得点が大きく変わった。男子Sの場合、

FS試合時間は30秒短縮されて4分となった。またFSジャンプ数も1つ減って7個なった。以下は男女共通で、ジャンプ

基礎点が3回転・4回転ともに減り、GOE(演技出来栄え点)は7段階評価(+3~-3)から11段階評価(+5~-5)となった。

その他、演技後半の1,1倍になるジャンプをSP:最後の1本のみ/ FS:最後の3本のみとし、くり返せるジャンプを4回転

は1回/ 3回転までは2回とした。そしてChSqは基礎点が2.0から3.0になった。言わば「より正確に、より美しく!」と

いう評価基準では、演技の質がより高いことが求められる。各選手は減った時間とジャンプ本数(男子)を踏まえて、

演技構成をどう組み立てて来るのかはとても見物なのだ。


羽生結弦にとって、オリンピックを2連覇し取るべき大きなタイトル(世界選手権・GPファイナルなど)もほとんど取っ

てしまった。23歳の彼にとって、早々に引退して解説者やコーチの道もあるだろうに、選手生活を続けて行くのはど

んなモチベ――ション(人が何かする時の動機・目的意識)によるものなのか? GPSフィンランド杯のSP後インタビュー

に対し彼は、「オリンピックが終わってある意味解放されて、自分がしがらみも関係なく滑りたいと思った曲を使っ

ています。小さい頃の自分が見たら、嬉しいだろうなというプログラム」と答えていた。SPのテーマ曲は、元全米

チャンピオンのジョニー・ウィアーが2004~2006年にFSで使用し滑っていた『秋によせて』(ラウル・ジ・ブラッ

シオのピアノ曲)、FSのテーマ曲は、皇帝と呼ばれたエフゲニー・プルシェンコが2003~2004年にかけて滑ったヴァ

イオリン曲『Origin』(ニジンスキーに捧ぐ、作曲・演奏ともにエドウィン・マートン)だ。YouTube動画で二人の演技

を見られるが、長身のJ.ウィアーの滑りはとても滑らかでキレもよく、スマートな羽生のものと雰囲気が似ているし、

E.プルシェンコの滑走は天才バレエダンサーの魂が乗り移ったように激しく刺激的だ。憧れのスケーターが使用して

いた曲を試合のテーマ曲に選んでいるが、2人には日本でのアイスショーの折に直接話し快諾を得たという。これは

素敵なことだなぁ! と思わずにはいられない。少年の時に抱いた憧れが、これから続けるスケーターとしてのモチベ

ーションになるなんて! 新たな挑戦というか、それも勝たねばならないという重圧から解放された、心にゆとりのある

アプローチなのがいい。



フィンランド杯の表彰台は羽生結弦(金.日23歳) / ミハイル・ブレジナ(銀.チェコ28歳) / チャ・ジュンワン(銅.Ko 16歳)、
中堅実力者・新人・ベテランの3名が並んだ。羽生とジュンワンはコーチが同じブライアン・オーサー、韓国にも
有望な新人が出て来た。



実際の試合では、SPは冒頭の4Sが素晴らしいジャンプ(GOE4.30 !!)で、続く3Aを成功させ、Coの4T+3Tも跳び、

スピン・ステップも高得点、計106.69の今季最高得点をあっさりと出してしまった。つづくFSでも冒頭の4Loと4番

目の4Tはやや回転不足だったが他のジャンプはきれいに決め、驚いたのは4T+3AのCoを世界で初めて試みたこと

だった (着地に乱れありだったが)!  P.C.S(演技構成点)はSP・FSともに全て9点台という高評価! 試合後のインタビュー

で、今のところは4A(4回転半)は封印していると言っていたが、より高度なCoジャンプやまだ誰も挑戦していないジャ

ンプを練習し準備しているというところに、彼の凄みを感じる。度痛めた足のケガを再発させぬよう、よくケア

しながら今後の試合に臨んでほしいと思う。

ネイサン・チェン(アメリカ杯優勝.米19歳)・宇野昌磨(カナダ杯・NHK杯連続優勝.日20歳)と羽生結弦3人の中堅実力


者達の表彰台争いは、合計得点290点台を巡ってがぜん真剣味を帯びてきた。それに続くベテラン勢のM.ブレジナ


(アメリカ杯・フィンランド杯連続2位)とセルゲイ・ボロノフ(アメリカ杯・NHK杯連続3位.ロ31歳)、キーガン・

メッシング(カナダ杯2位.カ26歳)充分表彰台を狙える位置に居る。加えて、C.ジュンワン(カナダ杯・フィンランド

杯連続3位)とマッテオ・リッツォ(NHK杯3位・アメリカ杯4位.伊20歳)新人2人の活躍もどこまで食い込んでくるか? 

有力選手たちの今後の戦いは興味深々だ。




3A(3回転半ジャンプ)を成功させカナダ杯優勝・NHK杯3位で完全復活したエリザベータ・トゥクタミシェワ(ロ.21歳)、
シェイプアップした身体から繰り出す演技はキレ味鋭く、大人の妖艶な雰囲気を合わせ持つ実力選手だ。



ロシア勢トップのアリーナ・ザギトワ(フィンランド杯優勝 ロ.16歳)とエフゲニア・メドベデワ(カナダ杯3位 ロ.18歳)

の熾烈な争いに割って入ってきたのは、ベテランのE.トゥクタミシェワだった。2015年世界選手権と2014年GPファ

イナル・2015欧州選手権を制した後、ケガのため3シーズンを低迷したいたが、今シーズンは本来の実力を発揮して表

彰台に上がってきた。今シーズンを怪我のため休養しているカロリーナ・コストナー(伊.31歳)が現役復帰した時のファン

の喜びにも増して、トゥクタミシェワのファンである私の嬉しさも倍増している! 

彼女の出身はロシア連邦のウドムルド共和国とあるが(Wiki)、仔細を私は知らない。でも2014年GPファイナルのFS

テーマ曲「Batwannis Beek」(アラビアン風)に乗って滑走した演技は、全身がバネの様な切れ味と、安定したジャンプ・

スピン・ステップを繋ぐ「間」の取り方が素晴らしかった。そのミステリアスな風貌としなやかな身体と指の動きで、

観客を魅了した。エキゾチックな風貌の黒髪・黒い瞳は、東洋系あるいはアラビア系の血を引いているようにも見え

る。紫色に金色の縁どりした衣装はシースルーで妖艶ですらあった。素晴らしい表現力を持った彼女が表舞台に復帰

してきて、俄然女子シングルの戦いも面白くなってきた。



2014年GPファイナル当時のトゥクタミシェワ、現在の身長158㎝は当時とほとんど変わらないが、身体を絞って
動きは以前にも増している。




さて、GPS戦女子Sの得点結果を現時点で見てみると、シニア戦初参加で3Aを二つ成功させた紀平梨花(NHK杯優勝 

日.16歳)が224.31でトップ、宮原知子(アメリカ杯優勝 日.20歳)が219.71でそれに次いでいる。E.トゥクタミシェワ

(NHK杯3位)が219.02、アリーナ・ザギトワ(フィンランド杯優勝 ロ.16歳)が215.29、坂本花織(アメリカ杯2位 日.18歳)が

213.96と続く。ここに、山下真湖(カナダ杯2位 日.15歳)とE.メドベデワ(カナダ杯3位 ロ.18歳)が付けているが、S.サモ

デュロワ(アメリカ杯3位 ロ.16歳)とS.コンスタンチノワ(フィンランド杯2位 ロ.18歳)のロシア新人2人も食い込んでくる

か? いずれにしても、有力選手のトップ争いは220点台を巡って表彰台を争う激しいものとなるだろう。女子Sの場合

は大きなルール改正はなく、GOEの評価段階と後半ジャンプ数のみの変更なので、得点は昨シーズンと大きくは変化

しないが、より正確で美しい演技表現が求められることに変わりはない。トップ選手たちの実力はほとんど差がない

ので、誰に幸運の女神がほほ笑むかはふたを開けてみなければわからないのだ。




NHK杯の表彰台は、紀平梨花(金)・宮原知子(銀)・E.トゥクタミシェワ(銅)の3選手だった。技術レベル・表現レベル
ともに高度で見応えのある試合だった。宮原と紀平はともに濱田見栄コーチのの指導を受ける教え子、この表彰台は
コーチ冥利に尽きる。


<この項つづく>


<略語一覧>
ISU:International Skating Union(国際スケート連盟)  GPS:Grand Prix of Figure Skating(グランプリ・シリーズ)  F.S.:Figure Skating(フィギュアスケート)  男女S:シングル  FS:Free Skating(フリースケーティング)  SP:Short Program(ショートプログラム)  ChSq:Choreo Sequence(氷上に絵を描くように、ステップやターン、イナバゥアー・イーグル・スパイラルなどで構成される連続演技)  6種類のジャンプ A:アクセル Lz:ルッツ F:フリップ Lo:ループ S:サルコウ T:トゥループ  P.C.S:Program Components(演技構成点)  EL:Element Score(技術点)  Co:コンビネーション・ジャンプ  GOE:各演技の出来栄え点  BV:Base Value(基礎点)

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