2019年12月12日木曜日

4回転跳ばず、バランスの良い優美な演技でコストルナヤが勝者に(GPファイナル・女子シングル)




女子シングルの表彰台は、アリョーナ・コストルナヤ(ロ16歳 金)、アレクサンドラ・トゥルソワ(ロ15歳 銀)、アンナ・
シェルバコワ(ロ15歳 銅)のロシア勢3選手(少女たち)が独占した。画像はISUのHPより。



ロシア3選手たちと日本の紀平梨花との表彰台争い、230点から240点台の攻防、という試合図式の予想はぴっ

りと当たったが、終わってみればジュニアからシニアに上がってきたロシアの3少女たちに席圏されたGPファイナ

ルだった。フィギュアスケートの現状ルールからすれば、高難度のジャンプ(クヮド:4回転や3A:3回転半)に技

術点や出来栄え点の高得点が付され、相対的にスピンやステップの得点数が低いのだから致し方はないのだが、

身長が低い・体重が少ない・筋肉や脂肪が少ない体型=成熟した女性になる前のティーンエイジャーが有利なの

は誰もが理解できる。ロシアのコーチ陣は選手たちを、若年齢の時から徹底的に鍛えて、ここ数年(ソチ・オリン

ピック前後から)国際試合で表彰台を勝ち取ってきた。選手たちも激しい競争に打ち勝って、好成績を残してい

るのだから何も文句を言う筋ではないのだが、そこにはソトニコワ(ソチ五輪金メダリスト)・リプニツカヤ(ソチ

五輪団体金メダリスト)・ラジオノワ('15世界選手権銅メダル)・ソツコワ('17GPファイナル銀メダル)・サモデュロ

ワ('19欧州選手権金メダル)など、10代半ばで活躍した選手は居ないのだ。今回のGPシリーズでも、E.メドベージェ

ワ(世界選手権2連覇 19歳)も、A.ザギトワ(平昌オリンピック金メダル・'19世界選手権金メダル 17歳)も、GPファイ

ナルの表彰台には上がれなかった。若くして頂点を極めてしまった選手たちは、その後怪我や体型変化に苦しみ、

拒食症や精神疾患を患って、再び競技会の一線に戻れずにいる者もある。その高度な滑走技術だけでなく、表現力

や個性を磨いてバランスの取れた表現者になったら、どれだけ多くのフィギュア・スケートファンを楽しませてく

れたかを思うと、過酷な現状と技術主義偏重には疑問を覚えずにいられないのだ。




A.コストルナヤは、4回転ジャンプを飛ばずに、3本の3A(トリプルアクセル)と他の全てのジャンプをノーミス・
高評価で決め、ステップ・スピンも全体にバランスが良く、優勝を勝ち取った。SP(ショート・プログラム)・FS
(フリースタイル)の得点 85.45+162.14 計247.59 は、女子シングルの最高得点、文句のつけようがない勝利だっ
た。表現の美しさは計算しつくした練習の賜物だが、にじみ出て来る個性や感情表現はこれからの課題だと思う。



A.トゥルソワは、FSで5本の4回転ジャンプに挑戦してきた。◎4F(フリップ)-初めて・×4S(サルコーは2回転に)
◎4ℤ(ルッツ)・◎4T(トゥループ)・×4T(転倒)、2本は失敗したが本番の舞台で新たな挑戦は凄いと思う。表現力
の評価(PCS)はまだまだだが、これからどんなF.スケーターに成長していけるのかは興味深い。



最高難度の4Lz一本でGPシリーズを勝ち上がってきたA.シェルパコワが、FSでは4Tと4Fを見事に決めた(得意の
4Lzは失敗)。このしたたかさにはちょっと驚いたが、トゥトベリーゼコーチ陣営の戦術は度を抜いていると感じた。



紀平梨花(日17歳)は今回ジャンプの取りこぼしが多く、FSで4Sに挑戦したものの 計216.47で4位となった。今回の

GPファイナル戦予想で、「いずれにしても演技の正確さ・出来栄えがカギとなる。総合的に演技の質が高く美しい

選手に栄冠が輝くのではないか?」と私は書いたが、紀平も伸び代が沢山ある選手だから、一つ一つの課題をクリア

していけば互角に戦えると思うので、奮起を促したい。




紀平梨花のテーマ曲:SP「Breakfast in Bagdad」と FS「International Angel of Peace」、共にリズムや
擬音が多く情感に乏しかった。もっと流麗でメリハリのある曲が良いと思うが。



A.ザギトワの表現力はとても良くなってきていると感じた。もう大人の体型になってきたのだから、一度休養して
もっと体をシェイプアップしたらどうだろうか? そして新たなジャンプ技術に挑戦してもらいたいと思う。



最下位に沈んだA.ザギトワの結果をとらえて、ロシアのマスコミには「引退か?」というような記事も見受けられる

が、ロシアという国の体質が゛勝てば官軍゛、゛選手は消耗品゛というようなことでは、ますます成熟したF.スケ

ーターは育たないだろう。誰だってピョンピョン・ジャンプするだけの演技を見せられたくないと思う(ファンには

申し訳ないが)。質の高い・バランスの取れた個性を見たいと思っているのだ。F.スケートは競技であるとともに

エンターテイメントだから。一つの救いは、エリザベータ・トゥクタミシェワ(ロ22歳)の存在だ。今季GPシリーズ戦

でも、ブレディ・テネル(米21歳)・宮原知子(日21歳)・マライア・ベル(米23歳)と同獲得ポイント(22点)だった。総

合得点の多いテネルがGPファイナルに出場したが、4選手の実力差はない。


トゥクタミシェワは2015年の世界選手権を優勝した後、長らく怪我や病気(肺炎)のためひのき舞台に出てこられな

かった。復調は昨シーズン(2018ー2019)から、得意の3Aの安定度が増しキレのいい演技と妖艶な個性が戻って来た。

今季もスケートアメリカと中国杯でともに銅メダル獲得だ。ロシアのスポーツニュースによると、すでに練習で4T

(トゥループ)を成功させているという。成熟した女性体型になっても、身体をシェイプアップし高難度のジャンプに

も挑戦する姿勢は、なかなか頼もしいではないか。シニアのベテラン選手になっても、C.コストナー(伊)や鈴木明

子(日)のように、美しい滑降技術と表現力で観客を魅了する選手をファンは見たいと思っているのだ。



GP中国杯でのトゥクタミシェワの演技、観客を大いに沸かせた。


<この項終わり>


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