2020年11月1日日曜日

観光スポットとなった御射鹿池と秋の巻雲 (奥蓼科探訪 その3)

 



紅葉が始まった蓼科の山々をバックに、ひっそりと佇む御射鹿池(みしゃかいけ)。緑がかった湖水に映り込む山や木々
の影も神秘的だったが. . . 道路嵩上げと駐車場設置のため湖の岸辺には鉄柵が巡らされ、立ち入り禁止となってしまった。
All Photo by Jovial TAKA




さて、目的地の一つだった御射鹿池については、やや複雑な思いでいる。これは、人々にとって絶えず問われる課題

だからだ。曰く、開発による経済効果か? あるいは環境保全なのか? ということだ。この池の歴史を見ると、昭和8年

(1933)に農業用温水ため池として造成され(貯水量26,000t / 水深8m / 標高1,528m)、その後の護岸工事を経て2,016年

8月に、道路改修(嵩上げ)・駐車場設置(普通車30台・大型バス10台程)の工事を行って、増える観光客への便を図って

きた。東山魁夷の絵画「緑響く」の制作舞台となっていることや、吉永小百合のTVCM(Sharp Aquos)の背景イメージに

使われたこと(私も見た記憶はあるが、YouTube動画では検索できない)、これらの知名度を観光客誘致に使わない手は

ないと、行政や業者も考えたのだろう。

東山魁夷がこの池をテーマに作品を描いたのは、今から約40年程前だが、元々諏訪神社の神事としてこの地区で

奉納のための鹿を射ったことから池の名前がつけられたと言われている。さほどの山奥の静寂な環境だったから、

作者も画欲を刺激され作品につながったのだろう。その当時は歩いて小1時間(車では5分程度)かかる宿に一週間

滞在し、取材を続けた宿がなんと渋辰野館だったことを知った。それは、当館にこの作品のリトグラフが飾られて

おり、宿泊取材の経緯を紹介してあったからだ。この、奇しき一致に驚きはしたものの、現在の御射鹿池にやって

くる観光客の混雑振りを知ったら、作者はなんと言うだろうか?




東山魁夷作「緑響く」1982(昭和57)年 作者74歳 濃美術館蔵 、深山・幽谷の湖水に映り込む新緑の木々と、画面左
に向かってゆっくりと歩む一頭の白馬が、幻想的な静寂さを漂わせている。作者自身によると、その時モーツァルト
のピアノ協奏曲第二楽章の旋律が聴こえきて、「白い馬はピアノの旋律で、木々の背景はオーケストラです。」と
語っている。この年、パリにて「白い馬の見える風景」展開催。当美術館HPより



同様な状況は日本各地で見られるものだろう。京都しかり、軽井沢しかり、博多しかり。ここ数年続いたインバウ

ンドの外国旅行者の激増は、大きな経済効果を我が国にもたらしたけれど、大きな弊害ももたらした。それも未だ

に収まらないコロナ感染の拡がりで一変してしまった。あの、中国人観光客でごった返していた富士の裾野の湧水

池:忍野八海は、今どうなっているのだろう。サイクリング用舗装道路が作られて環境が一変し、梅花藻が枯れ果て

てしまった姫川湧水は、元の美しさに戻れるのだろうか? 4年以上前に撮影し、動画投稿した姫川湧水の豊かな環境

と美しい梅花藻の開花は、もはや過去の映像でしか見ることが出来ない。

舗装道路嵩上げと大型駐車場が出来る前の、御射鹿池の貴重な映像が残されている。4Kの高画質・色調整などはさ

れているが、もう二度と見られない風景かもしれない。多少不便さはあっても、貴重な自然体系を残していく方向

性と努力が、我々にも求められているのだと考えざるを得ない。自然環境や生態系に負荷のかからない暮らし方や

遊び方を心がけたいものだ。奥蓼科の自然環境をこれからも残していって欲しいし、自分たちに出来ることをして

いきたいと思う。




新緑の御射鹿池「死ぬまでに行きたい ! 日本の絶景」奥蓼科 Japan Mishaka Pond of Summer
https://www.youtube.com/watch?v=bZEBy7k_EFQ  






巻雲の一つ:肋骨雲(ろっこつうん)は、人間や動物・魚類のあばら骨のような形の雲で、北の高気圧が張り出してきて、
湿度が低く晴れた秋の空に現れる。



話はさておき、1日目の雲一つない快晴と翌日の晴天に恵まれ、高原(渋辰野館で1,700m程)の空気も朝方は5℃だった

から、放射冷却で抜けるような青空と、秋特有の巻雲や巻層雲(10.000m前後の上空に現れる)を見ることが出来た。

これらの雲は、都会や都郊外ではなかなか見られない種類なので、時を忘れて雲に見入ってしまった。紅葉とともに

このような秋景色を雲の形で見られたことも、奥蓼科ならではの贈り物だった様に思う。帰路は宿から横谷観音に

廻り、八ヶ岳東麓のエコーライン → 鉢巻道路を抜け、大平交差点から八ヶ岳高原ライン → クリスタルライン →

141号線を辿って、須玉インターから高速に乗って東京に戻った。立ち寄った蓼科自由農園の広さと品揃えに感激し、

信州から甲州に入ると空気や標高の違いからか、紅葉の進み具合や色合いがなんとなくくすんでいて、「やはり

紅葉は、信州の高原の方がずっときれいだね! 」と、連れとの意見が一致した。




鉤状雲(かぎじょううん)は、筋状の雲の先端が鉤のように曲がっていて、釣り針を思わせるを思わせる形をしている。




毛状雲(もうじょううん)は、毛髪や繊維を思わせる筋のある雲で、薄いベールのようにまとまって現れる。




初日に諏訪南で高速を降り、八ヶ岳山麓の道路を蓼科に向かう途中、原村の道路脇に見つけた満開の秋菊、豹紋蝶が
一匹飛来して花の上に止まった。





八ヶ岳の全貌を見ることが出来たのは初めてのことだ。快晴で雲一つない日、湿度が低くやや風がある日、幸運の
光景を南東方向から見ることとなったが、右から、編笠岳(2524m)・西岳(2398m)・権現岳(2716m)・赤岳(2899m)・
阿弥陀岳(2805m)・横岳(2829m)・硫黄岳(2760m)・天狗岳(2466m)。見る角度のため、後方の高い山が低く見えるの
わかった。中山(2496m)から蓼科山(2530m)に続く北八ヶ岳は、天狗岳の北方に連なっている。





旅のお土産は、原村にある「たてしな自由農園」で買い物した。地域クーポン券も利用出来たので、取れたて野菜・
地元日本酒・栃の実入り煎餅・ナチュラルチーズ・うずら豆など色々と入手した。「食用ほうずき」は、宿泊先の
夕食前菜にも出て、レモンイチゴが混ざったような美味しい実だったので、思わず買ってしまった。信玄の薬湯に
浸かり、紅葉と滝・地産の食と空高い雲を満喫したいい旅だった。



<この項終わり>



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