2008年10月25日土曜日

歌川派の浮世絵



             歌川国芳 東都富士見三十六景 昌平坂の遠景
原宿の太田記念美術館で、幕末歌川派の浮世絵展が開かれているので覗いてみた。この浮世絵専門美術館は私の好きな美術館のひとつで、収蔵の浮世絵版画コレクションが充実している。企画展としてテーマを変えては、色々な浮世絵の原画や版画が見られるのでとても楽しめる。JR原宿駅から明治通り交差点に続く大通りの裏(左側)にひっそりと建っているが、表通りの雑踏が嘘のような三階建ての静かな美術館だ。展示スペースも頃合で、ゆっくりと見られる。関心のある人しか来ないのであまり混んでいないのもいい。時折すっと着物を着こなした妙齢の婦人が居たりして、美人画と美人をそっと見比べたりなんかもする。
19世紀初頭から半ばにかけての江戸時代幕末は、文化・文政の江戸文化の爛熟と水野忠邦の天保の改革、ペリー来港と開国へと続く激動の時代であった。各出版元が競った浮世絵版画の隆盛はすさまじく、役者絵・美人画・風景画を庶民はこぞって買い求め楽しんだ。初代歌川豊国の弟子は60人を数え、絵師になりたい希望者が五万と居て門前が溢れ、なかなか弟子にしてもらえなかったというからすごい。
その中で、国芳は武者絵やユーモア溢れる戯画で知られ、国定(後の三代目豊国)は役者絵や美人画に秀で、広重は名所絵をシリーズ化した風景画でおなじみであるが、今回はこの三人の浮世絵版画と原画を一堂に集めて見られる好企画展なのだ。

自身は、広重の風景版画が大好きで、大判の「東海道五十三次(横53)」や「木曾海道六十九次(大判横70枚中46枚、24枚は英泉作)」、「東都名所(大判10枚)」などのシリーズ作品にとても魅かれる。中でも名作の「名所江戸百景(大判118枚)」は、その大胆な構図と色合い、江戸雪月花の風情が秀逸で飽かずに見入ってしまう。今回も、五十三次の中から゛箱根゛と゛蒲原゛が出品されていた。
東都名所の゛両国花火遠望の図゛はうちわ絵の形、゛木曽路之山川゛は三枚続きの雪景色、やはり三枚続きの゛大江山酒呑童子゛は度肝を抜く役者絵、そして始めて見た゛阿波の鳴門の風景゛は詩情溢れる渦巻き絵、などなど...やはり、広重はいいね、何時見てもこころが躍るよ!
広重 名所江戸百景 鎧の渡し小網町




浮世絵版画の出版は、絵師と彫師と刷師が作業分担して版木を作り、多色を重ねて一杯(200枚)を単位として重版された。保永堂版の五十三次は百杯刷られたというから20,000セットということで、大変な枚数となるベストセラーだった。当然版木は磨耗するから、刻線も調子が落ちて版ずれやボヤケが出てくる。こんな状態を作品で見るのもひそかな楽しみ。また、「名所江戸百景」の版元が゛魚栄゛と記されているが、魚屋栄吉のことであり、当時の日本橋で財をなした魚卸し業がスポンサーだったのか?こんな推理も的外れではないだろうと思う。                             
                                               国貞 美人画 歳暮の深雪
太田記念美術館 : http://www.ukiyoe-ota-muse.jp/

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