2011年5月1日日曜日

技のすべてを、やわらかく包み込んだ安藤美姫がチャンピオンに

2011年の世界フィギュア・スケート選手権のファイナルは、東京代々木体育館で開催予定だったが、大震災のため急遽会場をモスクワに移して4/27より競技が始まった。男子・女子シングル、ペアダンス・アイスダンスなどの競技をTVでじっくり見ることができた。これも、連休の楽しみで、あと今日のエキジビションを最後に残すだけだが、各選手の競技をテーマ音楽とのコンビネーションの面から述べてみたい。何せ、゛フィギュアスケート大好き゛を大っぴらにしている私のコメントなので、我田引水・ひいきの引き倒し、はご容赦いただきたい。なお、ここに載せた写真は、すべて、ISU
(国際スケート連盟)とZIMBIOのホームページのデータであることをお断りしておく。
女子シングル・金メダルに耀いた安藤美姫の今シーズンの演技はとても安定していた。見ている方でも安心感がある。ジャンプ・ステップ・スピンなど滑走技術の正確さと合わせて、それを繋いでいく間の取り方がとても滑らか。加えて、身体全体でかもし出す雰囲気は、芯の強さとやわらかさを表現していて、何故か癒されるのだ。
SP(ショート・プログラム)にそれがとても良く現れていた。薄いサーモン・ピンクの衣装に身体をつつみ、映画「ミッション」のテーマ曲に合わせて彼女は舞ったが、E.モリコーネの美しい旋律とYo-Yo-Maの柔らかなチェロの音は、技のすべてをやさしく包み込むような安心感に満ちていた。笑顔を絶やさなかった美姫の演技は、日本のファン達、格別被災地の人たちのハートに届く素晴らしいものだったと思う。演技後のインタビューでも被災地のことに彼女は触れていたが、自分の目標とする演技の向こう側に、応援したい人たちの姿を見据えていたことに、彼女の成長と精神の強さを垣間見た気がした。 
方や、昨年バンクーバー・オリンピック金メダリストのキム・ヨナ、 FR(フリー)では「Homage To Korea」という、民族音楽・アリリャンをテーマにしたオーケストラ曲に乗って踊った。一年以上のブランクはあっても、彼女の演技は健在で、伸びやかな切れのいい滑走はさすがだった。ただし、ジャンプに小さなミスが続いたのと、祖国への思いを現す旋律と彼女の演技がいまひとつまとまらなかった。FRの点数が伸びず今回は銀メダルだったが、SPの「ジゼル」(A.アダム)の方がメリハリがあって、かつダイナミック、彼女の演技とよくマッチしていたと思う。バンクーバーの時の演技総合点・228.56という数字が、いかに驚異的なものであったかを思い知らされる。その頂点に今後再びたどり着くのは、至難のことと思われるが...
カロリーナ・コストナー(ITA)については、アリッサ・シズニーとともにこのブログ(2010.12/15 北京グランプリの項)でも触れたが、169cmの長身から繰り出すジャンプが決まると、とても迫力があり見映えがする選手だ。ただ、長身かつ足長ゆえに重心も高いのだろう、なかなかこれが決まらないのだ。本人もそれを解っていて、以前なら転倒のあと演技に精彩を欠いていたが、最近はその後の演技を盛り上げてカバーする精神力も強くなってきた。
ゆったりと官能的なドビュッシーのオーケストラ曲「牧神の午後」は彼女の十八番で、これに乗って滑ったFR演技は、スピード感があり、絶妙な両手の動きが加わって華麗ですらあった。


今回、一番楽しかったのは、アレーナ・レオノア(RUS)のコミカルな演技。SPはニーノ・ロータ作曲の映画音楽・「サーカス」と「道」、FRはやはり映画音楽の「イーストウッドの魔女たち」、ともに衣装も動作も軽妙で、サーカスのピエロと魔女の役回りを卓越した滑走技術で表現して見せた。これはかなり高度なパフォーマンスだと思う。テーマ曲の世界をイメージして、ジャンプ・ステップ・スピンを組み合わせて構成するには、相当の技量がなくてはできない。また、その結果として、観客を沸かせるエンターテイメント性も併せて獲得しなければならない。男子シングルのF.アモディオ(FRA)もヒップホップの曲でコミカルさを狙ったが、これは上手くいかなかった。
レオノアの小柄でマメタンクのような体型もプラスになっているかも知れないが、自分のキュートな顔立ちのキャラクターを上手く表現できたのがよかったのだと思う。゛汝、己をよく知るべし゛。





体型としては対照的なのがアレッサ・シズニー(USA)、164cmながらスレンダーなので、実際よりも長身に見える。細面の顔と優雅な身のこなしで、ゆったりと滑走する姿にはファンが多い。かく言う私も彼女のファン。昨年暮れのグランプリ大会(北京)での優勝も記憶に新しいが、今回はそのときの演技にやや届かなかった。
SPは、ヴァイオリン・コンチェルト・ニ長調の「プリンセス」、FRは、彼女の十八番「Winter Into Spring」・ジョージウィンストンのピアノ曲。ともにジャンプに小さなミスが出たが、スピンは抜群の美しさ、軸のぶれない回転とスピードは出場者のなかではNO,1だろう。ヒーリング系の曲は珍しい選択肢だが、彼女にはとてもあっていると思う。

女子上位陣のスリリングで激烈な戦いに比べ、浅田真央は体重減でパワー不足、精神的にもまだまだだった。村上佳奈子も国際舞台を踏んで、これからの成長に期待が持てる。



今大会の男子陣については、収穫が少なかったように思う。ライザチェック(USA)もプルシェンコ(USR)も第一線を退いた後、全体に選手が小粒になってしまった。そんな中で一人気を吐いたのがパトリック・チャン(CAN)、SP演技で「テイク・ファイブ」のサックスとドラムによる軽快
な音に乗せて滑りまくった。スピードといい切れといい演技をつなぐ間といい、また4回転ジャンプを2回決めるなど抜群の出来だった。FRもロイド・フェイバーの映画音楽「ファンタジー」に乗って次々とジャンプを決め合計280.98という信じられない高得点をたたき出した。これには私もびっくり!
全盛時のブライアン・シュベール(FRA)をもっとキビキビさせたような躍動感に溢れていた。
テーマ曲という点では、小塚嵩彦の「ソウルマン・メロディ」も面白かった。モダンなパイプ・ミュージックをRandBにアレンジした軽快なリズムに乗って、切れのよいエッジワークが光っていた。ジャンプのミスもあり点は伸びなかったが、FRでは、F.リストの「ピアノ協奏曲1番」に合わせて素晴らしいすべりを見せてくれた。演技後にガッツポーズが出たのを見ても、本人は快心の出来だったのだろう。合計258.41というのも自己ベストのスコア、クラシックの名曲に乗って、確実に演技をできたことが勝因と思う。
17歳の新鋭アルトゥール・ガチンスキー(RUSー名前がいい!)は、プルシェンコの後継者を思わせる仕草と演技で会場を沸かせた。SPは「ピンクフロイド・メロディ」、ElGtの軽快なリズム曲でダイナミックなすべりをアピールした。コーチが同じアレクセイ・ミッシンということもあり、随所にプルシェンコ風が飛び出す。FRはシェスタコヴィッチのバレエ曲の「ボルト」、4回転ジャンプをきっちり決めて合計241.86の高得点を獲得した。
今回、メダルを得た3人は、ともに自己ベストのスコアを達成して表彰台に上った。しかし、期待の高橋大輔はシューズの緩んだボルトで演技を中断し、織田信成は、規定のジャンプ回数をオーバーするミスで減点され、ともに不本意な結果に終わった。

さて、今夜はファイナルのエキジビジョンの滑りを見ようか。競技の緊張から解き放たれた選手達の伸びやかな演技がとても楽しみだ。

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