2012年11月22日木曜日

゛きそいあう江戸の風景゛、「北斎と広重展」を見て


葛飾北斎の『富嶽三十六景・神奈川沖浪裏』と、歌川広重の『東海道五拾三次・庄野 白雨』がデザインされた入館チケット。ここに紹介した作品は、町田市立国際版画美術館のホームページに掲載されているものです。
゛浮世絵版画の集大成゛と言える版画展が、町田市立の国際版画美術館で開催されている(~11/25)ので、出かけてみた。この版画展の情報は、私が偶然に小田急線の駅張りポスターで見かけたものだが、市立の小規模な美術館の、しかも地味な版画展ということで、PRの面でもあまり行き届かなかったのかもしれない。しか~し!!、この企画展の内容の充実振りは、予想をはるかに上回っていた。全422点の作品を、前期と後期でく半分づつ入れ替えて出品されていたので、約220点余をじっくり見ていったら、時間の経つのも忘れて、何時の間にか閉館時間を迎えていた。
午後3時頃の入館だったから、およそ2時間くらいたっぷりと作品を観賞したことになる。美術館の職員や警備員等に見送られて館を出たら、すでに初冬の日はとっぷりと暮れていて、明るい半月の光が空に冴え渡っていた。
展示カタログによると、約25の美術館、博物館、財団などと個人の所蔵する作品が、日本全国から集められていた。当該館の町田市立国際版画美術館は、広重の保永堂版『東海道五拾三次之内』のほぼ全点を出品し、北斎の『富嶽三十六景』は、山口県萩美術館・浦上記念館と、(財)足立伝統木版画技術保存財団と、(財)日本浮世絵博物館などから集められていた。
渓斎英泉や歌川国芳・豊国・国定達の作品も、多くのコレクターたちの協力で、この美術館の開館25周年記念展に作品を出品(貸し出し)して、一大版画展を盛り上げていた。



北斎の『富嶽三十六景・山下白雨』、保存状態が良く空の゛ベロ藍゛(ベルリン・ブルー)と山肌の朱色が素晴らしかった。雲の形といい、単純化された雨の線といい、大胆で簡潔な北斎の表現手法が見られる傑作。房總浮世絵美術館蔵(上)

会場は大きく3部のテーマで構成されていた。1部は「江戸のまなざしー風景表現の発展」で、美人画や歌舞伎の錦絵に替わる風景画の台頭と発展を紹介している。
2部では、「風景版画の大成ー北斎『富嶽三十六景』と広重『東海道五拾三次』」を特集して、2大作家の作品各60点余づつを集めている。
3部は、「きそいあう江戸の風景」で、北斎の『諸国瀧巡り』、国芳の『東都名所』、英泉の『木曾海道六拾九次之内』、広重の『名所江戸百景』などのシリーズ版画作品を紹介している。



広重の『木曾海道六拾九次・中津川(雨)』、画面手前の合羽姿の旅人と右手後方に広がる街並みにと樹影、最後方広がる黒いシルエットの山の稜線。すべてを覆う雨脚の線描が詩情を奏でる。『東海道五拾三次・庄野 白雨』にしても、『江戸名所百景・大橋あたけの夕立』にしても、広重の゛雨表現゛は、他に類を見ない独自の個性だ。同時代の西洋美術家(ゴッホやモネ)を虜にした世界がここにあった。ご一緒した絵友のHIさんも、「そう言えば、西洋絵画に゛雨を描いた作品゛は無いわね!」と感心していたが。(上)個人蔵

これだけ多くの浮世絵版画を見ることが出来たのも、私はこの企画展がはじめてだった。浮世絵版画美術館の太田美術館(東京・原宿)へは時折訪れるが、これだけ多くの美術館が浮世絵版画をコレクションしているのを知って、とても嬉しかった。
ただ、私が1番楽しみにしていた広重の『名所江戸百景』のシリーズは、わずか6点の出品(会期後半は3点のみ)であり、それらはすべて個人のコレクションだった。このシリーズ作品を公の美術館で見ることが出来るのは、至難の業であることを改めて認識した。



北斎の『百人一首姥がゑとき・山部赤人』、百人一首の歌をモチーフにした風景版画が27点出品されている。歌の内容を良くご存知の方には、とても魅力があると思う。残念ながら、こちらはうろ覚えなので、もっぱら絵を楽しむのみ。(上)当該美術館所蔵

























広重の『六十余州名所図絵』より、「信濃 更科田毎月鏡台山」、山の光る稜線と黒いシルエット、群雲と白雲の対比、田毎に映る月の光と水の色...総じて静かな旅情。晩年の『江戸名所百景』の゛竪構図゛と同じ画面サイズで描かれた傑作。(左)神奈川県立博物館蔵。

同じく、広重の晩年作品『富士三十六景・さがみ川』、画面・前面のアシ、前と後ろのいかだ舟、中間のアシ原、後方の富士と山並み、奥行きのある竪構図の中心で、煙がたなびく。ゴッホが「タンギー爺さん」の背景で描いたことでも有名。(右)当該美術館所蔵。


途中、椅子に座って休むことも無く、一気に版画作品を見入ってしまった。至福の時間。
帰途に見た半月の月は、葉を大方落とした樹影の向こうの空高く、深々と輝いていた。初冬の澄んだ冷たい空気の中で、一片の版画のようだった。


興味のある方は、次のホームページを覗いてみてください。
http://hanga-museum.jp/exhibition/index/2012-139

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