2013年5月18日土曜日

『A Música Segundo Tom Jobim』を、YouTubeで観る。



昨年ブラジルで発売されたDVDのPKG表紙、タイトルは『A Música Segundo Tom Jobim 』(英題:『The Music According To Antonio Carlos Jobim』)、若き日のトム・ジョビンが凛々しい。


今年の2月末に、「大人の音楽映画祭~レジェンドたちの競演」というイベントのなかで、角川シネマ有楽町で公開されたこの映画を、見たいと思いながら見逃してしまった私は、ずっと気になっていたのだが、今回YouTubeの動画でようやく見る機会を得た。
ひと言で言って、素晴らしい!そして楽しい!に尽きる。

ジャンルで言えば、音楽ドキュメンタリー映画であり、かつ一ミュージシャンを巡る伝記映画だが、全編に流れるのはすべてトム・ジョビンの曲だ。それも、一切のナレーションや台詞も無く、ひたすら、本人とブラジルや世界のミュージシャン達が歌い・奏でる音楽と映像で構成されている。元になっているのは、ライブハウスやコンサート、TV ショーや発売されたDVDの画像や動画だ。それを編集して85分にまとめたものだが、出演しているミュージシャンたちがすごい。1950年代のリオの街並み風景や、トムと共に生きた当時のミュージシャン達の貴重な映像を、始めて見るものも多い。それだけ、バンドメンバー達からも、ミュージシャン達からも、聴衆からも、愛された、トムジョビンの存在の大きさを知ることが出来る。

この映画とDVDについては、多くのファンや識者がブログで触れているし、またYouTubeでも、映画メイキング動画や、元になっているドキュメンタリー動画(TV放映されたものか?)が見られるので、詳細について載せるのは控えるが、私なりに感じたことを簡単に述べたいと思う。(下は、DVD PKGの裏表紙)



とにかく、「しあわせな、トム!」、と私は言いたい。トム・ジョビンの家族と親しい友人達で構成されたファミリー・バンド:『バンダ・ノーヴァ』は、1984年に結成されてから彼の死(1994年)まで、約10年間、音楽活動が続けられた。バンダ・ノーヴァはトムとともに、国内のコンサートやTV音楽ショーに出演し、また数多くの外国ツアーに出かけ、NYのカーネギーホールやスイス・モントルーのジャズフェスティヴァル、またパリのオリンピアや日本などでの公演を実現している。
メンバーは、トム・ジョビン(Vo/Pf)を中心に、ダニーロ・カイミ(Fl:ドリヴァウ・カイミの息子)、パウロ・ブラーガ(Dr)、パウロ・ジョビン(Gt:トムの息子)、チアオン・ネット(Ba)、ジャキス・モレンバウム(Chello)が演奏陣。これに加えて、コーラス隊がまた綺麗どころをそろえているが、アナ・ロントラ・ジョビン(トムの妻)、エリザベッチ・ジョビン(娘)、シモーヌ・カイミ(ダニーロの妻)、パウラ・モレンバウム(ジャキスの妻)、マウーシャ・アヂネの5人。身内と友人と友人の妻達で構成された10人のバンドなんて、こんな幸せでゴージャスなバンドは、古今東西初めてで最後かもしれない。

この映画にも、バンダ・ノヴァの演奏曲が7曲納められている。『Two Kites』(1986)、『Bebel』(1986)、『Correnteza』(1992)、『Canta, Canta Mais』(1992)、『Chega De Saudade』(1994)、『So Danço Samba』(1992)、そしてシコ・ブァルキとの共演で『Anos Durados』(1984)。その、ボサノヴァとヴァロックと和声が、渾然として響きあう美しいハーモニーを、ライブ映像とともに私達は聴くことができる。
自宅での練習や多くのツアーを一緒に過ごしたメンバー達は、練習が何時の間にか家族の夜会になったり、パーティが何時の間にか練習になったりして多くの時間を過ごしたという。バンダ・ノーヴァのサウンドの心地よさ、楽器と和声の絶妙な掛け合い、決して上手いとはいえないが、とても味わい深いトムの歌声、軽快で繊細なトムのピアノ演奏...総てが、上質で香り高いワインを飲み干すような酩酊感を我々に与えてくれる。晩年の多くの時間を、心許せる音楽の友達、そして家族達と過ごし、ステージに立ち続けたトムに対して、聴衆は静かに、そして熱烈に歓迎した。こんな幸せは、ミュージシャンにとって最高の贈り物だったと、私は思う。

私の大好きなトム・ジョビンのアルバム『inédito』(イネージト)も、このバンドの歌と演奏によるものだ。このアルバムは、当初トムの60歳を記念して、1987年にブラジルの文化財団の支援で制作され、その後8年間は関係者だけのコレクターズ・アイテムだったものだが、1995年にその23曲がCDとして発売され、市場に登場した。全曲のアレンジは、息子のパウロ・ジョビンとジャキス・モレンバウム、音楽監督と指揮も二人が手がけている。
「このアルバムには、シンコペーション・サンバ、モヂーニャ(17世紀に誕生したブラジル民衆歌謡)、ショーロ、ワルツ、室内楽と、彼の才能が経験し蓄積したきたレパートリー宇宙のほとんど総てのジャンルの音楽が含まれていた」(『三月の水』岩切直樹著より)と言われるように、名実ともに彼の音楽の集大成だ。「しあわせなトム」に、ここでも出会える。


トム・ジョビンと共演した多くのミュージシャン(最近は、アーチストというそうな!)たちの動画も数多く収録されている。『Samba De Uma Nota Só』と 『 Desafinado』(ともに1964)は、ジョアン・ドゥナートと、タバコを吸いながら歌うフランク・シナトラとは、『イパネマの娘』と『コルコヴァード』(ともに1967)を。『三月の雨』をデュエットしたエリス・レジーナとの、絶妙で楽しい掛け合い(1974)、ミューシャとのコラボは『ジェット機のサンバ』(1978)などなど...TV出演のステージからも、ライブやコンサートのポスター画像からも、当時の熱気が伝わってくる。

トム・ジョビンの曲を愛した女性歌手達の歌も素晴らしい。シルヴィア・テリスの『たった一つのサンバ』の伸びやかな歌声(1996)、エリゼッチ・カルドッソの『あなたしではいられない』は、貫禄たっぷりの歌いっ振り(1958:ボサノヴァ誕生の前年!)。ナラ・レオンは、ホベルト・メネスカルのGtで『ヂンヂ』を情感たっぷりに(1988)、メイサの歌は、『あなたのせいで』などなど...

こうなるともう、枚挙にいとまがないが、アメリカのジャズ・ミュージシャン達の歌と演奏にも、ご機嫌なものが次から次へと登場する。オスカー・ピーターソン(Pf:1976)とサラ・ヴォーン(Vo:1972)の『Wave』は、ともにTVショーで。エラ・フィツジェラルド(1963)とスキャットで歌ったサミー・デイビス・ジュニア(1985)の『OFF Key(Desafinado)』は、とても個性的。ジュディ・ガーランドが『How Inssensative(Insensatez)』(1968)を歌えば、エロル・ガーナーは『イパネマの娘』(1970)を。

日本の歌手では、マルシアが『イパネマの娘』(2010)で登場し、小野リサが『Brigas Nunca Mais』(2007)をパウロ(Gt)とダニール・ジョビン(Pf)の伴奏で歌っているのも珍しい。フランス人のピエール・バルーが『おいしい水』をフランス語で歌い(1966)、イタリア人のミーナが『イパネマの娘』をイタリア語で歌い(1968)、と言う位、国際色豊かに多国語で歌われているし、世界中の音楽家から愛されたトム・ジョビンを思い起こすことが出来る。

1995年のTV Glovoによる、トムジョビン・追悼コンサートでは、カエターノ・ヴェローゾ、ミルトン・ナシメント、シコ・ブアルキ、ガウ・コスタ、ジルベルト・ジル、パウリーノ・ダ・ヴィオラ達、ブラジル人ミュージシャンが勢ぞろいして、『Lament No Morro』を合唱した。
作曲者にして作詞家、ピアノ奏者にしてギター奏者、歌手にして編曲者...このマルチ・タレントの音楽家についての映画の最後は、リオのカーニヴァルの山車の上で、『Saudade Do Brasil』にあわせて、白いスーツ姿にストローハットで踊るトム・ジョビンの映像で終わる。
 
とても、全容を紹介することなど出来ないこの映画の一部を、ざっと駆け足でたどったが、とにかく、とても素晴らしく、楽しい映画であることは間違いない。
この映画の他にも、YouTubeでは、『João Gilbert and Tom Jobim(João and Antonio Especial 1992)-TV Glovo』や、『Tom Jobim, Vinicius De Moraes, Toqinho e Mucha...』などの、貴重な映像を見ることが出来るので、興味ある方はチェックしていただきたい。

この動画のアドレスは以下のとおり。
https://www.youtube.com/watch?v=VbrtJZ1_WBo

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