2017年1月12日木曜日

BOSE SoundLink Mini Bluetooth Speaker Ⅱ と『黒いオルフェ』(その2)

 
 
 
 
手のひらに収まる超コンクトサイズ(5,1H×18L×5,9W ㎝)のスピーカーは、バッグに入れて持ち歩くにも便利(670g)、
画像はボ―ズ社の公式HPより。
 
 
何故に、このポータブル・スピーカーとボサノヴァの名曲『黒いオルフェ』のリンクなのか? については、少々説明
 
しなければならない。
 
話は遡るが、私が本格的にボサノヴァの歌(ポルトガル語)とギター演奏を習得しようと思ったきっかけは、ボサノヴァ・
 
アーチストの中村善郎氏(後に我が師匠となる)の弾き語りを、渋谷の教会地下にあるライブハウスで聴いたことだった。
 
忘れもしない2007年夏のことだ。その時、10数曲のボサノヴァ曲のラストで歌い演奏した曲を聴いて、私の頬には思わ
 
ず涙が流れた。師の艶やかなヴォイスと哀愁に満ちたメロディ、そしてGtの情感あふれるコード進行に魅せられてしま
 
った。その曲が『黒いオルフェ』(カーニヴァルの朝)だった。その後、中村師匠に多くのボサノヴァ曲を習い、自分自身
 
でもレパートリーを増やしていく中でも、この曲は常に私のボサノヴァ・サウンドの中心にあり、自身のソロ弾き語り
 
やデュオ・トリオでの共演、バンドライブの中でも必ず歌っている曲となった。言わば今も私の音楽の「ライフワーク」
 
ともいえる曲となっている。(師匠との出会いの経緯はこのブログの『BOOSA NOVA 入門』2008年5月20日に載せて
 
います。)
 
 
『ザ・タペストリー』と言う名の、高校同期生の音楽仲間で作ったバンド(2010年~2014年の4年間活動後解散)の選曲
 
の中で、フルート吹きのシロー(昨年の10月急逝)がこの曲を吹きたい、と言いだした時には、正直言って私は大いに
 
戸惑った。出来れば他の人(ピアニストなど)に伴奏してもらいたい、と思ったが、私のギターの他に伴奏できるメン
 
バーは居なかったので、何とかできる方法はないかと必死で考えた。と言うのも、彼自身フルートを演奏し始めてまだ
 
日が浅く、初めてのボサノヴァ曲『大いなる愛(O Grande Amor)』ートムジョビンとヴィニシウスのラブ・バラードー
 
を1年間かけてやっとものにしたばかりだったからだ。しかも、原曲のメロディライン(1コーラス)を吹き、次の2コー
 
ラス目のインプロビゼーション(アドリブと言ってもいい)を、アドリブ演奏を載せた曲集の譜面で吹いていたから、これ
 
は前曲にも増して大変だ、と頭を抱えた。いろいろ考えた結果、『黒いオルフェ』の原曲(作曲はルイス・ボンファ)を
 
リスペクトしたメロディラインを新たに私が創り、それをインプロビゼーションとして彼に演奏してもらおうと思い、
 
心を込めてフルートのためのソロ演奏譜面を作った。2014年の4月のことだった。
 
 
その譜面を彼に送って、「こんな風に吹いてみたらどうか?」と提案したのだが、彼からは何も返事がなかった。もう
 
あちら側に逝ってしまったから今では確かめようもないのだが、そのメロディラインが難しかったのか? あるいは、
 
他に自分で吹きたいメロディがあったのか? はたまた、人にそのように言われること自体が気に入らなかったのか? ...
 
そしてそのまま、リハスタジオで一度バンドメンバーたちと彼のフルート演奏とのこの曲の音合わせをしたのだが、
 
まだ仕上がりには程遠かった。それで私は、せめてもう少し情感を込めて吹いてくれたら良くなるから! と、この曲の
 
テーマである「愛の悲劇」の成り立ちを、シェークスピアの『ロメオとジュリエット』や、ジュローム・ロビンス
 
の『ウェストサイド・ストーリー』などを例に、リオのカーニヴァルを舞台とした「オルフェとユリシーズ」の物語
 
を紹介したが、その結果は突然に彼がバンドメンバー止める、というものだった。
 
 
解散してしまったバンドの2年以上前の話を今更しても始まらないが、私の手元には彼のために書き下ろしたフルート
 
ソロの未演奏譜面だけが残った。この譜面については、今まで誰にも話してこなかったが、もう時効だと思うので
 
オープンにしてもシローは怒らないと思いここに載せた。今回、「シローを偲ぶ会」をバンドメンバー達でやろうと
 
いう話が持ち上がり、QP村山とヨッシー・ナッケンの3人が幹事となり、1月の10日に9人メンバー(原ちゃんはやむを
 
得ない用事で欠席)が新宿の蔵元酒場に集い、彼の生前の思い出を語り合った。彼の死に際については、タカオちゃん
 
から紹介があり、介護施設への訪問演奏でステージに上がり、フルートを構えたそのまま前に崩れ落ちたということ
 
だった。心臓大動脈解離で即死という、まことに急激でもあり、また好きなフルートを咥えたままあの世に行くという、
 
ミュージシャンとしては幸福な死に様だったことが明かされた。
 
 
 
 
 2014年4月11日作成の、フルート・ソロのためのインプロビゼーション譜面の一部。今回、譜面再生音を
ポーズのポータブル・スピーカーによってメンバー達に聴いてもらうことが出来た。
 
 
偲ぶ会は、トオルちゃんの献杯の音頭から始まり、会が進むに連れて美味しい料理とお酒が入り、久し振りの顔合わ
 
せにメンバー達は大いに談笑し、盛り上がっていった。順次彼への思い出話をするメンバーの中で奇しくも、前日
 
弟を病気で失ったヨッシー(バンジョー弾き)が横に来て酒を酌み交わしながら、何故か今やっているデキシーランド・
 
ジャズのバンド活動の話をし始めた。ひとつの曲を演奏する際の各楽器のセッションの中で、アドリブの「リスペクト」
 
と「カバー」と「コピー」の違いをどうとらえたらいいのだろう? という話だった。
 
私はシローとはバンド活動の際しか交流がなく、今回彼を偲ぶためのどんな話をしようかと思案した結果、彼のために
 
つくった未発表の譜面を音源化して皆に聴いてもらうことで彼を弔おうと思っていたから、『黒いオルフェ』のメロ
 
ディラインが、まさに作曲家ルイス・ボンファをリスペクトしたインプロビゼーションだったので、ヨッシーの話と
 
のあまりに合った符丁に内心びっくりしていた。
 
 
私から、「この会のためのアトラクションを今日は用意してきました。あの世から今夜シローに来てもらい、フル
 
ートを吹いてもらおうというものです。」と言って、用意してきた音源をテーブルの上に乗せたスピーカーで音出し
 
した。曲はもちろん『黒いオルフェ』、2コーラスの中1コーラスはマンドリンソロ(原ちゃん)とピアニカ(hirokoさん)
 
のカウンターメロディ、伴奏をアコースティックギター(TAKA)の共演で。これはその日来れなかった原ちゃんに登場し
 
てもらうためだった。そして、2コーラスはシローのフルートソロとオーボエのカウンターメロディ、そしてアコー
 
デオンの伴奏による共演だった。この共演の音源作成は、①プリントミュージック(作譜ソフト)による3楽器のパート
 
譜作成、②譜面のオーディオファイル化(WAVファイル)、③WAVファイルを一般的なMP3ファイルに転換(変換ソフト
 
Switchによる)、④デジタルレコーダーに収録、➄それを繋いで、BOSE ポータブル・スピーカーで再生音、という
 
少々面倒なPC操作の上で完成させたものだった。
 
 
酒場の別室にクリアなボ―ズサウンドが流れ、メンバー達は静かに聴き入ってくれたが、すっかり出来上がっている
 
彼等と彼女等に、ここに至った経緯とシローのために作った未発表の譜面のことを話すのも億劫になってしまい、
 
シローにフルートを今夜演奏してもらうという設定だけを話した。しかし私の中では、想定のフルート演奏をその夜
 
具現化できたことで、長年の心残りが和らげられ心は満たされたのだった。そして、それが私なりの彼に対する弔い
 
であり、同時にザ・タペストリーと言うバンドへのオマージュ(鎮魂歌)でもあった。これが実現できたのは、今回入手
 
したボ―ズのポータブルスピーカーのお蔭であることに違いはない。このスピーカーがなかったら、この演目は実現
 
できなかったのを思うと、何か天が与えてくれたラッキーチャンスだった気もしている。
 
 
 <この項終わり>
 
 

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