2017年12月2日土曜日

フィギュアスケート2017 GPSファイナル戦を展望する(その2.女子シングル)



゛絶対王者゛と言われた羽生結弦が怪我により戦列を離れたのに呼応するかのように、ここ2シーズンの世界選手権

・欧州選手権・ロシア選手権・GPSファイナルを連破してきた゛絶対女王゛のエフゲニア・メドベデワにも赤信号

が灯った。右足中足骨の疲労骨折(ヒビ)と発表されているが、回復には時間がかかるかもしれない。ファイナル戦欠

場もあり得るだろう。この怪我はいわゆる゛職業病゛とも言われ、フィギュアスケートの選手だけでなく、サッカー

やバスケット・体操などのスポーツ選手達もこの故障に悩まされているようだ。激しい運動に伴い、それだけ足の筋

肉と骨にリスクがかかるのだろう。これで女子シングル戦は一気に混戦状態になってしまった。画像はISU・HPより。



エフゲニア・メドベデワ(ロ/17歳)の今季は、GPSロシア杯優勝(231,21の高得点)・NHK杯優勝(224,39)という立派
なものだが、完璧と言われて来た彼女の今まで見たことのない転倒シーンを観客は見たのだ。FSのジャンプで、最後の
2A(ロシア杯)と冒頭の3F(NHK杯)のジャンプ失敗だった。足の痛みを軽減するためのテーピングも彼女としては珍しい
ことだった。無理をしてファイナル戦に出てきても、その後のロシア選手権・オリンピック・世界選手権をどう戦うつ
もりなのか? やはり休養が必要だと思うが。




アリーナ・ザギトワ(ロ/15歳)は、中国杯とフランス杯を連続優勝してファイナル戦に出場してきた(共に213点)。
身長152㎝の小柄な体躯・若干15歳の彼女は、今年の世界Jr.選手権に優勝し、シニア戦に参戦してきたばかり
だが、クラシックバレエで鍛えた優雅な身のこなしと、両手を挙げてのジャンプ(これは尊敬するメドベデワに
習って、とのこと)を基礎点が1,1倍になる後半に全て持ってくるという構成で、高得点を獲得しているのだ。
コーはメドベデワと同じエテリ・トゥトベリーゼとセルゲイ・デュダコフ。


女子シングルファイナル戦の構図は、若手選手中心に展開されるだろうが、メドベデワに続いてザギトワ(ロ/15歳)

・ソツコワ(ロ/17歳)・樋口新葉(日/16歳)が元気だし実力も付けてきている。そこに、中堅選手のオズモンド(カ/21歳)

と超ベテラン選手のコストナーが加わる。この5選手が、今回のGPS戦で総合得点210点台にひしめき合っているの

だ(ソツコワは208点)。この新・現・旧の世代対決の行方も興味深い。やはりポイントは、5種類の3回転ジャンプ

(3Lz・3F・3Lo・3S・3T)とこれを入れたコンビネーション・ジャンプを、如何に正確にきれいに決めるかが勝敗の

分かれ目だろう。3A(トリプルアクセル)は、長洲未来(米/24歳)とE.トゥクタミシェワ(ロ/20歳)が今回果敢に挑戦し、

長洲未来はNHK杯で成功している。今回のファイナル戦出場選手の中で、3Aを試みる選手は出るのだろうか?




マリア・ソツコワ(ロ/17歳)は、身長173㎝のモデルの様な長身ながら、ダイナミックで優雅な演技が持ち味だ。テー
マ曲はSP「白鳥の湖」、FSはドビュッシーの「月の光」、オーソドックなクラシック音楽だが、演技全体も流れるよう
でミスがほとんどないのが真骨頂だ。今季カナダ杯・フランス杯共に2位、シニア参戦2シーズン目にして頭角を表して
きた。今後、演技内容に高得点を可能にするプログラムを組んで来たら、表彰台の可能性が出てくるかもしれない。




ケイトリン・オズモンド(カ/21歳)は、シニア戦参戦5シーズン目の中堅選手として、国際試合・表彰台の常連となって
きた。何よりもその演技のスピードが半端でなく、ジャンプ・スピン・ステップともに滑らかで速い! ファンの間では
゛爆走娘゛と言われているそうな! 今季カナダ杯優勝・フランス杯3位(ジャンプにミスが出て得点が伸びなかった)、SP
のテーマ曲「エディットピアフ・メロディ」は小粋で楽しく、観客を大いに沸かせた。ジャンプにミスが出なければ、
メドベデワ欠場のファイナル戦を制する可能性大だ。


さて、フィギュアスケートの人気高まりと呼応して、フィギュアスケーターを目指す若い選手が各国で増えて来て

いる。フィギュアスケート大国のロシアでもその傾向は顕著だ。競技人口が増えるということは、選手層の厚みが

出る反面、トップクラスに留まることは困難になってくるし、故障や成績争いなどから休養や引退を余儀なくされ

るケースも出てくる。ロシアの現役女子選手を見てみると、現在アリョーナ・レオノワ(27歳・2012年世界選手権銀

メダル)がシニア戦参戦10シーズン目でトップ。アデリーナ・ソトニコワ(21歳)は、ソチオリンピックで金メダル獲

得後、脚の故障のため競技会を欠場中。エレーナ・ラジオノワは(18歳)は、身長の伸び(10㎝以上)と体重の増加を克

服して今期もロシア杯4位・中国杯3位と頑張っているが、アンナ・ポゴリラヤ(19歳)はケガのため低迷し、ユリア・

リプニツカヤ(19歳・ソチオリンピック団体金メダル)は、拒食症のため現役引退を発表したばかりだ。2015年の世界

選手権優勝者のエリザベート・トゥクタミシェワ(20歳)はその後は低迷し、国際試合の表彰台から遠のいている。

すでにジュニア戦からシニアに参戦してきたザギトワ・ソツコワ・ツルスカヤ(17歳)が国際試合で活躍し始めている。

まことに栄枯盛衰が激しいのだが、10代後半から20代に入る時期に、身長や体重の増加を克服しながら、故障を回避

して競技の第一線で活躍しつづけるのは大変難しいことだと思われる。これは、男子選手も各国選手も同じ課題を抱

えているのだが、20代後半や30代ベテラン選手の元気で華麗な演技を見るにつけても、体調管理や無理のない練習

内容の設定が必要であることを思わざるを得ない。




カロリーナ・コストナー(伊/30歳!)の今季の活躍は大変嬉しい。現役選手ならばすでに競技会から引退している年齢
なのに、益々スケーティングに磨きがかかっているからだ。そこには、コンビネーションも加えたジャンプを難しい
レベルで構成せず、それぞれの完成度と芸術性を高めようとする狙いが見て取れるのだ。ヨーロッパ(オランダやイギ
リスと言われている)で誕生し、やがて世界に広まっていったフィギュアスケートの伝統と芸術性を受け継ぎ体現でき
る選手の一人として彼女への評価は高い。テーマ曲も今季FSではドビュッシー(フランスの作曲家)の『牧神の午後への
前奏曲』だし、昨年まではモーリス・ラベルの『ボレロ』(同じく仏作曲家)を複数シーズンにわたり使用していた。
演技のすべてに渡り、足先から指先まで神経が行き届いているような優雅なパフォーマンスは、シックな衣装と共に
の世界観と一体になった高い滑降技術に支えられている。ロシア杯・NHK杯共に、メドベデワに次ぐ2位だったし、
総合点215,98(ロシア杯)はGPS6戦の中で、メドベデワに次ぐ高得点だ。彼女の実力は侮れない。




高校生選手の゛元気娘゛樋口新葉(日/16歳)の中国杯2位・ロシア杯3位には、正直言ってビックリ! 2015年・2016年
世界Jr.選手権共に3位の実力がようやく開花してきたのか? 身上のスピードあるキレの良い演技と5種類の3回転ジャ
ンプを飛びこなす多彩な技術を駆使して、上位陣に果敢に挑んでほしい。FSテーマ曲の『007スカイホール』は、
小気味よさがあって観客を沸せてくれる。




選手だけでなく、試合場やキスandクライの場で、懐かしい元選手の姿を拝見できるのは楽しい。セラフィマ・サハノ

ヴィッチ(ロ/17歳・アメリカ杯5位)の側には、往年の名選手エフゲニー・プルシェンコ(ロ/35歳・2006年トリノオリ

ンピック金メダル)が、コーチとして助言したり談笑したりする姿があった。また、男子選手のデニス・ヴァシリエフス

(ラト/18歳・NHK杯6位)の横には、ステファン・ランビエール(仏/32歳・2005年/2006年世界選手権優勝)が付いていた。

競技会から離れても、コーチとして選手を育て指導する姿が競技会の場で再び見られるのも、このスポーツの良いと

ころだろう。


今日のISUの公式HPで見ると、男子選手では金博洋が出場できず、ジェイソン・ブラウンが出場することになった。

また、女子選手では、やはりE.メドベデワが出場せず、代わりに宮原知子の出場が決まった。宮原にとってはラッキー

なことである。来週の名古屋でのGPSファイナル戦を楽しんで見ようと思う。


<この項終わり>


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