GPS<注>のアメリカ杯が終わり(11月26日)、ファイナル戦への出場者(シングル戦は男女各6選手)が決まった。今回は
日本のTV中継(朝日)も見たが、専らインターネット動画サイトで各選手の演技を見ることになった。併せて、!SU<注>
のHPに公表されているジャッジスコアの詳細も見ることができた。その結果、各選手の演技内容詳細と得点評価を
確認することも出来た。どのジャンプが回転不足だったのか? あるいは、演技評価の加点・減点はどうだったのか?
その結果が得点合計にどう影響したのか? などを、誰もが見られる(見たい人ならば)システムは、インターネットの
恩恵でもあると思う。フィギュアスケート観戦の楽しみが倍増したような思いだ。画像はすべてISU公式HPより。
▢ネイサン・チェン(米/18歳)の優勝2回は立派(ロシア杯とアメリカ杯)。いつの間にか強力な実力者に成長してきた。
やはり4種類の4回転ジャンプ(Lz/F/S/T)の成功と4Lz+3Tのコンビネーションをきれいに決めて(アメリカ杯/FS)<注>
この演技だけで20,04(基礎点17,90+2,14)獲得は極めて大きい。また、ステップ(ChSq)<注>やスピン(CCoSp4と
FCCoSp4)<注>でもレベル4の加点がつく演技が出来ているのが凄い。ファイナル戦表彰台の第一候補かも知れ
ない。FSのテーマ曲・映画「小さな村のダンサー」の中国風アレンジは、彼のキャラに合っていると思う。
ファイナル戦の男子シングル出場選手を見てみると、昨年まで優勝台を争ってきた有力選手が3人消えてしまった。
羽生結弦(日/22歳)は、NHK杯直前練習中の右足外側靭帯損傷のためこの大会を欠場し戦列から離れてしまった。パト
リックチャン(カ/26歳)は、カナダ杯4位の後NHK杯を欠場し(カナダ選手権に備えるためと報道されている)、ファイ
ナル戦には残れなかった。ハビエル・フェルナンデス(ス/26歳)は、中国杯6位の後フランス杯で巻き返してを優勝した
ものの、ファイナル戦には残れなかった。フランス杯では、SP<注>:107,86という今季GPS戦最高成績をマークし、
完璧な演技を披露しただけに残念ではあるが。3者ともに自国の選手権で調整し、来年3月の世界選手権を目指して
来るものと思うので、それを楽しみとしたい。
▢宇野昌磨(日/19歳)の挑戦し続ける姿勢には好感を抱く人も多いと思う。カナダ杯の優勝(今季最高総合得点の301,10)
・フランス杯2位は、羽生結弦を脅かすたくましい存在になってきたのを覗わせる。難易度の高い演技をプログラ
ムに組み込んできているが、4回転ジャンプは今季4Lo/4Tを成功させているものの、4Fはまだ安定していない。
4Sと4Lzをどこで出してきて成功させられるのかが楽しみだ。ステップとスピンは評価も高く、表現力で観客を
沸せるシーンも多くなっている。ネイサンチェンも難しいプログラムに果敢に挑戦して来ているが、2人の激し
いバトルがファイナル戦では見られるか?! SPのテーマ曲「四季・冬」(A.ヴィバルディ)の演技は好感度が高い。
▢ミハイル・コリヤダ(ロ/22歳)は、右足骨折の故障から復帰して以来、ここ2シーズンの間に急速に力を付けてきた。
今季は、ロシア杯3位・中国杯優勝(SPでは、4Lz/4T/3Aを成功させている)、身体のキレのいい演技はFSテーマ曲
「E.プレスリーメドレー」に乗って会場を沸かせた。表彰台を争う選手がなかなか出てこなかったロシア男子選手
の中で、彼の存在は光っている。トップ争いに食い込むための仮題はジャンプの安定性か?
ファイナル戦の構図は、10代若手の実力者2人(ネイサンチェンと宇野昌磨)に、中堅2人(M.コリヤダと金博洋)が
果敢に挑み、これまでにはとても考えられなかった超ベテラン2人(セルゲイ・ボロノフ30歳とアダムリッポン27歳)
が、「俺たちだってやってやるぜ!!」と頑張っている、という風に見られる。なんだかとても面白い成り行きになって
きた。ボロノフもリッボンも、4Tや4Lzを飛ぶが、プログラム全体はスケーティングの基本を丁寧に表現する姿勢が
強く、ジャンプに片寄っていないのがなかなかいいのだ。それぞれの個性も強く、演技の色合いがはっきりしている。
熟成されたスケーティング技術やテーマ曲に乗った個性的な世界観を見る楽しみもある。世代や年齢のバラエティが
あるのも今回の特徴だと思う。
▢2008年と2009年のロシア選手権優勝以来、国際試合での優勝から遠ざかっていた超ベテランのセルゲイ・ボロゾフ
(ロ/30歳)が、NHK杯優勝・アメリカ杯3位の好成績でファイナル戦に登場して来た。30歳現役選手というのは、フィギュ
アスケート選手の多くはとっくに引退しプロに転向したりしている年齢だが、彼は果敢に4回転ジャンプ(4T/4TのCo)に
もチャレンジする。コリオグラファー(振付師)は、26歳の現役選手にして振付師のミーシャ・ジー(SP・FS共に)。ス
ケーティング技術を駆使した滑らかな滑りは、若手選手にはない円熟した魅力を醸し出して観客を魅了する。
▢アダムリッポン(米/27歳)も超ベテラン選手の域だ。2007年と2008年の世界Jr.選手権を連覇した後、故障と復帰を繰り
返し、今期はNHK杯・アメリカ杯共に2位でファイナル戦に登場してきた。私は彼のFS演技が好きで、今年のGPS
戦でも秀逸だと思う。「コスチューム and 振り付け大賞」を送りたいくらいだ(勝手に私が設定した賞!?)。振付師は
全米スウィングダンス選手権の優勝者でもあるベンジー・シューウィマー。テーマ曲『フラミンゴの飛来』の世界
観を、手の動き・首をかしげる動きなどで鳥の仕草を実にうまく表現していた。彼も4回転ジャンパーの道ではなく、
スケートの滑走技術をより正確に・華麗に表現するタイプ。ファイナル戦には登場できなかったが、ジェイソン・
ブラウン、ミーシャ・ジーと共に、゛表現派゛として活躍し続けて欲しいものだ。゛ぶっ跳び屋(ジャンプ派)゛ばか
りでは面白みがないではないか、と思うのだが。
さて、男子ファイナル戦勝者は、゛4回転時代゛の名の通り、4Lz・4F・4Lo・4S・4Tジャンプとコンビネーション
を、如何に正確にかつきれいに決められるかが決め手だろう。しかし、ここにはリスクもあるから、3回転ジャンプ
とスピン・ステップの総合表現で食い込むケースも出てくるかもしれない。いずれにしても勝者は総合得点で300点
を超える熾烈な戦いとなるだろう。もう一つ興味深いのは、2015年と2016年のGPSファイナル戦と世界選手権を1・2
フィニッシュした羽生結弦とJ.フェルナンデスのように、同じコーチ(ブライアン・オーサー)の指導で表彰台に立った
例が今回もあり得るのか? ということだ。ネイサン・チェンとアダムリッポンのアメリカ勢は、共にコーチはラファ
エル・アルトゥニアン。彼の指導を受けた2人が表彰台に上がることがあれば、これはコーチ冥利に尽きるものだ
と思う。
▢中国杯2位・アメリカ杯4位で食い込み出場を果たした金博洋(Boyang Jin/中/20歳)、多彩な4回転ジャンプは今回
ミスかあったり出来栄え今一だったが、2016年・2017年世界選手権共に3位の実力者だ。ジャンプを修正して、如何
に巻き返してくるか? が見ものだ。FSのテーマ曲「スターウォーズ」に乗ったきびきびした演技は、彼らしくて
良いと思う。
<注>ジャンプの種類:A-アクセル・Lz-ルッツ・F-フリップ・S-サルコウ・Lo-ループ・T-トゥループ
ISU:International Skating Union 国際スケート連盟
GPS:グランプリ・シリーズ、ISUが主催するフィギュアスケートの国際試合で、毎年10月~11月の6週間にわたりロシア
・カナダ・中国・日本・フランス・アメリカの主要都市で開催され、12月の最終戦に より出場6選手で勝者が争われる。
SP:ショートプログラム、2分40秒位の演技 FS:フリースタイル、4分位の演技。
ChSq:コレオシ―クェンス、ステップシーンの連続演技
CCoSp:チェンジフット・コンビネーションスピン(右・左足の足替えスピン)
FCCoSp:フライング・チェンジフット・コンビネーションスピン(飛び上がってからの 〃)
<この項つづく>
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