2019年8月31日土曜日

MY和竿を巡る渓流釣りの記憶(その3.竿かづと尺山女魚)




「竿かづ山女魚竿 4.5m 6本繋 280g」石突は鉛製 替え穂付き、ラベルに<㈱日東釣竿製作所>と表記在り。しっかり
とした先調子で、゛剛腕゛とも言うべき堅調子だ。この竿では山女魚も釣ったが、岩魚釣りがもっぱらで、かかった
獲物をエイヤっと抜き上げることが多かった。かなりハードな使いっぷりにも良く応えてくれた。



甲信越の渓流のみならず、近郊の多摩川・秋川にも良く出かけた。当時八王子に住んでいた私は、夜明け前(3時頃)に

起きて車を運転し釣り場には夜明け時に到着。すぐ支度して川に入り、3時間程釣りを楽しんでから車に戻り、その

まま運転して帰宅。ゆっくりとしたブランチをとる、というようなお気楽釣りだった。まだコンビニもなく、お握り

やサンドイッチなどを簡単に買えるような時代ではなかったので、飲み物と果物だけ持参という簡単な用意しかでき

なかった。それでも、きれいな水とオゾンに満ちた渓流環境に身を置くことがとても楽しかった。




「竿かづ」の角銘、やや角丸だ。



この竿での一番の思い出は、北秋川で尺ヤマメを釣り上げた時のことだ。秋の台風がもたらした大雨が止んで3日

後、何時もは小ヤマメを釣り上げることの多いこの川も、「雨後の増水」の濁りもやや取れてきただろうと、期待

しながら出かけた釣行だった。上流域の大淵に掛かった吊り橋を渡り、渕の流れが淀んで瀬に流れ出す前のゆるや

かなポイントだった。採取した餌の川虫をそっと流すと、2投目にふいに目印が止まり、すかさず合わせると反転し

た魚体が水面をまるでイルカのショーのように立ち泳ぎして水面を走り回った。「デカイっ!!」とつぶやきながら、

竿を立てて慎重に瀬尻に魚体を寄せ、網に取り込んで見たのは尺を超える大山女魚だった。スケールで測った37㎝

の山女魚は、後にも先にも達成できなかった私自身のレコードだった。殺生をした最低限の魚体だけ持ち帰るよう

になっていた私は、精悍な顔つきの雄山女魚をそっとリリースした後、思わずため息が出た。「今後こんな魚体に

再び会えるのだろうか?」という予感が頭を過ぎった。北秋川も南秋川も随分と通ったが、そのうち首都圏から近い

こともあり釣り人も多くなって、なかなかいい釣りができなくなる頃には訪れることも無くなってしまった。



私の前期渓流釣りの竿収めとなったのは、1983年秋の金峰山川(千曲川最上流の支流)だった。渓谷というよりは山里

を流れるゆるやかな川相で、釣り支度をして川沿いを歩き始めたら、とたんに2匹のイワナが足音に驚いて対岸の岩の

底に逃げ込むのを見た。「これは居るぞ!」と思いながら、足音に気を配りながら上流につり上がっていったのだが、

さっぱり当たりがなかった。なだらかな渕から流れ出したザラ瀬に餌の川虫を流してみたら、ふいに目印が止まり、

次の瞬間下流に大きな魚体が走った。竿かづの竿を伝わってくる手応えもずっしりしていて、かなりの大物だと思わ

れた。瀬のあちこちを竿を立てて慎重に泳がせ、体力の弱るのを待って採り込んで見ると、尺を超える大岩魚だった。


ちょっと安心して撮影用のカメラを取り出そうとしたら、突然大岩魚が下流に向かって逆走したのだ。上流に竿を

向けていた私はすぐに対応できなかった。バキっ という音とともに竿先の一番穂が折れ、魚体と竿・仕掛けが下流

にゆっくりと流れていった。幸いなことにザラ瀬が長く続いていたので、竿先と大岩魚を両方回収し、魚体はリリ

ースした。この時折られた一番穂が二番穂にめり込んだまま、その後この竿を使うことも無くなってしまった。




当時使っていた餌箱各種。桐製餌箱は中底に細かい金網が敷いてあり通気性が良く、水苔や刻んだ紙を入れておく
川虫の持ちが良い(左・銘なし、最近改良して胸下げ用のストラップを付けた)。スブルース材で手作りした餌箱は、
蓋つきポケット2つ・真ん中は魚籠に釣った入れられるように空けてある(右)。「静とら」の銘入り竹編餌箱は
ベルト通し用、中底に木綿二つ折りの小布巾湿らせて入れ餌を良くした(上)。



河川環境が激変し、渓流の自然環境が壊れていき、コンクリート造りの箱川がどんどん増えていったこともあるけれ

ども、竿かづの竹竿を折られてしまったことで、何か心が折れてしまったような気持ちになり、MY和竿を使っての

渓流釣りを封印する結果となった。当時経営していた会社の事業環境も厳しくなり、ゆっくりと渓流釣りを楽しむよ

うな時間も無くなってきたという事情もあった。ただ、再び渓流の岸部に立つことを得て、この竿を専門の竿師に

直してもらい、もう一度使ってみたいという気持ちになっている。伝統工芸品としての骨董的価値よりも、竿本来の

使命を全うさせてあげたい、という思いだ。今年のシーズンオフに、この竿の修理ができれば上々というものだ。




例によって当時の画像がないので、ネットで見つけたものを出展明記でお借りします。私の釣り上げたのは、鼻曲り
の精悍なオスだったが。上州屋白河店 ショップニュース「鬼怒川の大ヤマメ、見事な尺上」より。


<この項つづく>


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