2020年2月13日木曜日

羽生の「総合美」が勝つか? チェンの「跳躍」が勝つか? (2020世界選手権を予想する その1.男子シングル)




ネイサン・チェンの強みは、4種類の4回転ジャンプを完璧にこなす「跳躍力」だが、スピンもステップも高度な演技
に磨きをかけて来た。今は上り調子の20歳、再び羽生との対決を制すことが出来るのか? 画像はISUのHPより。



ISU(国際スケート連盟)主催のフィギュア・スケート世界選手権が、3月18~23日までカナダ・モントリオールで

開催される。この大会が今シーズン(2019~2020)を締めくくる最後の国際試合となる。GPS(グランプリ・シリ

ーズ7戦)と、各国選手権及び欧州選手権・4大陸選手権を経て、出場選手もほぼ決まってきた。各選手のこれらの

国際試合での戦績と現在の実力レベルを見て、世界選手権の表彰台予想をしてみようという、フィギュアスケー

ト1ファンである私の個人的な見解であることをお断りしておく。


ネイサン・チェン(米20歳)の今シーズン最高演技は、GPファイナルだった。SP(ショートプログラム)・FS(フリ

ースタイル)合わせて4種類7本の4回転ジャンプと2本の3A(トリプル・アクセル)をコンビネーションも入れて跳

び、他の3回転ジャンプと合わせて計10本のジャンプをすべて成功させた。GOE(出来栄え点)もすべて加点が付く

もので、助走・空中姿勢・着地姿勢も申し分なく、ほぼ完ぺきだった。今まで課題だったスピンやステップも、

テーマ曲の映画「ロケットマン」のポップなサウンドに乗って、とてもきびきびとしてリズムカルだった。FSの

PCS(演技構成点)もすべて9点台計95.78は、単なる4回転ジャンパーから総合的な演技力を備えたスケーターへの

成長を示すものだ。マークしたSP+FSの合計点335.30は、歴代の最高得点だった。この様な演技が再び実現で

きれば、N.チェンが世界選手権優勝の最右翼候補と思われる。




25歳の羽生結弦は、何度もの負傷を乗り越えてきたが、やはり体力のピークは過ぎているのではないか? そこを
精神力と飽くなき鍛錬で乗り越えてきてはいるが、世界選手権に絞った調整が重要なテーマだ。替えたテーマ曲
「SEIMEI」(4:30→4:00)でのスムースな演技も、もう一度精査することが必要だ。



片や、羽生結弦(日25歳)だが、全日本選手権では連戦の疲れからかFSでのジャンプが決まらず、宇野昌磨に優勝

を譲り体力面での不安を残した。羽生の今シーズン最高演技はGPスケートカナダだった。SP・FS合せて3種類6本

の4回転ジャンプと、3本の3Aをコンビネーションも入れて跳び、他の3回転ジャンプと合わせて計10本のジャン

プを成功させた(冒頭の4LoループのみGOE-)。PCSはすべて9.5以上で計96.40の高得点。SP+FSの合計点は

322.59、再び強い羽生が帰ってきたとファンを喜ばせた。N.チェンにとって羽生が尊敬すべきアスリートとして、

自身の演技をより高める存在として捕らえられるように、羽生にとっても゛王者に土を付けた゛チェンの存在は、

新たなレベルで挑戦しうる対象として闘志を燃やす存在となった。

四大陸選手権直前でのテーマ曲変更(ショパンの「バラード1番」と「SEMEI」)、より高度なプログラム難度への

変更、演技全体のスムーズな流れ(特にジャンプを飛ぶタイミングと着地後の姿勢)に対するこだわりなど、また

美しい衣装での雰囲気造りも加えて、フィギュア・スケートの総合的表現(滑走技術・テーマ音楽世界の表現・各

演技をつなぐ細部への追及)を目指す姿勢は、羽生ほどの高度のレベル実現しているスケーターは他にはいないだ

ろう。

今シーズンのSP最高得点110.38(世界最高得点)を達成した4大陸選手権では、羽生は完ぺきだった。残念ながら

FSではジャンプの失敗が3つ出て合計299.42で終わったが、もしこれがすべて成功していたら320点台の高得点

になったと推測される。チェンと羽生がいいコンディションで戦ったら、互角の勝負となるだろう。チェンは高

度な「跳躍」に磨きをかけ、羽生は「総合美」の表現を目指してプログラムを準備してくるだろう。大技に挑戦

してくる可能性もある。2つのオリンピック金メダルを獲得し、ISUのすべての国際試合を制覇して「スーパース

ラム」を達成した彼にとって、フィギュア・スケーターとしての矜持は、自分の限界に飽くなき挑戦し続ける姿

勢にあると思われるのだ。希代なるアスリートであるし、上り調子のチェンとの2人対戦はとても楽しみである。





ジェイソン・ブラウン(米24歳)の芸術的演技は、他の追従を許さない。゛世界で最も美しいスケーター゛の称号に
恥じないだろう。四大陸選手権で羽生に次いで銀メダル獲得も、チーム・ブライアンに入ってジャンプ演技を向上
させた成果だった。3Aが安定してきたし、4T(トゥループ)にも挑戦している(成功に今一歩)。シニア男子のベテ
ランたちの活躍は、10代半ばの女子選手のジャンプに席圏されている女子シニアの世界に較べて、その滑走技術の
成熟度で見応えがあって観客を魅了するのだ。




コーチなしのGPシリーズ戦で絶不調だった宇野昌磨(日)も、新しいコーチ(ブライアン・シュベール)を得て演技
に力が戻り、再び表彰台を狙える存在となっている。全日本選手権で、「ゆづくん」に勝ったことも今後の大き
なモチベーションとなるだろう。4大陸選手権を回避して世界選手権に絞った調整は果たして吉と出るか?



欧州選手権では、ドミトリー・アリエフ(ロ20歳)とアルトゥール・ダニエリアン(ロ16歳)が表彰台に上り世界
選手権への出場を決めた。D.アリエフの270点台得点で表彰台は可能だろうか? 3位はモリス・クビテラシビリ
(Geo24歳)



世界選手権の前哨戦をざっと見てみると、今大会の男子シングルでは日本・アメリカの有力選手(各3選手)に分が

あり、ロシア2選手・カナダ1選手(ナム・グエン)・フランス1選手(ケビン・エイモスー4大陸では不振だったが巻き

返しがあるか?)・韓国1選手・他国選手たちのレベルでは、表彰台争いは難しかろうと思われる。勢い興味の中心

は、チェンと羽生のトップ争いと予想されるが、思わぬ伏兵がのし上がってくることもあり得る。j.ブラウン・宇野

昌磨の奮起も期待したいし、ロシア2人の踏ん張りも大会を盛り上げてくれる要素だ。「4回転時代」の成熟度を、

各選手の演技で確認できることも大いなる興味だ。そして、羽生結弦の魂を演技を、再び見られることも無上

楽しみとしたい。


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