2020年9月23日水曜日

水門を閉める判断は、最終的に人間がするものだ! (台風19号多摩川氾濫 その11最終回)



「令和元年東日本台風に伴う 浸水被害への市の取り組みに関する説明会」(令和2年9月19日 狛江エコルマ
ホールにて開催)での市側出席者 画像はTOKYO WEBより



遅れに遅れた浸水被害対策の最終報告書に基づき、狛江市の説明会が開催された。会場のエコルマホールには、応

募によって選ばれた300人(実際は定員の7割程度)の市民が集まって、市側の説明を聞き、その後の質疑応答があっ

た。予定の10:30~12:00の1時間半を大幅にオーバーし、終了は13:30だった。それほどに、質問した市民の大

半が市側担当者の説明に納得できない結果だった。

詳細は省かせていただくが一番の問題は、両樋管(多摩川に通じる六郷排水樋管と猪方排水樋管)とも、石原水位が6

mに達したとき、水門を開いたまま職員を退避させてしまったことだ。この結果、大増水した多摩川の濁流が両樋

管を通じて逆流し、狛江市だけでも448世帯の住宅に浸水被害が発生した。今回の最終報告には触れてなかったが、

六郷樋管の逆流により隣接する調布市の246世帯の住宅にも、浸水被害が発生しているから、狛江市の責任は重大だ

った。


浸水被害対策最終報告に記載された「排水樋管ゲートの操作手順の見直し」(76ページ)、


この水門開閉の可否については、出席市民からも質問が相次ぎ、「開門したままの放置は、結果として被害を拡大

させた。判断ミスだったことを認めるべきだ!」、「樋門管理の一番重要な点は、大増水時には水門を閉じで多摩川か

らの逆流を阻止し、堤防としての機能を果たすことなのに、なぜそれをしなかったのだ!」などの指摘と責任追及が

つづいた。

市側担当者(清水環境部長と市ノ瀬下水道課長)からの応答は、「設定されていた操作手順に基づき行ったもので、

やむを得なかった。」、「ただし、水門を開いたままにしたことで、被害を大きくしてしまったことは反省してい

る。今後の操作手順を見直すことで対応したい。」だった。見直し前の操作手順を見ると、「水位3m以上になった

ら、樋管の開閉について検討する。」と書かれているだけで、水門閉鎖の具体的な判断基準は何も定められていな

い。「操作基準に基づき行ったもので、やむを得なかった。」(最終報告書にも同様な記載)、こういう応答は事態を

うやむやにする典型と見た。続いていた降雨による内水氾濫と多摩川増水による逆流かの判断に迷って、結局水門

を開けたまま放置した結果となった。自らの責任を認めれば、被災住民からの損害賠償が相次ぐことを恐れての姑息

な手段にしか見えないと思うのは、私だけではあるまい。


出席者の多くの市民が、水門を閉じずに被害拡大を招いたことに対する市側担当者の事実認識(判断ミス)と、それを

踏まえた今後のポリシー(方針)とアクション(行動規範)を聞けるかとの思いは、残念ながら叶わなかった。質問者の

お一人が、世田谷区の水門管理について言及され、大事な問題なので自ら世田谷区担当者に会って話を聞いてきた、

と話された。私自身も後で世田谷区の報告書を確認してみたが、昨年の台風19号の当日(10月12日)、世田谷区の管

理する樋門5ヶ所のうち、同夜19時30分頃(狛江市担当職員が水門を開けたまま退避した時間)、4ヶ所は水門閉鎖

を行っている。ただし、残りの1ヶ所(等々力排水樋門)だけは、付近の道路冠水や強風のため閉めることが出来なか

った。世田谷区担当者は、「多摩川からの逆流防止のため水門を閉めたことにより、内水氾濫は起こったが、水門を

開けていたらその数倍の被害が発生したと考えられる。水門閉鎖は正しい処置だった! と今でも胸を葉って言える。」

と返答されたという。さもありなん!!


「台風19号に伴う浸水被害検証委員会 第3回」(令和2年7月16日 世田谷区)6ページより。管轄排水樋門の開閉

状況がつぶさに記されている。


 同じ質問者が、狛江市の両責任者に「水門を開けたままにして職員を待避させた判断は、今でも正しかったと胸を

張って言えるのか?」との問いかけに対し、両責任者は下を向いたまま明確な返答はできなかった。


最終報告書には、種々のシュミレーションも載せられているが、いずれも「今回の処置はやむを得なかった」とい

う方針を裏付けるためのデータに過ぎない。操作手順の見直し、観測機器の設置、排水樋管ゲートの操作電動化・

遠隔化、可搬式排水ポンプの配備など、次に起こるべき多摩川からの浸水被害に対する対策は強化されてはいるが、

つきるところ多摩川大増水時に水門を閉めて、浸水被害を最小限に抑える判断は、最終的に人間がするものだ。今

回の説明会では、市側責任者達のこの問題に対する真摯な心構えと絶対に浸水被害を抑えるのだという気概は何も

感じられなかった。「やむを得なかった。」というだけの事実認識で、今後起こりうる災害への備えは出来るのだ

ろうか? 同じ治水管理者としての判断力と実施能力において、世田谷区管理者とは雲泥の差があると感じた。水門閉

鎖の判断を躊躇し、結果として住民等に多大な被害を被らせた責任は重い。人的損害がなかったことが唯一の救い

だった。近い将来に起こるべき多摩川増水による逆流発生時に、再び同じ間違いを起こさぬことを祈るばかりであ

る。その時最終的に水門閉鎖を判断するのは、治水責任者である人間だから。


昨年10月の台風19号による浸水被害発生以来、11回に渡って連載してきたこの問題も、今回を持ってひと

まず幕引きにしたいと思う。多くの方がこの問題について興味を持ち、アクセスしお読みいただいたことに感謝す

ものです。


【添付資料】

令和元年東日本台風に伴う浸水被害対策 最終報告(令和2年9月 東京都狛江市)

令和元年東日本台風に伴う浸水被害対策 最終報告 [18756KB pdfファイル] 

台風19号に伴う浸水被害検証委員会(第3回)資料(令和2年7月16日 世田谷区)

PDFファイルを開きます資料2 説明資料


<この項終了>


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