2008年4月13日日曜日

妖精ルリタテハ

photo by TAKA

作家北杜夫に係わるのをライフワークとしているMIさんの案内で、はるばる日光まで出かけて「どくとるマンボウ昆虫展」を見てきた。マロニエ昆虫館の昆虫好き県職員N氏が企画し、日本昆虫協会が協力した珍しい昆虫展であったが、会場の緑の相談所展示ホールはダイヤ川の側にある自然に囲まれた立派な建物で、辺りには桜が咲き水仙や三椏が咲き乱れる春の景色が拡がっていた。
「どくとるマンボウ昆虫記」に登場する185種の昆虫の内183種を揃えるのに、北杜夫氏のコレクションが約半分(旧制松本高校時代に集めたものから出品)、助っ人のコレクター数名からが半分、かくして蜂・トンボ・蝶、セミ・バッタ・カブトムシなど、そうそうたる主役が出揃っていた。中には゛生きている宝石゛と言われるモルフォチョウや30cmもあるナナフシなど、貴重な標本も交じっていた。
信州善光寺の山裾町で少年時代を過ごした私は、裏山のゴウロ山(採石場があり石がごろごろ転がっていた)や朝日山、その間を流れる裾花川(戸隠鬼無里に水源を発す)で、釣りと昆虫採集に精を出し川魚と虫たちに遊んでもらって、四季を過ごした。
蝶の中でも、タテハチョウ族が格別に好きだった。赤タテハ・黄縁タテハ・孔雀タテハ、一文字チョウ・コヒオドシ・コムラサキ、そしてあのルリタテハ... これらのスピード狂のタテハ族は、スーッと飛んできて岩の上に止まり、2~3度翅を開閉すると電光石火、空に舞い上がりどこかへ消えてしまう。「積乱雲のわきたつ空、イワツバメのとびかう岩峰、雪渓の溶けたあとに咲き乱れる数限りない花々、そうしたものを背景に、彼女らは地上に遺された最後の妖精のごとくかるやかに風とたわむれる。」(~昆虫記・高山の蝶より)
標本の中にルリタテハを見つけた私の心臓は一瞬激しく鼓動し、そしてゆるゆると少年の日の記憶に戻って行った。高原のさらっと乾いた空気、昼下がり太陽の輝き、響きわたるセミの声、木々を渡ってくる涼しい風... ビロードのような漆黒の翅にルリ色の線と白点が二つ刻まれた美しい姿体...
゛BOSSA BALADA゛と呼んでいるオリジナル曲の2番目に、「シマフクロウとルリタテハ」という曲を作った。その時記憶のみで描いたルリタテハの実物標本を、ここで見ることが出来たのも何かの巡り会わせだろうか?帰路の電車の中、「~昆虫記」を読みながら、次から次へと沸き起こってくるチョウたちの姿に、記憶の中の濃密な至福の時間を重ね合わせて、小旅行は終着駅に向かっていった。

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