2014年11月5日水曜日

北斎 ボストン美術館・浮世絵名品展を見て(その1)




「異才、極彩、北斎」のキャッチ・フレーズがついた今回の浮世絵名品展のチケット(図柄は、お馴
染みの『富嶽三十六景 神奈川沖浪裏』)。タイトルに違わず、素晴らしい作品の数々に出会えた。
画像は全て展覧会のHPからのものです。


『富嶽三十六景』でお馴染みの、葛飾北斎の浮世絵版画をメインとする絵画展ではあるが、そのすべての

出品作がボストン美術館所蔵のものによるという稀有の展覧会を、上野の森美術館で見ることができた。

浮世絵版画のファンである私は、時折この種の専門美術館や展覧会を覗くが、今回の142作品に出逢えた

のは、とても幸せだった。ボストンへ行って見ることが出来るものもあるだろうが、その多くは色彩の退化や

紙質の劣化を防ぐために、所蔵室奥に保管されているものがほとんどなので、千歳一遇の機会とはこのこと

だと思った。



 ▢諸国瀧廻り全8作品中の『下野黒髪山きりふりの滝』大判錦絵(T53㎝×Y39㎝)
滝を流れ落ちる水の線描と白から群青色への濃淡、滝つぼに飛び散るしぶきの点描、周囲の木々
の緑系色と岩肌の茶系色のコントラスト、見上げるまた見下ろす人々の姿、右上タイトルの配置..
すべてが小サイズの宇宙に超微細で描かれた第一級のグラフィック・アートだ。


同じく諸国瀧廻り中の『木曽路ノ奥阿弥陀ヶ瀧』大判錦絵
このシリーズ作品は、1833(天保4)年頃作と言われるから、北斎73歳のものだ ! なんだ、なんだぁ~ !
70を超えた老人(今にして言えば)が、こんな素晴らしい絵を描いていたとは ! 滝上の池に溜まり落
ちる寸前の水姿は波紋を揺らすがごとき円形、流れ落ちる線状の水は、白から群青へのグラデー
ション、平面的にデザイン化された迫力満点の水の流れが美しい。左の岩の上、敷物に座って
゛瀧見で一杯゛やっている見物人たちがユーモラス。 大自然の水と緑の色彩がとてもきれいだった。

ここに載せた画像は、HPの画像をもとに、会場で見た原画の印象にできる限り近づけるために
画質調整を施してありますが、やはり原画の色には届かない。(Arranged by TAKA)。


土曜日の上野公園は小雨がぱらついていた。お誘いした絵友のHIさんと共に10時半頃会場の上野の森

美術館に着くと、チケット売り場には人が並んでいた。会場に入ると、人の列が作品の前にたむろし、ゆっくり

としか動かなかった。何時もは平日の空いた時間帯にくるのだが、今回は久し振りに混んだ会場での絵画

鑑賞となった。やはり、北斎の浮世絵人気は高く、ファンも老若男女・国籍を問わず多いのを改めて確認

した。それから約2時間、表現の超細かい作品にへばりつく様にして見続けたが、見終わってかなり目が

疲れた(腰も同様だった!)。しかし、作品の保存状態は極めてよく、刷り上がったばかりのような極彩色の

版画を見ることが出来たのは、本当に嬉しかった。浮世絵版画の鑑賞としては、今までになかった感動で

すらあった。



『富嶽三十六景 凱風快晴』 横大判錦絵、何度か見ている有名作品だが、実に色彩が鮮やかだっ
た。当時、摺師達に流行りはじめた「ベロ藍」が快晴の空色に使われている。その藍色と富士山の
赤色の対比が劇的に素晴らしい。棚引く雲の線描とふもとの森の点描も、単純化されたグラフィッ
ク・アートの極限的な表現に高まっている。下絵師・彫師・摺師の職人技が、当時の世界でも第一
級だったことを思わせてくれる作品だ。



『富嶽三十六景 本所立川』 横大判錦絵、左の縦横に組み上げられた切り木も、右の立て掛けら
れた長い柱も非現実的に強調されているが、木場の湾と家並みの向うに見える富士山の姿がきれ
いだ。掛け声をかけて切り木を放り投げ・受け取る職人の仕草も、また角柱を鋸で弾く職人の仕草
も、威勢のいい声が聞こえてくるような詩情に溢れた作品だ。


今回、『富嶽三十六景』のシリーズでは、21作品(全46図中)が出品されていたが、制作は天保2年(1831年)

と言われている。北斎はその年なんと71歳である ! 会場様の混雑ぶりから先に2階会場を見て回った

ため、このシリーズは最後にさっと見ることになった。というのも、『諸国瀧廻り』シリーズや『花鳥図』シリーズ、

そして『百物語』シリーズなど、素晴らしい作品群を堪能した後だったので、やや疲れていたかもしれない。

でも、保存状態の良い極彩色の版画を見ることができたのは、ほんとに素晴らしかった。

<この項つづく>