2016年4月6日水曜日

フィギュアスケート世界選手権2016より(その1)



女子シングル表彰台は、エフゲニア・メドベージェワ(金・ロ)、アシュリー・ワグナー(銀・米)、アンナ・ポゴリラヤ(銅・ロ)
の3選手だった。6位までの入賞者も、ロシア3選手・アメリカ2選手・日本1選手と、圧倒的にロシア勢が強かった。
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アメリカ・ボストンで開催された今年のフィギュアスケート世界選手権(2016.3/28~4/3)は、今シーズンのフィナーレを飾る

に相応しい見応えのある大会となった。特に女子シングルの戦いは、ハイレベルの競技が繰り広げられ、上位選手はほぼ

ノーミスというスリリングな結果となった。SP(ショート・プログラム)の上位6選手は全員70点台の成績だったし、フリー・

スケーティング(FS)でも、同じ6選手が138点以上(グレイシー・ゴールドは134点)、合計得点でもその6選手が210点以上

(E.ラジオノワは209点)という、まことに素晴らしい競技を楽しめた大会だった。




金メダルを獲得してウィニング・ラン(ウィニング・スケート?)で観客に応えるE.メドベージェワ(ロ・17歳)


優勝したメドベージェワの演技は、とても安定していた。SPもFSもジャンプはノーミス、ステップもスピンも演技にメリハリが

あり、『白鳥の調べ』(SP)・『ヴォリスとエドワード』(FS)のテーマ曲(共に映画音楽)の世界観をよく表現していた。やはり、

何といっても彼女のジャンプは、フィギュア新時代を象徴するような゛手挙げジャンプ゛がほとんどだった。「出来るだけ多くの

ジャンプを、できるだけ完成度高く飛ぶ」ことに採点の重視が置かれた得点ルールの中では、難度の高いジャンプ(手挙げ

やコンビネーション)を成功させることは高得点に繋がるということを、コーチとともに作戦を立てて競技に臨んでいることが

解るのだ。フィギュアスケートのジャンプは、6種類あって(アクセル/A・ルッツ/R・ループ/L・サルコウ/S・トゥループ/T

・フリップ/F)、それぞれ、1/2回転多く廻るか、前向きか後ろ向きかで踏み切るか、右・左足の外エッヂか内エッヂかで踏み

切るか、右か左足の先端をついて踏み切るか等で分れるのだが、私自身もTV中継で見ていても即時に判断できない場合が

多い。しかし、メドべージェワの場合、6種類全てのジャンプを3回転+3回転(+1 or 2回転、ルッツのみ単独)のコンビネー

ションで飛んでいた! しかも完璧に! 恐るべき17歳だ。これでは、3A(トリプルアクセル)を一本勝負に 10年を超えるシニア

戦を以前の採点基準で争ってきた浅田真央(日・7位25歳)も敵わないだろう。日本期待の宮原知子(5位)にしても、滑走技術

完成度は高まっているが、まだ3Aは飛べてないし、3+3回転のジャンプは組み込まれていないのだ(3回転+2回転のみ)。

まったく女子のフィギュアスケートも「異次元の世界」(羽生結弦の演技を評しての)になっちまったのだ! ジュニア時代から

の高難度演技に挑戦する選手の多くは、故障を抱えているか、あるいは故障のため選手生命を絶たれてしまうか、身体に

負担の多い高難度ジャンプはリスクも大きいのだけれど、メドベージェワが故障もなく選手生活を送れれば、これからも

大いに活躍するだろう。日本のアニメが好きな彼女が、勝利インタビューの折にセーラームーンの歌詞を日本語で唱って

いたのがとても印象的だった。



SPのノーミス演技を終えて、会心の出来具合をリングに座り込んで喜ぶアシュリー・ワグナー(米・24歳)


大事な局面でジャンプミスが出て、なかなか表彰台に上れなかったワグナーが、今回はやってくれました。スピンやステップ

も良かったが、ジャンプは3A以外のジャンプをすべてきれいに決めた。とくに、3F+3Tと3R+3Tの3回転コンビネーション

の出来が抜群だった。私はこの゛左回りジャンパー゛が好きで、スピードに乗ったキレのいい演技を好ましく思ってきた。全身

バネの様な体躯と、表情や身体から醸し出す表現力も巧みで、『Hip Hop Chin Chin』(SP)と『ムーラン・ルージュ』(FS)

のテーマ曲に乗ったきびきびとした演技は、観客を大いに魅了したのだった。世代が若返り、気がつけばシニア戦10年

以上のベテランは浅田真央と彼女の二人だけ。でも、ようやく大きなメダルを獲得したのだから、これからも氷上でもう一花

咲かせてほしい。


FSの演技を終えて喜びを爆発させるアンナ・ポゴリラヤ(ロ・17歳)、ジャンプの安定度が増して好成績に
つながった。テーマ曲『シェヘラザード』は、「千一夜物語」の語り子になる王妃の名前、世界観を表現
する衣装とアクセサリーでも、「コスチューム大賞」を贈りたい(TAKAの勝手です!)。


GPS(グランプリ・シリーズ)の低迷から、誰がポゴリラヤの表彰台を予想しただろうか? かく言う私もノーマークだった。やはり

ジャンプの成功が大きいと思う。今まで長身(167㎝)を生かし切れず、飛びあがった後着地で転倒するシーンが多かったの

だが、今シーズンの最後はそれがなかった。彼女も3A以外の全てのジャンプを成功させた。そうなると長身のダイナミックな

体躯は生きてくる。実際のところ『シェヘラザード』(バレエ音楽より・FS)の東洋的衣装と振り付けに乗った演技は迫力があった。

スピードに乗っていたし、全身を大きく見せていた。彼女としては今シーズン一番の会心の出来だったと思う。最後の舞台で

それをできた事が、大きな喜びになったのだと思う。

 

SPノーミスの高得点を生かせず、FSのジャンプ・ミスでメダルを逃したグレイシー・ゴールド(4位/米・20歳)。
リバーシブル衣装の赤と黒・赤の髪飾りと金髪が、気品の中にもドッキリ感を醸し出してGood! だった。


ほぼノーミスの演技ながらジャンプの切れが今一つでメダルに届かなかったエレーナ・ラジオノワ(6位/ロ・17歳)


ハイレベルの戦いの中でやや緊張気味だった宮原知子(5位/日・18歳)、さらなる成長を期待したい。


女子フィギュアスケートの世界はまことに盛衰が激しい。特にロシア選手では、2年前のソチオリンピック・金メダリストの

アデリナ・ソトニコワは、1年休養の後今シーズンは低迷しているし、同じソチで活躍したユリア・リプニツカヤもここ2シー

ズンぱっとしない。昨年の世界選手権を制したエリザベータ・トゥクタミシェワも、昨シーズンの活躍がウソのように沈んで

しまった。私は彼女のバネのある体躯から繰り出す妖艶な演技のファンなのだが、また来シーズンの復活を期待したい。

こうした浮き沈みは、ハイレベルな演技が身体への負担や故障を加速させている面もあるが、一方で競技選手が増えた

ことで、ジュニア時代からの競争が激しくなっている面もあるだろう。その中で、今回6位に入賞したエレーナ・ラジオノワ

は、身長が10㎝以上伸びつつも第一線で活躍しているし、今回SPで1位に着けながらFSは硬くなったのかジャンプ

のミスで表彰台を逃したグレイシー・ゴールド(4位)は、来シーズン挽回を期してくるだろうし、日本の宮原知子(5位)も、

ジャンプの種類を増やしコンビネーションにも挑戦してくるだろう。来シーズンのフィギュアスケートが、技術面でも表現

面でも、さらに高度で質の良い競技となるのを期待したいと思う。

<この項つづく>


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