2016年4月20日水曜日

高尾のサクラ保存林では、珍しいサクラが沢山見られた。




一山中に沢山の種類のサクラが植えられ保存されている多摩森林科学園・サクラ保存林、広大な敷地内を歩いて
見学できる遊歩道が巡らされていた。 All Photo by TAKA



京王線高尾駅から徒歩10分に位置する多摩森林科学園は、「国立研究開発法人・森林総合研究所」という厳めしい冠名が

つく施設だが、簡単に言えば、日本全国の桜を集めた「桜品種保存林」なのだ。その多くは、日本の主要のサクラの栽培品種

や天然記念物のクローン(挿し木や接ぎ木)であり、約500種(1,400本)が植えられている、と見学案内に載せられていた。

日本のサクラの代表品種「ソメイヨシノ」は、江戸末期に一本の原木からクローンが作られ、「染井吉野」と命名されてから

(明治33年/1900年)以降116年間にそのクローンを全国津々浦々にまで植樹して広げたという世界でも類がないサクラの

蔓延だが、そのおかげで個体の性質もそっくりなサクラの開花が、日本列島を北上するという゛サクラ前線゛なる言葉まで誕生

している。



『鬱金(ウコン)』:サトザクラの栽培品種(ヤマサクラ×オオシマサクラ)、明治時代の荒川土手で栽培されていた。
大輪・八重咲きで開花期は薄黄色を帯びた花色、満開から散る間際には赤みが強くなり、他の里桜との区別は
つかなくなる。名前は、淡い黄色の花色から、ショウガ科のウコン(ターメリック)に由来する。




満開時のウコン、淡黄色が飛んでしまう。


日本人の桜好きはソメイヨシノを代表格とするが、サクラには早咲き・四季咲き・枝垂れ・里サクラなど多くの品種がある。私

自身も、早咲の「寒桜」やソメイヨシノに先駆けて咲く「枝垂れサクラ」、そして全国各地に残る樹齢数百年~千数百年の古木

(その多くはエドヒガンかエドヒガン系の枝垂れサクラ)、あるいはソメイヨシノが散った後に花開く山桜・里桜(多くは八重系)を

楽しんできている。最近は、桜名所の混雑ぶりを敬遠して、人混みの中での桜見物は遠慮しているのだが、つい先日は皇居

の桜を見に出かけてしまった(ほとんど野次馬根性です!)。以前から、高尾のサクラ保存林のことは知っていたが、今回ふと

思い立って、健康オタクのYKさんを誘って出かけてみた。





『佐野の桐ケ谷』:京都の佐野造園(創業天保3年、代々御室御所に植木職人として仕え、明治期からは造園業を営む老舗)
が伝えるサトザクラ、一枝のなかに一重と八重が交り咲く、という。名前に諸説ありというが(鎌倉の桐ケ谷が発祥の地、とか、
天皇が御車を返してまで見たことから゛御車返し゛の別名゛あり、とか)、一重と八重の交り咲きは遠方からの眺めで判然としなかった。


佐野造園のHPを覗いてみたら、当主は代々桜守として著名な『佐野藤枝門』を継承し現在16代目(全国の桜守としての活動

は14代目から)、造園業の社名は「植藤造園」とある。自宅の広大な庭園に植樹している約200種のサクラを開花期に一般

開放しており、多くの種類が見学可能な知る人ぞ知るの桜名所なのだ。個人宅の善意で公開されているサクラなので、観光地

の様にはいかないが、機会があったら一度ぜひ訪れてみたいものだ。その佐野藤右衛門作出のサクラがここの保存林に何本

あり、珍しい枝垂れ桜も見ることができた。




満開の『佐野の八重紅枝垂れ』、やや濃い薄紅色の小振りな花がびっしりと付いて見栄えがあった。




可憐ながらも気品を漂わす花びらの連なり、やはり京都地で伝えられてきた高貴なDNAが感じられる。




山の坂道を登ったり、尾根道をぐるっと回ったりしながら、色々なサクラを見て廻ったが、種類の解説や出目なども詳細に案内板

に記されており、読んでみるのもなかなか面白かった。その中に、『牧野日本植物図鑑増補』に画工として植物画を提供して

いる「川崎哲也」氏の創りだしたサクラが数種あり、彼は桜研究家として書籍も何冊か残している(『日本の桜・増補改訂版』等)。

このことは、後から調べて分かったのだが、名前の『飴玉桜(アメダマサクラ)』には、ちょっとびっくりした。とても可愛らしいサクラ

なので、見て思わず微笑んでしまいそうな花姿だが、名前を知って「え~! 何このサクラ~!」と思わず言ってしまった。




川崎哲也氏発見の『飴玉桜』、神奈川県真鶴半島で見つけたとのこと。蕾の形がまん丸に近いののが命名の由来らしい。
マメサクラ×オオシマサクラの交雑種



『薄重大島(ウスガサネオオシマ)』、小振りな花弁だが半八重(5~10枚)の栽培品種、牧野富太郎により真鶴半島で
発見された。鋸歯状の花は、多くのオオシマサクラ品種と同様に、葉と同時に展開する。




多種植えられたサクラ樹の中には、台風の影響で倒れたり、害虫や病気で朽ちてしまった樹も少なからずあった。実生

(種から実を出して成長する、従がって個体のDNAは継承される)と違って、挿し木や接ぎ木による一代限りのサクラは、

本質的に脆弱性を持っているのかもしれない。日本各地のソメイヨシノが枯れる現象に対し「60年寿命説」も言われている

が、100年を超える寿命を生き続けているソメイヨシノの存在も伝えられている。桜守たちは、根の大切さを訴え、古木の

周辺を保護したり、また、古木のとなりに若い苗木を植樹してクローン・サクラの継承を促したりしているが、サクラを愛で

続けるためには、多くの人たちのそういった努力が欠かせないことを理解することが必要だと思う。私の住む建物の周りに

植えられている4本のサクラ(50年以上の古木)も、毎年素晴らしい花を開いて楽しませてくれるので、わざわざ桜(ソメイヨシノ)

見物出かけるのも最近は意欲が少々落ちたが、日本各地にはまだまだ沢山の種類のサクラがあるので、また来年のサクラ

の時期を楽しみにしたいと思う。すでに緑の葉が拡がり、新緑の季節に移りつつあるが、今回サクラ保存林を見られたのは

とてもいい機会だったと感じているのだ。




イロハモミジの新葉が拡がり、明るい陽射しを浴びて初夏の到来を告げていた。



ヤマブキの黄色花も、光り輝いていた。


<付記>この日は快晴に恵まれ、明るい陽射しは初夏を思わせる温かさがあったが、1時間半程の山歩きの後は、翌日身体も
 
軽く感じられ血行が良くなったように感じた。車での往復中、高尾駅周辺で2度(往きと帰りに)信号で長時間止められたこと
 
があった。サイレンを鳴らす警察車両と黒塗り高級車が何台か通過していったが、あれは近くの多摩御陵で、皇室関係の式典
 
があったのだろうと二人でうわさした。そのとばっちりで、高尾山口で美味しいお蕎麦を食べる気力も失せて帰途についたが、
 
町田街道脇にうどん屋を見つけて遅い昼食となった。「開都」という屋号だが、良く知っている「かいと」(足踏みの讃岐
 
うどん店)の姉妹店と分かり、腰のしっかりしたうどんを食べて大満足だった。人生苦あれば楽あり、思わぬ幸運も飛び込んで
 
くるものだ。
 

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