2016年4月7日木曜日

フィギュアスケート世界選手権2016より(その2)



男子シングルの表彰台は、ハビエル・フェルナンデス(金/スペ・23歳)、羽生結弦(銀/日・20歳)、金博洋
(ボーヤン・ジン、銅/中・17歳)の3選手だった。 All Photo by Zimbio


今年のフィギュアスケート世界選手権・男子シングルの競技結果は、順当だったと思う。どちらが優勝してもおかしくない二人

は、フェルナンデスの安定性が光った。羽生結弦は、調子のピークをGPS・ファイナル戦に持っていったため、一年の王者

を決める戦いで、体調が万全でなく(左足甲の故障?)また、SPの高得点で優勝を意識して硬くなったか緊張気味で身体が

良く動かなかった。その中で、ボーヤン・ンの健闘とミハイル・コリヤダ(4位/ロ・21歳)の急成長ぶりが光った。



フランク・シナトラのジャズヴォーカルに乗って滑るフェルナンデスは、肩ベルトの粋な男を演じきった。


試合後の選手インタビューで、羽生結弦が同じコーチ(ブライアン・オーサー)の元でトレーニングするフェルナンデス(ライ

バルでもある)を評して゛柔(やわらか)゛と言っていたのが印象的だったが、SPのテーマ曲は『ラ・マラゲーニヤ』、FSは

『野郎どもと女たち』、ともに彼のスケーティングの滑らかさが秀逸だった。とくにFSでは、ジャズのスゥイングに乗って、

軽やかにステップを踏みながら、全てのジャンプをノーミスで成功させた。その中でも、4回転サルコーと3回転トゥ―

ループのコンビネーションは、中継するイギリスTV局の解説者に「羽根の様だ!」と言わしめるほどふわりと舞った。自己

ベストを更新して、FS216.41/合計314.93という得点も素晴らしかったが、世界選手権2連覇という偉業は、近年では

エフゲニー・プルシェンコ(ロ・3回)、パトリック・チャン(カ・3回)に迫る記録なので、どこまで彼の時代が続くかは見物だ。



試合後のKiss and Cryで、コーチのB.オーサーと話なが悔しさをむき出しにする羽生結弦


昨年12月のGPSファイナル戦(スペイン・バルセロナ)で、合計得点330.43という途轍もない記録を打ち出した羽生にとって

今回SP1位の結果は、再び『異次元の世界』に挑むステップかと誰もが期待を抱いただろう。しかし、運命の女神は微笑

まなかった。フェルナンデスも、足に故障を抱えながらの演技だったが、羽生にとっても4回転ジャンプや、それを入れたコン

ビネーションを多用することで、軸足への負担が増していたのだと思う。フィギュア・スケーターにとって、高難度の技術に

挑戦し続けることは、さほどに身体への負担が厳しくなっているのだろう。それは体操競技など多くのスポーツに共通のこと

で、進化し続ける身体表現技術の際限は、当分止まないだろう。いやはやアスリートにとっても大変な時代になったものだ。

縮緬ジャコをたくさん食べて、骨強化に取り組まねばならないだろう(おバカを言っていますが...)! FSのテーマ曲『SEIMEI』
 
も、陰陽師という稀有な日本的な世界観に取り組んだことは評価できるが、身体表現が伴わなければその「絶対的イメージ」は
 
崩れてしまう。勝負にこだわることは大事だが、もっとリラックスして楽しい世界観にも挑んでみたらより軽やかに滑れるの
 
ではないかと私は思うのだが...しかし当分の間、ライバル同志の凌ぎあいが続くだろうから、また来シーズンの戦いを楽しみ
 
としたい。


3種類・4度の4回転ジャンプに挑戦したボーヤン・ジン、まだ粗削りだが表彰台に立ったのは立派のひとこと。


ペアダンスに強い中国から、今年は男子シングルで初めて表彰台に立ったのがボーヤン・ジン、宇野昌磨(7位/日・18歳)と

ジュニア時代から良きライバルとして戦ってきた選手だ。女子女王のメドベジェワもそうだが、新採点ルールで育ってきた

若手選手達は果敢に高難度のジャンプに挑戦する。それが高得点を得られる道だから。そして、ステップやスピンの表現力も

身に付けられれば鬼に金棒となる。彼の細い身体に、筋力がついて来ると、これからもトップを脅かす存在になる可能性

だ思う。


ノーマークでダークホースとなったミハイル・コリヤダ(4位/ロ・21歳)、ノーミスジャンプとスピンの素晴らしさで
入賞を果たした。



往年のチャンピオン・パトリックチャンも、ジャンプにミスが出て(カ・25歳)5位に沈んだ。




ベテランのアダムリッポン(米/6位・26歳)は健闘して入賞、FS『ビートルズ・ナンバー』は会場を沸かせた。
「コスチューム大賞男子部門」(TAKAの勝手)は彼に贈りたい。紫色の衣装と紋章風のアクセサリーが素敵だった。


フィギュアスケートの楽しさは、滑走技術のもさることながらテーマ曲の世界観の表現という芸術性(あるいはエンターティ

メント性)にもある。そういう観点では、男子優勝のフェルナンデスの「ふてぶてしさ」というか「いい加減な兄ちゃん」の

雰囲気を醸し出した身体表現は光っていた。F.シナトラの唄と「ジゴロ風」な彼の仕草はぴったりだった。スケーティングは、

やはり滑る人のキャラクターも色濃くにじみ出てくる。往年のカロリーナ・コストナー(伊・2012世界選手権・金)の

『ボレロ』、荒川静香の(トリノオリンピック・金)の『トゥーランドット』、遅咲きだった小林明子(2012NHK杯・銀)の

『オー(シルク・ド・ソレイユのテーマ)』など、記憶にいつまでも鮮明に残っているパーフォマンスは、スケーティング技術

と芸術性が見事にハーモニーした瞬間だったと思う。ベテランの選手たち(浅田真央しかり、A.ワグナー・G.ゴールドしかり、

P.チヤンやH.フェルナンデスしかり)には、ぜひそういう「ハーモニー」を見せ続けて欲しいと願うものだ。



フィギュアスケート競技では、ペアダンスとペアの競技に有力な日本選手がいないため、報道やTV中継もシングル競技に

片寄ってしまうが、二人で息の合った表現やアクロバチックなダンスも魅力は大きい。如何せんそれを見られる機会が少ない

のは残念ではある。この記事もシングル競技だけになってしまうが、トップ選手たちの活躍を見てフィギュアスケート競技に

入って来る児童たちも増えているようだ。ジュニア選手の国際舞台での活躍も目立つようになっているので、これからもこの

競技を楽しんでいきたいと思う。音楽世界のテーマををバックボーンにした身体表現技術と芸術性の融合という点では、とても

楽しめるスポーツであることを感じながら、来シーズンの各選手の活躍を期待したい。


<この項終わり>

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