2020年12月30日水曜日

羽生は真の王者 ! 紀平も凄い ! (フィギュアスケート全日本選手権より)


全日本選手権出場のトップ・スケーターたち、画像はフジテレビュー他より。


日本のフィギュアスケート(F.S.)トップ・スケーター達が一堂にに会した「全日本選手権」(12/25~27 長野ビック

ハットにて開催)は、久し振りにF.S.の醍醐味を味わせてくれたハイレベルの戦いとなった。このコロナ禍での開催の

ため選手達の出場もどこまでできるのか危ぶまれたが、感染予防対策をしっかりと行って、海外での練習拠点を持

つ選手達も参加ができたので、世界でもトップレベルにある日本人選手たちが揃うこととなり、ファンにとっても

大きな喜びだった。

各競技種目の結果や表彰台に上った選手達の演技内容については、TV中継やマスコミのニュースなどですでにご承知

の方も多いと思うので、今回はトップスケーたちのテーマ表現 : 自身の滑走技術によってどんな世界観、あるいはト

タル・イメージを伝えようとしたかについて、私なりのコメントを載せてみたいと思う(ごく私的な感想だが . . . )。




彼が信頼する振付師のジェフリー・バトルとは、SNSを通して動きを確認しながら演技を完成させた、と言う。心・技・
体がハイレベルで一つとなり、明確な世界観がすべての人に伝わったと私は感じた。羽生結弦は真の王者だ !


何といっても、羽生結弦(26歳)の演技は圧巻だった。特にフリースタイル(FS)のテーマ曲『天と地と』に乗った

滑走は、ジャンプはノーミスですべてが美しく完璧だった。ステップもスピンもすべてレベル4、力強く流れるよう

に滑らかな時間があっという間に過ぎた(合計点319.36の圧勝)。他の選手達も会場の観客も、TVで見た人たちも

すべてが納得する「真の王者」となった。NHK大河ドラマ『天と地と』(50年以上前の1969年放映、原作:海音寺

潮五郎 音楽:冨田勲)は、戦国時代・川中島の戦いで有名な武田信玄と上杉謙信を描いた物語で、主役の謙信は石坂

浩二主が演じた。民の生活を思い、信じる仏道による義を重んじながらも、武将として戦い続ける謙信に我が身を

重ねた、と羽生は語っていた。東日本大震災で自分自身も被害に逢い、またコロナ禍に翻弄されている自身と日本の

そして世界の人たちに思いを寄せ、それでも競技選手として戦い続ける自身を、戦国武将に重ね合わせたところに、

今滑走する意味合いを明確に見出していた。今回は、B.オーサーコーチの指導も受けられず、孤独な戦いにどん底

を味わったと語っていたが、それをも克服しての競技会参加に、ベテラン選手としてのモチベーションの持ち方レベ

ルが、一つも二つも頭抜けているのを感じた。


平安時代の陰陽師:安倍晴明をテーマにした『SEIMEI』で二度目のオリンピック金メダルを獲得し、その後自身の

スケートの幼年期に憧れた二選手(E.プルシェンコとJ.ウィヤー)の使用したテーマ曲(「Origin」と「秋に寄せて」)

を経て、戦い続ける武将の世界をオーケストラとビワ(琵琶)によるドラマチックな和サウンドで表現した世界に彼は

戻ってきた。冨田勲作曲のメリハリのあるシンセサイザー・サウンドも、壮大で力強かった。FSを滑り終えてか

らも、その謙信の姿が乗り移ったような表情と仕草がしばらく解けなかった。奇しくも会場のビックハットは、すぐ

側に「川中島古戦場跡」が残されている会場であり、偶然を通り越した符牒(ふちょう)の合い方だったのは、驚きでも

あった。



演技終了後に片手をあげて観客に応える紀平梨花、合計点の234,24は、4回転やトリプルアクセル(3A)を駆使する
ロシア3女子選手とも表彰台を争えるハイレベルのスコアだ。そして、物怖じしない度胸と絶やさぬ笑顔も、彼女の
頼もしい武器だと思う。



かたや、長年師事した濱田コーチの元を離れ、スイスでS.ランビエールの指導を受けている(宇野昌磨・島田高志郎・

D.バシリエフス等と共に)紀平梨花(18歳)は、GPS(グランプリ・シリーズ)フランス大会がコロナ禍で中止となった

ため、今シーズン初戦の競技会となった。にもかかわらず、F.S.では4回転サルコー(4S)を演技の冒頭で鮮やかに決め、

観客の度肝を抜いた。出来ばえ点からしてもすでに完成されているジャンプだった。S.ランビエール振付によるテーマ

曲『Baby Good Bless You』(清塚信也作曲のドラマ「コウノドリ」主題歌)は、情感溢れるピアノ曲で、生命の誕生

と神秘を描いたドラマの主題歌だ。原作は講談社漫画大賞を受賞した(2016年)漫画で、作者は鈴の木ユウ。出産とい

う人生の一大事に立ち会う産婦人科医の苦悩と喜びを描いたものだ。そんな世界を、演技全体が流れるように滑らか

な動きで振り付けした彼の手腕は素晴らしいものだった。休む間もない演技の連続に、紀平も「めちゃきつくてぇ~!」

と話していたが、彼女も素晴らしい師を得て、また一段高いステージに成長したのが見られた。


SP(ショート・プログラム)の演技の中で、突然きれいな片手側転を披露したのにはビックリ。あっという間だったが、

観客を楽しませる工夫をこんな演技で盛り込んできたのも成長の表れだろう。




宇野昌磨(23歳)の昨シーズンはコーチ不在という逆境に喘いだが、現在はスイスでS.ランビエールという新指導者
で練習に励んでいる。今回のFSでは、片思いの男性を主人公にしたラブ・バラード曲『Dancing on My Own』の
ピアノ・ヴォーカルがテーマ曲だ。ジャンプに小さなミスはあったが、全体に溌溂として時折笑顔もこぼれる演技で、
スケーティングできる喜びを全身から発散させていた(合計点284.81)。王者羽生という目標を改めて実感し、チャレンジ
始める意欲を強く表現したのも、これからの楽しみだ。振り付けはデヴィット・ウィルソン。




今シーズン、ジュニアからシニアに参戦してきた新鋭:鍵山優真(17歳)はまだ高校生だが、冬季オリンピックに2度出場
した父親・鍵山正和氏をコーチに持つ精鋭だ。GPS・NHK杯優勝の実績を引っ提げて、羽生と宇野両選手に挑んできた
のはなかなか頼もしい限りだ。FSテーマ曲は映画『アバター』より、ドラマチックなサウンドに乗って果敢な演技を
展開したが、ジャンプにミスが2つ出て得点は両選手に及ばなかった(合計点278.79)。しかし、高難度のジャンプを
こなし、ステップ・スピンも加えて全体にバランスが良い。表現力をもっと磨き、演技の精度をめていけば、両選手
の後継者としてのポジションも不可能ではない。将来が楽しみな選手だ。振り付けはローリー・ニコル。




シングル2位(222.17)に輝いた坂本花織(20歳)のSPテーマ曲は、J.S.バッハの『協奏曲ニ短調 アダージョ』。ゆった
りとして情感溢れるピアノ・ソロ曲に乗って滑り始めたが、実はこの曲は私の大好きな曲で、イタリアン・バロック
の名手: A.マルチェルロのオーボエ協奏曲をバッハがピアノ曲に編曲したものだ。流麗なバロック・ナンバーを、坂本
がテーマ曲としてプログラムに取り入れ、後半のジャズ・アレンジ『バッハ・ア・ラ・ジャズ』の軽快なテンポにつなげ
ていったのを見て、彼女の新しい魅力の開花を感じた。振り付けは、ブノワ・リショー。





ベテラン・宮原知子(22歳)も、長年指導を受けた濱田コーチの元を離れ、現在カナダに練習拠点を置いている。FSの
テーマ曲は『トスカ』、歌手トスカの悲劇を描いたJ.プッチーニの有名歌劇ナンバーだ。ジャンプに小さなミスは出たが、
評価の高かったステップ・スピンに乗って、優雅さと激情が交差するドラマ世界を、鮮やかに演じた。スケーターとし
の熟成を観客にアッピールし、SP6位からの逆転で3位表彰台(209.75)は立派だった。振り付けはローリー・ニコル、
現在コーチはリー・バーケル。



< 追記 >

新型コロナウィルスの感染拡大に始まり、いまだ収まることもなく第3波の拡大・混乱の中で今年も暮れようとして

います。ウィルス感染を抑えるための自粛生活もあり、例年に比べブログ掲載数もやや少なくなりました。一日でも

早く感染が収まり、日常生活を取り戻せることを祈りながら、新しい年を迎えたいと思います。このブログを覗いて

頂いている皆様に、改めて御礼するとともに、来る年のご多幸をお祈りして、今年最後の記事としたいと思います。

来年もまたよろしくお願いします。


 

0 件のコメント:

コメントを投稿