2022年6月9日木曜日

驚きの蔵書3万冊! 蓼科親湯温泉(上.信.甲州の初夏旅その3)




蓼科親湯温泉のLiblary Loungeには、単行本・全集・文庫などに収められた文人たちの作品が凡そ3万冊、本棚に
並べられていて自由に読むことが出来る。ソファにゆったりと座って、本の世界を楽しめるのは、稀有のサービスだ。
客室に続く廊下各所にも書棚が配されている。 All Photo by Jovial TAKA




楽天トラベル(旅行のオンライン予約を扱うウェブサイト)が実施調査した「2019年 シニアに人気の温泉地ランキン

グ」(60歳以上の旅行客が、実際に宿泊した施設の人数×宿泊数を集計したもの)によると、蓼科温泉は、全国1位

の嬉野温泉(佐賀県)についでの2位、3位は芹ヶ沢温泉(霧ヶ峰・白樺湖エリア)となっている。そういうデータを

知るのも初めてだが、北八ヶ岳山麓の高原リゾート地蓼科が、かなりシニア層に人気があるのには驚いた。奥蓼科

(渋川に沿った渋温泉・渋辰野館・横谷峡・御射鹿池など)へは、一昨年の秋訪れたことがあり、「信玄の隠し湯」

と言われる泉質を大いに楽しんだが、蓼科湖やロープウェイ、ゴルフ場やホテル・ペンションがある「ビーナス

ライン」側は、どうも俗化され過ぎている印象があって行かず仕舞いでいた。




ロビーに続くラウンジは、四方を書棚の本に囲まれた図書館の様だ。落ち着いたインテリア(椅子やソファ)が、寛い
だ読書の時間を提供してくれる。手前右側はみすずLounge Bar>




蓼科温泉は、蓼科山(2,530m)の南麓を流れ下る滝の湯川に沿って点在する、親湯・滝の湯・小斉の湯・蓼科高原ホ

テルなど6軒の温泉旅館の総称とのこと。ある旅番組(「朝だ、生です旅サラダ」TV朝日)で今年の初め、゛縄文お宅゛

の菊池桃子が諏訪・蓼科を旅したのを偶然に見て、100年以上続く(創業大正15年)老舗の温泉宿を知った。それが

この蓼科親湯(しんゆ)温泉だった。源泉や料理もさることながら、私が興味を抱いたのは Library Lounge の゛

蔵書3万冊゛という、温泉宿とは随分かけ離れたイメージの本収集だった。また、それらを随意にラウンジや部屋

で読めるというのも魅力だった。蓼科温泉の歴史は諸説あるが、江戸時代にはすでに湯治場として近隣住民が訪れ、

大正・昭和にかけては文人達(歌人・小説家・映画人・出版人など)が温泉保養と創作活動・交流の場としてこの温泉

に集ったと言う。宿のHPが紹介するゆかりの文人には、歌人(伊藤佐千夫・島木赤彦・柳原白蓮など)・作家(太宰治)・

映画監督(小津安二郎)などが挙げられているが、「文人」という古き良き時代の呼称を懐かしく思うシニアの方達

も多いのだろう。今時の若い人たちには、すでに縁遠いかもしれないが...




部屋玄関のウェルカム・コーナーのインテリアも洒落ている。バリアフリーの動線(段差のない玄関スロープ、客室
やバス・トイレの手すりなど)と、落ち着いたクラシック・モダンの内装は、かなりクオリティが高い。旅慣れして
いる連れも、「こんな贅沢な部屋は始めて!」と感激していた。全体の印象として、施設の質は高く、値段はこなれ
ている、という印象だった。詳細を知りたい方は、宿の公式HPをご覧いただきたい。かなり内容充実のHPだ。
https://www.tateshina-shinyu.com/



ロビーフロアの蔵書には、その時代に当館主と交流のあった文人たちに係わる書物・全集に加えて、出版人の岩波

茂雄(岩波書店創始者 諏訪市出身)とみすず書房の小尾俊人(創業者の一員 地元茅野市出身)2人の地縁から、「岩波

文庫の回廊」と「みすず Lounge Bar」が設けられている。その他、映画・音楽・美術関連の書物も多く、本好き

の方は連泊して読書にふける方もいるらしい。私は書棚をひょいと覗いていたら、「井伏鱒二自選全集12巻」を見

つけ、補巻に「釣人」(短編)があるので部屋に借りて行って夕食後に読んでみたが、昔読んだ氏の釣り話を思い出

して、とても懐かしかった。



部屋の調度やパジャマ・ガウンなども、上質で心地よいものを用意してあった。Photo by Roco



「井伏鱒二自選全集」(新潮社昭和60年刊)の補巻に載っていた「釣人」(30頁程)は、氏の釣りの師匠だった佐藤
垢石(こうせき エッセイスト・つりジャーナリスト)や、良く通った山梨県の川釣り名人たちとの交流を綴った短編
だ。道具や釣り方・エサやアユ釣りの囮アユなどについての、師匠の技へのこだわりや弟子の習得ぶりを描いた、釣
り文学の好編でとても面白かった。釣り雑誌やYouTube動画など無い時代には、師匠の口伝・技の直伝しか釣り
の上達の道はなかったのだ。井伏氏の釣り弟子は、有名な開高健(小説家・ノンフィクションライター)だが、昭和
の文人たちはすでに皆鬼籍に入ってしまった。



この宿には午後早目に着きチェックインしたのだが、駐車場もロビーも結構混んでいた。後で解ったことなのだが、

マイクロ・ツーリズム(近場旅行)に力を入れている行政の推しで、「県民割」(1人1泊5,000円割引き+地域

クーポン2,000円)とか、宿の用意する「ワクチンクーポン優待10%OFF+館内2,000円利用券付き 平日限定」など

の豊富なプランが用意されている。シニア層だけでなく若いカップルやファミリーも多く、ちょっと意外だったが、

この宿に泊まって温泉に入り食事を楽しんでみたら、これはかなりリピーターが多いな、と感じた。源泉かけ流し

の大湯・露天風呂・貸切露天風呂・女性専用露天風呂など、温泉も種々揃っていて、泉質が弱酸性の単純温泉と言

う柔らかな肌当たりがとても良かった。混雑を避けたいと思い、大湯(座敷温泉)と外続きの露天風呂しか入らなか

ったが、十分満足した。他の露天風呂などは、またの楽しみとしたい。



大湯はお座敷風呂と呼ばれ、湯船手前の洗い場は全て特殊な素材で作られた畳状の床で、ふかふかと足に心地よく、
座ってもしっとりとしている。(画面右側)



夕方でも明るい露天風呂の先には、滝の湯川の流れと新緑の樹木が広がっている。渓流を渡ってくる風はいかにも
涼しい。温泉の画像2点は宿のHPより。


食事は、「宴どころ みすずかり」の個室が用意されていて、夕・朝食ともそこで食した。連れは Nagano Wine の

白を、私は諏訪の地酒「舞姫翠露」を飲みながら、当宿推しの゛和フレンチ゛を味わった。地元の食材を使った調

味にもシェフの創意工夫が感じられ、お皿や盛り付けも見た目に心地よく、何よりもそれぞれの量がほどほどで良

かった。また、温泉旅館によくあるやたら多いメニューとボリュウムは、もうこの年になると食べ切れなくて困る

のだが、その点でも客層のことをよく考えられていた。給仕してくれた若い女性スタッフの勧めで、ご飯ものは

「蓼科スープカレー」にしたのだが、これがなかなか美味しかった。若い従業員たちの推しでこのメニューが実現

したのだが、当初はシェフが「とんでもない!」と怒って反対したとか。今では、当宿随一の人気メニューとなって

いるようだ。感染対策も徹底していて、安心して食事ができた



「蓼科 山キュイジーヌ 春」の夕食メニュー(画像はHPより)、下にお品書きを載せておきます。







「蓼科 山ごはん」の朝食、峰岡豆腐のおぼろ豆腐とイワナの一夜干しが美味だった。野菜はサラダバーで。




日本映画を代表する映画監督の一人「小津安二郎」は、晩年の創作活動の拠点として蓼科に仕事場を移し、脚本家

の野田高悟と共にシナリオを執筆し作品の構想を練ったという。無藝荘(むげいそう)と名付けられた仕事場兼もて

なし館での暮しは、本人著の「蓼科日記抄」に記されており、度々訪れた親湯温泉の記述が、十数ヶ所あると言

う。ロビーの一角には、小津監督作品の「彼岸花」(1958年制作・松竹公開)を上映した「蓼科高原映画祭」(2019年)

の紹介資料が展示されていた。蓼科は市民文化度がなかなか高いのだ。


温泉宿泊施設としてのこの宿のレベルは総合的に高く、滞在中に部屋の設備や従業員のサービスについても、何か

不都合を感じることがほとんどなかった。強いて言えば、部屋に備わっていた珈琲サーバーの「エスプレッソ・マ

シーン」(イタリア製?)の使い方が良くわからず、連れも面倒くさいと一瞬戸惑ったが、取説を見ながらやってみた

らおいしいコーヒーが飲めたこと。そして、ガラス張りのシャワールームを私が使ってみたら、外国製(らしき)の

大きなシャワーヘッドに戸惑ったが、温水の勢いがしっかりしていて気持ち良く使えたことぐらいかなと思う。HP

でも紹介されていたが、経営に係わる事故(2011年にガス爆発事故・2018年に食中毒事故)を起こした後、2019年に

全館リニューアル(バリアフリー・ユニバーサルデザインに改装、客室の内装一新・部屋タイプのバリエーション差

別化など)をするとともに、コロナ感染対策や従業員のサービス体制強化を計ったことが、訪問客の好評化に繋がっ

ているように思う。私達はここへ初めて訪れてみたが、このレベルを維持していただいて、また遊びに来られるよう

にして欲しいのが願いだ。


<この項つづく>



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