2012年4月1日日曜日

2012年・世界フィギュアスケート選手権から(その1、男子シングル)


フランス・ニースで開催されていたフィギュアスケートの世界選手権は、男子シングルの決勝が行われ、パトリック・チャンが優勝した(3/31)。今年の競技は、技術面でも内容面でもかなりハイレベルの戦いが続き、フリー競技後半では1回毎にトップが入れ替わるような熾烈なものであった。羽生結弦の大健闘と高橋大輔のフリー・ノーミスの演技で、日本人二人が表彰台に上ったのも、かってない好成績だった。往年の選手:ライザチェック(米)やプルシェンコ(ロ)、B.ジュベール(仏)など、長身で大柄な選手達がパワフルでダイナミックな演技を見せて競技を戦っていた時代からすると、いまの選手達は小柄で見映えに乏しい面があり、最近はあまり男子スケートには興味が湧かなかった私も、今回はスリリングで高度な技術の戦いに大いに惹きつけられた。例によって、ここに乗せた画像は、インターネットのサイト:zimbio からの転載であることをお断りして置く。
4回転ジャンプを、今回のように各選手たちが飛び、それも1回だけでなく2回もプログラムに組み込まれるような時代を誰が予測しただろうか?  その先鞭をつけたP.チャン(金メダル・カナダ)は、最終順番でそつのない滑りを見せ、4回転ジャンプを2度見事に決め(トウループとアクセル)、最後のジャンプ(3アクセル)で転倒したものの、ショートの好成績に助けられ金メダルを得た。テーマ曲は『アラフェンス協奏曲』、クラシックとフラメンコのギターサウンドに乗った手堅い滑走だった。バネのあるジャンプとバランスの取れたスピン・ステップの演技で、当分高橋大輔とのライバル争いが続くような気がする。









片や、高橋大輔(銀メダル・日本)のフリー演技はパーフェクトだった。4回転ジャンプを入れたすべてのジャンプを成功させ、コンビネーション・スピンもステップも抜群だった。観客を引きずり込むような彼の世界が実現できていた。テーマ曲の『Blues for Klock』も素晴らしいサウンドだった! エレキGt のソロというとても珍しいタイプ、独創的でパワーのある音に乗せて滑るのは高度な技術を要すると思うが、彼はそれを物にして自分の世界を作った。とてもオリジナリティの高いパーフォマンスだった。フリーの演技を見ただけでは、彼の優勝が決まったかに見えたが、ショートの小さなミスが最後まで響いてしまった。ただ、二人ともに、弦撥楽器(ギター)をメインにしたテーマ曲であったことに共通点を見て、何故か納得してしまった。
17歳高校生の羽生結弦(銅メダル・日本)の大活躍には私もびっくり! 自らも東北大震災の被害に会い、被災地応援のため心に期するものがあったとはいえ、世界選手権という舞台で結果を残すのは並大抵のことではない。この日の彼のスケートは、徹底的に゛攻め゛のスケートだった。4回転ジャンプもスピンもスパイラルも、激しく魂が込められていた気がする。映画音楽・『ロメオとジュリエット』のドラマチックなメロディに乗って、アグレッシブに踊った。競技が終わった時のガッツポーズと、一瞬後に手で顔を覆って涙をこらえた表情に、私は感激した。フリーの点数は、高橋大輔をわずかに上回る173.99だったのも素晴らしかった。



往年の名選手がまだ第一線で活躍している。ブライアン・ジュベール(仏)は2007年の世界選手権チャンピオン、同時期にライバルだったライザチェックもプルシェンコも、今は競技からは引退してプロスケーターとなっているが、27歳の彼が4回転ジャンプを軽々と跳ぶのを見られたのは頼もしい限りだ。ショートもノーミス、映画音楽の『マトリックス』(ピアノ曲)に乗って滑ったフリー演技も、緩・急のメリハリがあって良かった。4回転ジャンプもステップも申し分なく、黒皮のジャンプスーツに包まれた身のこなしも迫力があった。しかし、点数が伸びなかった。ウ~ン、なんだろう? ...やはり、スピード感だろうか。P.チャンや高橋大輔が゛アレグロ゛で演技しているのに、彼は゛モデラート゛の速さだったみたいな。
一方、フランス生まれのサムュエル・コンテスティ(伊)は、ピンクストライプのシャツとサスペンダー・パンツという出で立ちで、母国のシャンソン『ばら色の人生・他』がテーマ曲だった。アコーデオンの柔らかな音色とワルツの3拍子に乗って滑ったのも珍しかった。4回転ジャンプや複雑なステップはほとんどなく、活き活きとした表情とコミカルな仕草で、最後まで滑り通した。ハイテクなスケーティングが主流の昨今だが、こういう、お国柄や民族性を感じさせるスケーティングも良いなと思う
ショート4位で、表彰台を期待された地元フランスのフローラン・アモディオは、S.タミアニの『ソブラルの思いで』に乗って滑った。4回転ジャンプを成功させ、ステップもモダンダンスのような動きの早い足捌きだった。途中から曲がサンバのリズムに変わり、さらに複雑でダイナミックなステップになったのには驚いた。聞けば、彼はブラジル生まれとのこと、フィギュアにサンバのリズムというのも彼が初めてかも知れない。結果はトリプル・アクセルの失敗が響いて点数が伸びず5位に終わったが、観客を大いに沸かせて盛大な拍手をもらった。
今回の世界選手権では、アメリカ勢(アダム・リッポンやジェルミー・アボット等)とロシア勢(アルチュール・ガチンスキーやセルゲイ・ボロノフ等)が振るわず、カナダ・日本・フランス勢の活躍が目立った。しかし、゛スポーツの祭典゛と言われるオリンピックと同じ精神が感じられ、多様な民族の多様な文化をベースにしたフィギュア・スケートの演技が見られたのは楽しかった。スポーツとしての競技技術はもちろんのことであるが、そのパフォーマンスに占める音楽的要素のウェイトはかなり高い。どんなテーマで、どんなメロディとリズムに乗って演技を見せてくれるのかは、これからも大きな期待を集め続けると思う。かくいう私もその期待を持ちつつ、フィギュア・スケートを楽しんで行きたい。


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