2012年4月3日火曜日

2012・世界フィギュアスケート世界選手権から(その2.女子シングル)

表彰台に上ったコストナー・レオノア・鈴木明子の3選手 All Photo by Zimbio
テレビ放映でフィギュア・スケートを見ていると、カメラのクローズアップで選手達の演技がよく見える反面、実際のスピード感は解かりにくい。私は何度か代々木や新横浜のリンクで競技を見ているが、広いリンクを隅から隅まで滑走する選手のスピードは大変なものだ(時速何キロに相当するか詳しくないが)。その圧倒的なスピードに乗って、ジャンプやスピン・ステップ演技を披露する選手達は、踏み切りや空中姿勢・着地など、1秒の何分の一かのタイミングがずれるとバランスが崩れてしまう。着地に失敗して転倒したり、空中姿勢が崩れたり、踏切が早すぎたり遅すぎたり...課題となる各スケート技術を構成(コンポーネント)しながら、デリケートなバランスを維持しつつ約4分間を戦わなければならない。
一流のスポーツ選手は、「心・技・体」のバランスに優れている、ということをよく聞くが、日本期待の浅田真央(マスコミの騒ぎ過ぎもあるが)は、緊張から来る゛脱力状態゛かあるいは、精神面の集中を欠いたか、課題のジャンプの多くを失敗し沈んだ。村上佳奈子も、ショートは元気溢れるはつらつとした演技で2位につける好成績だったが、フリーは緊張のためか身体の動きが硬く、ギクシャクした動きでジャンプの失敗が続いた。
その中で、今回で世界選手権10回目出場のベテラン:カロリーナ・コストナー(金メダル・伊)は、ショート・フリーとも安定した演技を観客に披露した。フリーの演技に入る直前の彼女は、実に落ち着いたいい表情をしていて、余裕と自信を感じさせるものだった。この左利きのスケーターのファンである私も、彼女の優勝を予感した。彼女のテーマ曲は、モーツァルトの『ピアノ協奏曲・27番イ単調』、ヨーロッパの古典的伝統を漂わすピアノ曲に乗って、スピード抜群の高さのあるジャンプを次々と決めノーミスで演技を終了した。指の先々まで行き届いた感情表現、演技と演技をつなぐ゛間゛の優雅さ、観客の声援と拍手に一体化したパフォーマンス...それはフィギュア・スケートという競技をベースにした「芸」の表現であり、「心・技・体」の素晴らしいバランスを基にした「美」の獲得だったと思う。
左:[ショートの『ピアノ三重奏曲第2番』(ショスタコヴィッチ)に乗っての優雅なスピン]
一方、ショート1位のアリョーナ・レオノア(銀メダル・露)は、『弦楽のためのアダージョ』(サムュエル・バーバー)がテーマ曲、ドラマチックな弦の響きに乗せ、力強く滑った。ジャンプに小さなミスがひとつ出たが、他はほぼノーミスの演技だった。しかし、優勝を意識したか、身体の動きがやや硬く力が入りすぎていたかに私には見えた。表情も硬かった。体型や顔かたちからして゛ファニー゛な彼女には、ショートの演技のように、コミカルでパワフルな動きが合っていると私は思うのだが、正統的で厳粛なメロディに挑戦した心意気は認めたい。
[左:ショートで披露した『パイレーツ・オブ・カリビアン』の海賊衣装のレオノア]


遅咲きの花゛鈴木明子(銅メダル・日本)は、観客と一体となって演技したい、という希望をかなえた。オーケストラによる『こうもり序曲』(ヨハン・シュトラウス2世)のテーマ曲に乗って、観客の声援と拍手を受けながら笑顔で演技した。小柄な身体の切れもよく、快活できびきびした印象はステップにもよく現れていた。摂食障害や途中ブランクを乗り越えた27歳のベテラン選手は、ここ3年間程の競技会で安定した成績を残し、フィギュア・スケートの楽しさを身体いっぱいで表現しながら、世界選手権銅メダルの栄誉に輝いた。決して恵まれた体型ではないが、彼女のこれまでの努力と精進には敬意を表したい。
アメリカ勢が振るわぬ中、一人気を吐いたアシュリー・ワグナー(米・4位)は、映画『ブラック・スワン』の怪しくもドラマチックな曲に乗って滑った。跳躍力抜群の身体の切れもよくすべてのジャンプを成功させ波に乗った。ノーミスで演技をまとめた彼女は、リンクの上でガッツ・ポーズを決めた。フリーの得点は、120.35で3位、ショート8位の出遅れが悔やまれたと思う。
ここ数年、グランプリシリーズや世界選手権でトップクラスに居たアリッサ・シズニー(米)が足の故障で振るわぬ今、アメリカを代表する選手として着々と実力を付けて来ている彼女を見るとこれからのワグナーは期待出来る。



今回の世界選手権でひとつ気になったことがあった。それは、演技後に選手が得点発表を待つ場所:゛キスand クライ゛に選手と一緒に登場するコーチ(と振付師)のことである。特に、佐藤有香と夫のジェイソン・ダンジェンの二人。共にスケーターとしての輝かしい成績を残した後プロとなり、現在、アリッサ・シズニー(米)、アダム・リッポン(米)、ジェルミー・アボット(米)、小塚嵩彦(日)、今井遥(日)、ヴァレンチノ・マルケイ(伊)等、錚々たる選手のコーチや振り付けを担当し、一流選手に育てていることに目を見張らされた。フィギュア・スケートが、スケーティング(滑走運動)の技術を競うというスポーツ種目から、テーマのある音楽に乗って感情表現やエンターテイメント(娯楽性)を表現するパーフォマンス(演技)により拡がって行く現状と今後を考えると、技術指導をするコーチと演技指導をする振付師の重要性は、ますます高くなっていくと思う。そして、個性溢れる選手の演技をこれからも楽しめることを大いに期待したいと思う。
佐藤有香とジェイソン・ダンジェンお二人へのインタビュー記事があったので、興味のある方は覗いてみてください。(この項終わり)
http://toramomo.exblog.jp/17257293/

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