2019年3月26日火曜日

ネイサン・チェンこそが絶対王者だったー2019Fフィギュアスケート世界選手権より(その1.)




今年のF.スケート世界選手権男子シングル表彰台は、ネイサン・チェン(金.米19歳)、羽生結弦(銀.日24歳)、ヴィン
セント・ゾウ(銅.米18歳)の3人だった。GPS(グランプリシリーズ)で2勝し(アメリカ杯・フランス杯)、全米選手権を
制して好調を維持してきたN.チェンの今選手権成績結果は、SP:107.40+FS:216.02 計323.42という驚異的なレコ
だった。これには、゛絶対王者゛と言われて来た羽生結弦も敵わなかった。画像はISUのHPより。



男子シングルの試合予想では、羽生結弦・N.チェン・宇野昌磨3者の゛三つ巴戦゛に、金博洋(中21歳)・ミハイルコリ

ヤダ(ロ24歳)・ジェイソンブラウン(米24歳)等がどう割って入って来るかと私は思っていたが、終わってみれば、N.

チェンの圧勝だった。今年初めの全米選手権を合計点342.22という信じがたい成績(国際大会でないので未承認)で優勝

し、学業優先のため(エール大学在中)四大陸選手権を回避してこの大会に出場してきた彼の成績(全米~)は、国内大会

にありがちな甘いジャッヂかとも思われた。しかし、今大会のSP(ショートプログラム)・FS(フリースタイル)での彼

の演技は、全米選手権のプログラムとほとんど同じで、「Land of ALL」のゆったりとしたテーマ曲に乗ってジャンプ・

ステップ・スピンのすべての演技で、ノーミスだった。特に4本組み込んだ4回転ジャンプは、跳び上がり・空中姿勢・

着地ともにすべてほぼ完ぺきだった。冒頭の4Lz(ルッツ)はGOE(出来栄え点)で満点近い4.76、4T(トゥループ)が3.37、

4T+3TのCo(コンビネーション)が3.37という高評価は、単なる゛4回転ジャンパー゛と見られていた彼が、新評価基準

(一つ一つの演技の正確性・芸術性を重視する)に則って、ジャンプの質と正確性を徹底的に磨き上げてきた結果だった

と思う。



平昌オリンピックの不調(5位)を除けば、ここ2シーズン負けなしの彼は、F.スケート選手としても全盛期を迎えている
ように見える。パトリック・チャンがそうだったように、ハビエル・フェルナンデスがそうであったように、恐らく
ここ2~3シーズンは彼の天下が続きそうだ。羽生結弦が称されたような゛絶対゛王者ということは永遠には続か
ないのが世の習い。必ず、その存在を脅かす次の王者が生まれて来るのだ



昨年のGPS戦での右足首故障から今大会への出場まで、約4ケ月間のブランクがあったわけだが、SPのジャンプ失敗

(4S.サルコウ)を除けば、羽生の演技もほぼ完ぺきだった。成績合計点300.97の300点越えは、一瞬とは言え彼の優勝

を確信した方も多かったと思う。特にFSの演技は、まさに゛魂を貫く゛演技だったと、観客誰もが感動し歓喜した

と思う。強い王者が帰ってきた! という歓声が、会場のさいたまスーパーアリーナを覆った。

オリンピック2連覇・世界選手権2回優勝・GPファイナル戦4回優勝の羽生結弦にとって、主要タイトルはすべて獲得

してしまった。最近の彼のコメントでも、「ライバルは自分自身だ」、あるいは「越えるべき対象は自分」と表現

してきた。マスコミは彼を゛絶対王者゛と称してきたが、タイトルを得た代償として彼は何度も身体の故障を経験し

てきている。さほどにこのフィギュアスケートという競技は、身体への負担が大きいのだ。そうして自らの故障と

闘っているうちに、ライバルはすぐ足元にまで迫って来ていた。会場に包まれる興奮の余韻の中で登場したN.チェン

は、冷静に演技に入り終始落ち着いていた。全ての演技をノーミスで決めた後の得点結果は、今シーズンのレコードと

なる高得点で、20点以上の差であっさりと羽生を引き離した。今後羽生は、N.チェンをライバルとして凌ぎあってい

くのか? それが実現すれば、過去アレクセイ・ヤグディンとエフゲニー・プルシェンコのように、また、羽生結弦と

H.フェルナンデスのように、良きライバルとして一時代を築ける可能性は大だ。ただ、蓄積された疲労と身体故障を

今後どう乗り越えていけるのかも、彼にとっての大きな課題だと言えよう。




来シーズンは、完全に休養するか、または試合数を絞って調整しながら出場するか、競技生活を続けるならば思い
切った方法を取るのも選択肢だと思うが...羽生結弦よ、さあどうするのか?




゛4回転ジャンパー゛と言われて来たⅤ.ゾウも、ジャンプの精度と質を磨いて表彰台に上った。FS冒頭のジャンプは
最高難度の4Lz+3TのCo、GOE3.94の評価は素晴らしかった。4SもGOE3.19と成功、今後の課題はPC(プログラム
・コンポ―ネント)の8点台を上げていくことだろう。現在18歳の彼には、まだまだ伸び代がある。



さて、期待された宇野昌磨だったが、FSで2本の4回転ジャンプ失敗(4Sと4Fフリップ)で4位に終わった。強豪2者(羽生

とチェン)と同じ土俵で、如何に戦って勝てるか? 今大会はその試金石だったが、技術面・メンタル面ともにもう一皮

むけて、真の挑戦者とならねば世界選手権での優勝は叶わないだろう。また、SPで課題の3A(アクセル)を決めて2位に

立ったジェイソン・ブラウン(米24歳)も、FSでは4Sと3Aの失敗により9位に終わった。B.オーサーコーチの元で、如何

にジャンプに磨きをかけるかが今後の課題だろう。彼の芸術的なスケーティングを高く評価する方は多いが(かく言う

私もそう)、彼の進化にこれからも注目したいと思う。金博洋とM.コリヤダも、FSでは元気な滑りを見せてくれたので、

なかなか良かった。しかし終わってみれば、M.コリヤダ(ロシア)を除いて、日本を含むアジア勢とアジア系の選手が、表

彰台と入賞を占めた。この競技は、体格のスリムなアジア系選手に向いているのかもしれない。とにかく、トップ2の

凌ぎあいとそれに続く各選手の演技に迫力があり、とても高レベルで内容の濃い世界選手権だった。それらを大いに

楽しめたのは、F.スケートファン冥利に尽きる。


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